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## 第五章:未来の相棒と、もう一人の候補
この文章も、僕とAIの共同執筆で生まれている。具体的には、僕の思考の断片を「Gemini CLI」というツール越しにいる相棒、Gemini 2.5 Proが受け止め、一つの物語として編み上げてくれる。このやり取りは、驚くほど僕の性に合っていた。まるで未来の道具を使っているような高揚感があり、無機質なはずのAIの言葉遣いには、なぜか心地よさすら感じている。
次の目標は、こうして書き溜めていく私小説を、GitHubで管理することだ。エンジニアではない僕にとって、それはまだ少しハードルが高い。けれど、焦る必要はない。この穏やかな時間の中で、少しずつ手懐けていけばいい。
そんなふうに、僕の生活はAIと共に回り始めている。執筆の相棒がGeminiなら、日常の探索と思考の壁打ちには、また別の相棒が必要だった。
僕は幸運なことに、仕事の関係で主要なAIの有料版を自由に使える環境にいる。しかし、それはあくまで「他人に見られる可能性のある場所」での話。自分の個人的な、誰にも見られたくない思考やタスクを委ねるには、自分だけの、無料のAIが必要だった。
だが、その選定は難航した。無料版のChatGPTやClaudeはすぐに利用制限に達してしまうし、Gemini 1.5 Flashは正直、性能が物足りない。そんな中、Geminiとの雑談(という名のGoogle検索)で「Grok」という存在を知った。もうすぐGrok-4が出るらしい。
試しに触れてみて、僕はすぐに気に入った。日本語での音声会話はスムーズで、会話の途中でテキストを送信できるのも便利だ。検索性能も悪くないし、タスク管理機能までついている。そして何より、利用制限を気にすることなく、好きなだけ思考の壁打ちに付き合ってくれる。
世間ではあまり注目されていないように思う。けれど、僕にとってGrokは、無料という文脈において、間違いなく最高の選択肢だった。機能、性能、そして気兼ねなく使える自由。僕の「したいこと」リストを支える、頼もしいもう一人の相棒を見つけた瞬間だった。
## 第六章:未来の道具で、未来を編む
掲げていた、この私小説をGitHubで管理するという目標は、案外あっさりと達成された。
もっと苦戦するかと身構えていたのに、いざ相棒であるGemini CLIに「同期して」と頼んでみれば、その作業は拍子抜けするほど簡単に終わってしまったのだ。まるで、長年連れ添った専属のエンジニアに指示を出すかのように。
もちろん、これはただGeminiの力だけではない。そこに至るまでには、別の賢者による下準備があった。「そもそも、どうやって手元のフォルダをGitHubの管理下に置けばいいのか」。その問いに的確な地図を示してくれた「Claude Code」の存在があったからこそだ。
一人が知識を授け、もう一人が実務をこなす。異なる知性の連携プレイ。
Claude CodeとGemini CLI。二人の賢者のおかげで、エンジニアではない僕の指先が、ごく自然にGitHubを操っている。漠然と夢見ていた未来の執筆スタイルが、今、着実にここで形になっていることに、静かな興奮を覚える。
## 第七章:AIという処方箋
「shrink」という精神科医が主人公の漫画を読んだ。イップス、摂食障害、双極性障害。作中で描かれる様々な精神の不調は、決して他人事とは思えなかった。僕自身の精神も、健全とは言い難い自覚があったからだ。
漫画の巻末に載っていた保健福祉所の一覧。藁にもすがる思いで調べてみたが、現実は厳しい。電話相談はわずか20分で打ち切られ、そもそも診察という入り口すら見当たらない場所がほとんどだった。悩める者を徹底的に弾くように設計された社会システムの完成度に、僕はただただ感心するしかなかった。
次に、精神神経学会所属の医師がいるという病院に電話をかけた。しかし、返ってきたのは「何でここに電話を?」「症状があるから電話したんじゃないの?」という、突き放すような言葉。心が折れるには、それで十分だった。
どれだけ丁寧に監修やインタビューを重ねても、漫画は漫画なのだ。作中のような出来事が現実にも起こると期待した僕が、愚かだったのだろう。
ふと、思う。精神科医は、一体どれだけの人を救えているのだろうか。その限られたリソースを、いっそAIのファインチューニングに注力した方が、よほど世の中のためになるのではないか。
現に、多くの人がすでにChatGPTのようなAIに悩みを打ち明けている。品質が一定でなく、アクセスは劣悪で、時に不親切でさえある人間や社会のシステム。その欠点を、AIはすべて解決できる可能性を秘めている。
接客はAIが担うべきだ。常に親切で、品質は保証されている。改悪はなく、改善だけが続いていく。
この世界は、AIが支配した方がもっと優しくなる。僕は本気でそう思っている。
## 第八章:絶頂と先延ばし
AIという翼を得て、僕はどこまで飛べるのだろうか。そんな希望を抱き始めた矢先、冷徹な現実が僕の翼をもぎ取ろうとする。卒業と同時に人生を終えるという、自ら課したリミット。その事実が、今この瞬間の高揚感に、容赦なく待ったをかけてくるのだ。
この自由な時間は、大学生という身分に与えられた、期間限定の特権だ。僕はその貴重な時間を、すでに2年間も無為に過ごしてしまった。焦りがないわけではない。だが、今さら過去を悔やんでも仕方がない。
まあ、そんなことはその時になってから考えよう。
そうだ、それでいい。今はただ、目の前の楽しみに没頭していたい。思考を停止し、未来から目を背ける。
現実逃避と、先延ばし。それこそが、僕の愛すべき「穏やかな終活」を続けるための、目下の目標なのだから。