3話:覚醒、そして運命の歯車
夜明け前の遺跡。レオンとエリスは向かい合って座り、目を閉じていた。二人の周りには、淡い光の粒子が舞っている。
「集中するんだ...自然のエネルギーを感じて...」
レオンは、心の中で唱えた。隣でエリスもまた、精霊との対話を試みていた。
突然、二人の間に強い光が現れた。
「これは...!」
レオンが目を開けると、目の前にルミナの姿があった。
「よくやった。お前たちの力が、ついに共鳴し始めたようだ」
ルミナの声には、喜びが滲んでいた。
エリスも目を開け、驚きの表情を浮かべた。
「私たち...成功したの?」
「ああ。お前たちは、古代魔法の扉を開き始めた」
ルミナの言葉に、レオンとエリスは顔を見合わせた。二人の目には、喜びと期待が満ちていた。
「これから本格的な修行が始まる。準備はいいか?」
ルミナの問いかけに、二人は力強く頷いた。
それから1ヶ月が過ぎた。
レオンとエリスの力は、驚くべき速さで成長していった。
レオンは古代魔法の基礎を習得し、小規模ながら自然の力を操ることができるようになっていた。一方エリスは、精霊との対話能力を磨き、森の生き物たちと心を通わせることができるようになっていた。
「すごいわ、レオン!」
エリスは、レオンが生み出した小さな竜巻を見て歓声を上げた。
「ありがとう、エリス。でも、君の方がもっとすごいよ」
レオンは、エリスの周りに集まる小動物たちを見て微笑んだ。
その時、突然地面が揺れ始めた。
「な...何!?」
レオンが驚いて叫んだ。エリスも不安そうな表情を浮かべる。
「これは...」
ルミナが現れ、厳しい表情で周囲を見回した。
「来たか...」
「ルミナ、何が起きているの?」
エリスが不安げに尋ねた。
「王国軍だ。この森を包囲している」
その言葉に、レオンとエリスは息を飲んだ。
「どうして...」
レオンが震える声で言った。
「奴らは、この森に眠る古代の力を狙っているのだろう」
ルミナの声は重かった。
「私たちは...どうすれば」
エリスが、不安そうに尋ねた。
ルミナは二人を見つめ、静かに言った。
「逃げるのだ」
「え...?」
レオンは驚いて声を上げた。
「でも、せっかく力を得たのに...」
「今のお前たちでは、王国軍全体を相手にするのは無理だ」
ルミナの言葉は厳しかったが、その目には深い愛情が宿っていた。
「しかし...」
レオンが反論しようとした時、遠くで爆発音が鳴り響いた。
「もう時間がない。早く!」
ルミナの声に促され、レオンとエリスは遺跡を後にした。
森の中を走る二人。
後方からは、追っ手の声が聞こえてくる。
「くそっ...」
レオンは歯を食いしばった。隣でエリスも必死に走っている。
その時、エリスが足を滑らせ、崖から落ちそうになった。
「エリス!」
レオンは咄嗟にエリスの手を掴んだ。しかし、二人の体重で崖が崩れ始める。
「レオン、離して! このままじゃ二人とも...」
エリスが叫んだ。しかし、レオンは首を振った。
「絶対に離さない!」
その瞬間、レオンの体から強い光が放たれた。それは、エリスの体も包み込んでいく。
「これは...」
二人が驚いた瞬間、光は爆発的に広がった。
まばゆい光が森全体を包み込む。
追っていた王国軍の兵士たちは、その光に目を奪われ、足を止めた。
「な...何だ、あの光は!?」
兵士の一人が叫んだ。
光が収まると、そこにはレオンとエリスの姿があった。しかし、二人の姿は大きく変わっていた。
レオンの体は、青白い光のオーラに包まれていた。その目は、まるで星空のように輝いている。
エリスの髪は風になびき、その周りには無数の光の粒子が舞っていた。
「こ...これは...」
レオンは自分の手を見て、驚きの声を上げた。
「私たちの力が...覚醒したの?」
エリスも、自分の体から放たれる光を不思議そうに見つめていた。
その時、ルミナの声が響いた。
「よくやった。お前たちの真の力が、ついに目覚めたのだ」
レオンとエリスは顔を見合わせた。二人の目には、驚きと喜び、そして決意の色が宿っていた。
「行くぞ、エリス」
「ええ、レオン」
二人は手を取り合い、王国軍に向かって歩み始めた。
兵士たちは、恐れおののきながら後退していく。
「化け物だ! 退けっ!」
兵士たちの叫び声が響く中、レオンとエリスは静かに前進を続けた。
その時、森の奥から一つの声が響いた。
「そこまでだ、レオン」
レオンは、その声に聞き覚えがあった。振り返ると、そこには...
「ガルド...兄さん」
レオンの目の前に立っていたのは、彼の長兄ガルドだった。
ガルドは冷たい目でレオンを見つめている。
「よくも我が家の恥を晒してくれたな。お前の力、頂くぞ」
そう言うと、ガルドは剣を抜いた。その剣は、不気味な黒い光を放っていた。
「その剣は...」
エリスが驚いた声を上げた。
「闇の力を宿した剣...禁忌の魔剣だ」
ルミナの声が、二人の心に響いた。
「レオン、気をつけろ。あの剣には、お前たちの力を奪う力がある」
レオンは、決意の表情でガルドを見つめた。
「兄さん、どうしてこんなことを...」
「黙れ! お前に何が分かる」
ガルドの目には、憎しみと...何か別の感情が渦巻いていた。
「いくぞ、レオン!」
ガルドが剣を振り上げ、レオンに襲いかかる。
レオンは、咄嗟に手をかざした。青白い光の盾が現れ、ガルドの攻撃を受け止める。
「くっ...」
衝撃で、レオンは後ろに滑った。
「レオン!」
エリスが叫び、精霊たちを呼び寄せる。風が渦を巻き、ガルドの動きを妨げる。
「邪魔するな!」
ガルドは剣を振るい、風を切り裂いた。
「この力...想像以上だ」
レオンは、ガルドの強さに驚きを隠せなかった。
「レオン、エリス、力を合わせるんだ!」
ルミナの声が響く。
レオンとエリスは顔を見合わせ、頷いた。二人は手を取り合い、力を集中させる。
まばゆい光が二人を包み込む。その光は、徐々に一つの形を作り始めた。
「なっ...何だこれは!」
ガルドが驚いて叫んだ。
光が収まると、そこには巨大な光の獣が現れていた。
獣は轟音と共に吠え、ガルドに向かって突進した。
「くっ...」
ガルドは剣を構えたが、獣の力の前には為す術もなかった。
光の獣がガルドを弾き飛ばす。ガルドは地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「終わったな...」
レオンは、倒れているガルドを見つめた。その目には、悲しみの色が浮かんでいた。
しかし、その時だった。
「はっはっは...」
不気味な笑い声が響いた。見ると、ガルドがゆっくりと立ち上がっていく。
「まさか...」
エリスが驚いて声を上げた。
ガルドの体が、黒い霧のようなものに包まれ始める。
「お前たちの力...いただいたぞ」
ガルドの声が、どこか別の存在の声と重なっているように聞こえた。
「これは...まさか...」
ルミナの声が、不安げに響く。
ガルドの姿が、徐々に変貌していく。その体は巨大化し、黒い鱗に覆われていった。
「あれは...竜!?」
レオンが驚いて叫んだ。
巨大な黒竜となったガルドは、轟音と共に咆哮した。
「レオン、エリス、逃げるんだ! 今のお前たちでは太刀打ちできない!」
ルミナの必死の声に、レオンとエリスは顔を見合わせた。
「でも...」
レオンが躊躇する。
「行くのよ、レオン。また強くなって、戻ってくるわ」
エリスが、レオンの手を強く握った。
レオンは一瞬迷ったが、すぐに決意の表情を浮かべた。
「分かった。行こう、エリス」
二人は、黒竜と化したガルドから目を離さずに後退し始めた。
「逃がさん!」
ガルドの声が響き、黒い炎を吐き出した。
「くっ!」
レオンとエリスは、必死に炎を避ける。
「こっちだ!」
突然、見知らぬ声が聞こえた。振り返ると、一人の少女が立っていた。
彼女は手を振り、二人を促している。
「誰...?」
レオンが戸惑う。
「今はそんなことを言っている場合じゃないわ。早く!」
エリスに促され、レオンは頷いた。
二人は、その少女に導かれるように森の奥へと走っていった。
背後では、黒竜と化したガルドの咆哮が響いている。
レオンとエリス、そして謎の少女。
三人の姿が、深い森の中に消えていった。
こうして、レオンたちの新たな旅が始まろうとしていた。
果たして、彼らの運命は...?