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厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~  作者: 春風由実
第一章 厄災の王女

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24.フラットな王女


「私も長く調べてきたのですが」


 人は表情から、自然その理由を探るものだ。

 それが出て来る言葉や態度と見合っていなければ、その違和を正そうと裏を探り、推理から恐怖を覚える。


 王女と対面している侯爵らは、それは恐ろしかったのではないか。


 侯爵の視線はうろうろと彷徨い落ち着かず。

 しかし決してゼインとは目が合うことはなかった。


「私が厄災の王女と認める根拠が確認出来なかったのです」


 それは抑揚もなく、単調に。

 感情を入れずに資料でも声に出して読んでいるようで。


 顔に張り付けられた笑顔とは相容れない声が続いていく。


「私が生まれた年に厄災と結びつくような大きな出来事はなく、その後も私の血縁者は皆無事に生きておりますし、厄災だと言える程の災害もサヘランのどの領地でも起きてはおりませんでした。歴史を紐解きましても、私が生まれてからこれまでに、過去と比べて特別に大きな問題はサヘラン王国では一度とて起こっていないのです」


 よく知るお喋りな王女がここで顔を出してしまったとゼインは感じた。



 ──相手は誰でも良かったのだな。しかし……。



 ──フロスティーンも知らぬとは。



 厄災の王女についてはゼインらも調べたこと。


 フロスティーンが生きている間にサヘラン王国では何の問題もなかった、という話ではない。

 大雨による被害が多く出た年はある。田畑が沈没し、橋が流され、復興までに時間を要した。

 逆に雨が少なくて食糧が高騰し、民らが困窮した年もある。

 

 だがそれらは、フロスティーンが生まれる前からたびたび起きて来たことなのだ。

 もっと言えば、フロスティーンが生まれる以前の方がサヘラン王国では厄災らしいことが続いていた。


 フロスティーン誕生の十年より前には、流行り病で多くの民が亡くなった年がある。

 それよりさらに十五年前には、大河の氾濫で多くの者が亡くなった。元の暮らしに戻るまでには十数年を要し、流行り病はこれに続く厄災だったとも考えられる。


 つまり、フロスティーンの存在が目立って厄災を引き起こした経緯はない。


 最近では隣国が突然に大国へと変わったことを厄災と語る者たちが出て来ていたが。

 それとてサヘラン王国が勝手に怯え騒いでいるだけで、まだ国としては何も起きていない段階にある。


 むしろ王族に箔を付けるため、幸運の王女と呼ばれていてもおかしくはない調査結果に、秘めたる理由があるのだとゼインも考えていたのだが。


 まさかこれをフロスティーンも知らなかったとは。



 ──貴族らを安心させるため偽りを述べた……とは思えんな。まったくもって。



 何か隠された事件でもあって、誕生した王女のせいにして後始末を行った、という筋書きはゼインらも考えた。


 だがそれならどうして長年に渡ってフロスティーンを城に閉じ込めてきたのか。

 早々に切り捨てて厄災を終わらせたと発表しなかったのは何故か。

 ここに来て、ゼインの妃にとアウストゥール王国へと送った理由も分からない。



 その出生に何か秘密が?



 深追いすれば誰もがそこへと考えが至ったが。


 それはこの場で騒ぎ始めた愚者たちでもそうだった。


「理由もなく厄災の王女なんて呼ばれるはずがありませんわ!近付くと呪われると言われていたこともお聞きしましてよ?だから、そうね……。サヘラン全体ではないのよ。あなたは生まれたときから沢山の個人を不幸にしていらしたのだわ」


 黙っている侯爵の代わりに、娘が声を張り上げた。


 人を不幸にしてきたと言われたら、さすがに怒るか泣くかするでしょう?

 という顔で娘はフロスティーンを見詰めたが。


 目のまえで作られた笑みは一糸乱れず。


 若い娘を怯えさせるには、十分過ぎる効果があったのだろう。


 娘はその声を最後に、父親に隠れるように後ろに下がると、侯爵夫人の腕に寄り添った。

 それでも夫人は娘には何の声も掛けず。


 他の者たちは、フロスティーンだけに注目していたが。

 ゼインはこの夫人の様子が気になり始めていた。






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