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厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~  作者: 春風由実
第一章 厄災の王女

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17.美貌の王女


 ゼインが王に即位してから取り立ててきた重臣たちは、戦に向いた人間ばかりだ。

 それが仇となってしまったか、こうした国内の貴族が集まる場には不向きな人間が多いのも実情だった。


 フロスティーンについては、すでにゼインから説明を受けて事情を知っているはずの彼らである。

 最初にフロスティーンを迎え入れたあの場では、フロスティーンを他国の王女として見ていたために挑発していたところもあったが、重臣たちがここで零らした言葉はただの素直な感想に違いない。


 ゼインは彼らを順に見て鋭く睨みつけていった。

 さすればすぐに己の失態に気付き、口を噤む素直さも見せてくれる彼らだ。



 ──戦が終わり大分気が緩んでいるようだな。鍛えるか。退かせるか。考えるときか。



 ゼインとしては、今後は戦のない時代がしばらくは続く予定だ。

 ならば側には平和な世に適応出来る重臣たちを残さなければならない。

 内政に相応しい人材を新たに登用することも考えるべきときである。


 もちろんそれは予定であって、未来がどうなるかは分からない。


 それも踏まえれば、今まで共に戦って来た者たちをばっさりと切り捨てるつもりはゼインにもなかった。

 だが適材適所というものがある。

 今まで付き合ってくれた重臣たちに、これからは苦手な内政を頑張ってくれと言う気はない。


 彼らには国防か外交を任せることになるだろう。


 アウストゥール王国が平和を望んでいても、諸外国がそうとは限らないのだから。

 たとえば、フロスティーンの祖国サヘラン王国のように。


 彼らの得意分野にも仕事は尽きない。



 冷静に重臣たちの様子を分析しながら、それでもゼインは今の彼らの気持ちをとてもよく理解出来ていた。


 ゼインの視線が、隣のフロスティーンへと向かう。



 ──たったのひと月でよくぞここまで、と言える変化だからな。それは驚くだろう。



 日増しに食事量を増やしたフロスティーンは、まだ痩せてはいるものの、次第に人らしい肉付きを取り戻し、こけた頬や落ち窪んでいた瞳の異常さが目立たなくなるにつれて、その美貌が際立ち始めた。


 これで侍女たちは余計に張り切ってフロスティーンを磨いたのだ。


 長年の栄養不足でぱさついてどうにもならなかった髪は、まだ細く切れやすくはあるけれど、日々の手入れで美しい艶を得ている。

 今日のように綺麗に結わいそこに花弁を散らせば、花の妖精にでも生まれ変わったようで。

 眩い光を受けて、明るい輝きを放った。


 かさついていた肌だって毎日手入れをされていれば、ふっくらと柔らかそうな見目に変化した。

 そのうえ今日は美しく化粧を施され、普段より血色がよく見えているのだ。

 初見ならば、少し痩せ気味なだけの健康的な王女として認識されることだろう。


 そして美に美を重ねたのが、ドレスだ。

 今日のためにと急ぎ作らせたドレスであったが、そこは近い将来この国の王妃となる王女のもの。

 今のフロスティーンをいかに美しく見せるかと計算され尽くして出来上がったデザインを元にして、アウストゥールの最高級品と言える布を惜しみなく使用した職人たちが丹精込めて作ったドレスは、それは見事な仕上がりだった。



 美しい王女がゼインの隣にある。



 ──サヘランでこの状態にあったなら、どうだったろうな?素直に送ってくれたかどうか。婚姻の話自体がなかったか?



 ゼインは自身の瞳と同じ色を纏うフロスティーンを眺め、ほくそ笑む。


 フロスティーンの祖国サヘラン王国。

 長い歴史の中で安定して今の領土を保ち続けたかの国は、この十年で領土の急拡大を成し遂げたアウストゥール王国を同等の国として認めていないのであろう。


 だから蔑ろにしてきた王女を妃にしろと言ってきたし、あのような愚者たちを従者として王女と共に送ってきたのだ。


 

 ──舐められたものだが。それはこちらも同じ。



 ここまですべてを見誤ってきたサヘラン王国。

 おかげでゼインは奇しくも向こうがこちらに持つものと似た想いを抱えてしまった。



 ──相手にさえならぬ国だ。だが何もしないというのも面白くはない。



 フロスティーンの横顔を見詰めていれば、視線に気が付いたのだろうか、フロスティーンの顔がゆったりとゼインへと向いていく。


 目が合えば、ゼインは部屋でそうするように、ふっと息を吐きながら笑った。

 

 瞬間的に広間が騒めく。


 時間を空けず、ゼインは再び重臣たちを睨みつけていた。

 さすればやはり彼らは口を噤んだが、今度は態度が違っていて、ゼインを苛立たせる。



 ──お前たちまでその目はやめろ?



 さて、彼らが静かになれば、入れ替わるようにしてひそひそと話し始める者たちがいた。

 フロスティーンが初見となる貴族たちだ。


 こちらの声は壇上にあるゼインたちの耳には届かぬようによく声量を調整されていて、これはゼインでも気分が悪いものだった。

 はじめて彼らに会うフロスティーンが何を感じてしまうか。


 憂いたゼインは、急ぎ彼らを黙らせることにする。

 自分が初見のときには、重臣たちがフロスティーンを脅すよう騒いでいたのを黙認していた男がこれだ。


 ゼインは自身でこの急激な変化には気が付けていなかった。

 大きく変わったのはフロスティーンだけだと信じていたのである。



「我が妃となる者を紹介しよう。サヘラン王国の王女フロスティーンだ」







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