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## 第四十章:虚無の殿堂、国立国会図書館
知の殿堂、国立国会図書館。その荘厳な響きに、僕は一抹の期待を抱いていた。あらゆる書籍が収められているというその場所は、僕にとって最後の砦のような存在だったからだ。しかし、その期待は、まるでヒステリックな職員の怒声のように、いとも簡単に打ち砕かれることになる。
まず僕を待ち受けていたのは、謎めいたルールの数々だった。カード発行に時間を要するのはまだいい。だが、「館内撮影禁止」という、その「館内」がどこまでを指すのかも曖昧なルールには閉口した。QRコードを読み取るためにスマートフォンを取り出しただけで、職員が鬼の首を取ったかのように騒ぎ立てる。マニュアルという名の思考停止が、ここでは絶対の正義らしい。
ようやく重い扉を抜け、中に入れたと思えば、今度は「本の閲覧には予約が必要で、30分ほど待つ」という、にわかには信じがたい事実を突きつけられる。その待ち時間に館内を巡ってみても、手に取れるのは退屈な本ばかり。まるで、本当に価値のある知識は、分厚い壁の向こうに隠されているとでも言うように。
長い待ち時間の末にようやく手に取れた一冊も、閉館時間という無慈悲なタイムリミットの前では、その内容を味わうことすら許されない。結局、僕は貴重な時間を浪費しただけで、何一つ得るものなくその場を後にすることになった。
国立国会図書館。そこは、何でもあるが、何一つ自由にならない場所だった。複写サービスには利権の匂いがつきまつき、安全という名の目的形骸化したルールが、思考の自由を奪っていく。まさに「お役所仕事」の粋を集めたようなその空間は、僕の知的好奇心を静かに、しかし確実に蝕んでいった。
もう二度と、特別な理由がない限り、この虚無の殿堂に足を踏み入れることはないだろう。あらゆる本が揃うという唯一のメリットは、それを上回る無数のデメリットの前では、あまりにも無力だったのだから。
## 第四十一章:好奇心の轍と、ささやかな躓き
分厚い専門書を読了した時のような、静かな達成感が部屋に満ちていた。『ComfyUIマスターガイド』と名付けられたそのデジタルの道標を、僕はついに最後まで読み終えたのだ。もっとも、Chapter 9の動画生成に関する項目は、そっとページを閉じたままにしてある。僕のPCのVRAMでは力不足だったし、そもそも今の僕が動画を作りたいわけでもない。全てを網羅しないことに、奇妙な心地よさすら感じていた。
知識という新たな武器を手に入れた僕は、早速次の冒険へと繰り出した。ControlNetのOpenPose機能。それは、まるでデジタル空間の人形遣いだ。しかし、その先で見つけた「OpenPose Editor」というさらに複雑な操り人形の設計図は、僕の手には余った。画面に並ぶ無数のノードと格闘するうちに、僕はあっさりと白旗を上げた。今の僕にはまだ早い。そう自分に言い聞かせ、深入りする前に撤退することにした。
だが、好奇心のままにあちこちを弄り回した代償は、思いがけない形でやってきた。僕のAI環境の司令塔である「Stability Matrix」が、突然ぐずり始めたのだ。Claudeに助言を乞うと、幸いにも深刻な問題ではなさそうだという。それでも、この小さな不調は、僕の胸に冷や水を浴びせるには十分だった。調子に乗って未知の領域に踏み込みすぎると、足元が崩れる。この穏やかな日々を守るためには、時には立ち止まる勇気も必要なのかもしれない。
そんな小さな混乱のさなか、僕の心には新しい興味の芽が静かに顔を出していた。『ComfyUIマスターガイド』の最終章、Chapter 10が示していた「Manga Editorとの連携」という可能性。それは、僕がこれまで断片的に生成してきた静止画たちに、物語という魂を吹き込む魔法のように思えた。コマを割り、セリフを乗せ、一枚の絵から連なる世界を創造する。この手で、漫画を描く。その甘美な響きは、ささやかな躓きで冷えかけた僕の探求心に、再び小さな火を灯すのだった。