53.歴史は語らない
未来の王妃をお披露目する場として開かれたあの夜会の後に、アウストゥール王国に古くからある貴族家の当主たちの多くが失脚することとなった。
彼らが共謀して計画していた中身は、まさに謀叛。
国王ゼインにあらぬ罪を問い失脚させたのち、薄くとも王家の血が流れる貴族家の誰かが国王となって、これまた薄くとも王家の血が流れる貴族家の娘が王妃となり、新国王と新王妃のもと、古くからある貴族家が中心となって国を治めていく計画が立てられていたのだ。
そして驚くべきことには、国王ゼインの失脚によって王妃になれなくなったサヘラン王国の王女フロスティーンも、古くからある貴族家の者と婚姻させる企みがなされていた。
あれだけ夜会で『厄災の王女』だなんだと罵っておきながら、彼らは大国の王家の血統を望んでいたのである。
古くからある貴族家が、より高貴なる貴族家となれるようにと願って。
これが何より国王ゼインの心証を悪くするとは、まさか彼らは思ってもみなかったことだろう。
時は王女フロスティーンがアウストゥール王国に来てまだひと月のこと。
娘や姪や孫を王妃となるべくいくら差し出そうとしても無下に拒絶されてきた貴族家当主たちからすれば、あれだけ戦に明け暮れるばかりだったゼインが、よもやひと月でフロスティーンと親しくなる未来など想定していなかったのである。
しかしこの大層な計画は、国王ゼインをはじめとして、その重鎮である貴族たちが呆れかえるほどの杜撰な内容であったから、どう転んでも実現することはなかったはずだ。
計画が露呈した段階においてもまだ、『誰が』国王になって、『誰が』王妃となるか、そして『誰が』王女を娶るか、それさえも定められない程の仲で、よくぞ共謀しようなどと思えたものだ、というのは戦争中には国王ゼインの右腕と呼ばれ、此度の件では彼らの尋問の指揮を取っていたとある侯爵の言葉として記録されている。
されど夢見がちな彼らは、当時は本気で成功出来ると信じ、計画を立てていたようだ。
隣国となったサヘラン王国に良き様に操られ、気が大きくなっていたところもあろう。
そのサヘラン王国について。
此度の謀叛計画を先導していたのではないか?と疑う証言はいくつも取れていたものの、確固たる証拠はついぞ見付けることは叶わず、よってこの件はアウストゥール王国だけで内々に処理することに決定された。
戦争に勝利を続けて勢いに乗っていたアウストゥール王国とて、この時点では大国であるサヘラン王国と一戦交えるような余力はない。
国王ゼインからは戦をする気があるのでは?と怪しまれる過激な発言も、一度や二度ではなく飛び出していたことが記録されてはいても、さすがにこれを是として後押しするような進言を行う家臣はおらず。
サヘラン王国の動向は引き続き注視することとして、後始末は罪を犯した貴族たちへの処罰へと移行した。
国王ゼインがこれで納得したのは、サヘラン王国との仲が拗れた先に、サヘラン王国の王女フロスティーンとの婚姻の白紙の懸念があったからではないか、という予測は当時もされていたようだ。
とある伯爵の日記にも、その旨が記載されている。
しかしその後の国王ゼインの行動が、他の誰のどんな記録より、この予測を事実として認めるに十分に足り得るものではなかろうか。
アウストゥール王国は、かくしてこの時点で多くの貴族家当主を失うこととなった。
通常であれば、お家は断絶、領地は国が回収し、一族郎党斬首のうえ、見せしめとして遺体は頭と胴体をそれぞれ別にして城の外へと並べられる大罪。
しかしながら、此度の件は対象者の数が多過ぎた。
そのうえ通常の処罰を実行するには、時期として大変に都合が悪かったのだ。
隣国を次々と併合し大国となったばかりの当時のアウストゥール王国において、元からある貴族家を減らすことは得策にはならない。
アウストゥール王国民となったばかりの元隣国の民だった者たちが、いつ反旗を翻すかも分からない危うい内政状態において、アウストゥール王国の王や貴族たちは国内に向けても弱みを見せられない情勢だった。
そこで貴族家存続のため、ある策が取られている。
国王の結婚という慶事に当たり、恩赦が発表されたのだ。
貴族家当主に相応の罪は問うが、遺体は城外に並べないし、家の断絶もなし。
親族については、その罪によりそれぞれに見合う処分を下す。
領地は一度没収するも、王が後継を認め次第、その者へと引き渡そう。
これが国王ゼインと、王妃フロスティーンの連名にて出された、はじめての勅書となる。
驚くべきことに、この二人。
正式な婚姻式を待たずして、結婚してしまった。
それはサヘラン王国との付き合いが今後どう変化しようとも。
フロスティーン以外を王妃に据えるつもりはない、という国王ゼインの意思表示として──。
というように。
ここは後々の世に語られる歴史の大事変の最中。
今まさに貴族家当主が次々と星屑に変わっていく。
それは重々しい空気に沈んでいるだろうと思われた王城の一室にて。
聴こえてくるのは、あとの歴史学者の誰もが想定出来ない可憐な声。
「天に召されているわ」
これは記録されることのなかった王妃の口癖。
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