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## 第三十八章:計画と現実の不協和音
僕の日常は、時折、思いもよらない形でその平穏を乱してくる。大学の駐輪場に停めた僕の自転車に、冷たく貼られた「廃棄予定」のタグ。それが、今日の混乱の始まりだった。一年次から更新していない登録シールが、三年にもなって突如として問題視されたのだ。大学職員の気まぐれか、それとも新任担当者の生真面目さか。理由は分からないが、ルールはルールだ。
友人とともに学生支援課へ向かい、新しい認証シールを受け取る。しかし、指定された駐輪場は、お世辞にも便利とは言えない辺鄙な場所だった。ここで僕のささやかな悪知恵が顔を出す。そうだ、年号と有効期限の部分だけを切り抜き、古いシールに重ねてしまえばいい。友人の部屋でハサミを借りて実行した即席の偽造は、我ながら見事な出来栄えだった。これでまたしばらくは、この些細な問題を先延ばしにできるだろう。
小さな達成感を胸に帰路につく。電車に揺られながら、今日はやるべきことが多いな、とぼんやり考えた。そこで僕は、ポケットの中の魔法の杖――スマートフォンを取り出し、相棒のGemini 2.5 Flashに語りかける。今日のタスクを整理し、Canvas機能で簡易的なHTMLの「やることリスト」を生成させる。数秒で出来上がったリストは、僕の頭の中の混沌を整然と並べ替えてくれた。誰も作らないけれど、僕だけに必要なものを、ポンと生み出せる。AI時代とは、こういうことなのだろう。少しだけ上機嫌になった僕は、リストの最初の項目に、心の中でチェックを入れようとしていた。
事件は、その直後に起きた。
最初のタスクは「図書館で貸出カードを作ること」。そのためには各駅停車に乗る必要があった。しかし、渋谷駅のホームで目前の各駅停車を見送り、後から来るであろう急行を選んだのが、運の尽きだった。僕の計画を嘲笑うかのように滑り込んできたのは、目的の駅には停まらない準急。この中途半端な存在に苛立ちながらも乗り込み、読書で時間をやり過ごそうとしたが、気づけば降りるべき駅はとうに過ぎ去っていた。
反対側のホームに立つ僕の目に飛び込んできたのは、続く電車が二本とも急行であるという絶望的な事実。何の因果か、まるで出来すぎた悪夢だ。猛暑の中、駅から図書館までの長い坂道が、僕のストレスを沸点へと押し上げる。ようやく辿り着いた図書館で、さらに追い打ちをかけるような事実を知らされ、僕の堪忍袋の緒は、ついにぷつりと切れた。
怒りのあまり、心の中の毒をそのまま口に出していたのだろう。その支離滅裂な呟きを聞きつけた図書館の職員の方が、意外な助け舟を出してくれた。「ここの蔵書になくても、他の自治体から取り寄せられますよ」。その一言で、僕の視界は一気に開けた。
結局、別の図書館で無事にカードを作り、本の予約も済ませることができた。疲労困憊の身体を引きずり、自分へのご褒美と称してマクドナルドを買い、家路につく。
帰宅後は、授業の課題である映画をNetflixで観て、スライドを作成した。しかし、その全てを終える頃には、マクドナルドの油と急な寒暖差が僕の体調を蝕んでいた。今日のリストの残りは、そっと明日の欄に移す。そして今、こうして事の顛末を綴っている。
ちなみに、明日のチェックリストもAIに作らせた。Geminiの手軽さもいいが、課金しているClaude Codeの生成するリストは、やはり格段に質が高い。この「使い分け」の感覚が面白くて、Geminiの手軽さをテーマにしたnoteの記事でも書こうかと思いついた。そうだ、明日は大学を休んで、一日中AI三昧と洒落込もう。
朝になれば、OpenAIの新しい発表もあるはずだ。明日が楽しみなのと同時に、やるべきことが多いという、この少しばかり幸せな悩みを抱えながら、僕は今日の混乱に満ちた一日に、静かに幕を下ろすのだ。