2話:古代魔法の修練と新たな出会い
月明かりが遺跡を薄く照らす夜。レオンは石版の前で目を閉じ、深い呼吸を繰り返していた。彼の周りには、青白い光の粒子が漂っている。
「集中するんだ...」
レオンは心の中で自分に言い聞かせた。古代魔法の奥義の本に書かれていた通り、自然のエネルギーを感じ取ろうとしている。
しかし、なかなか上手くいかない。
「はぁ...」
レオンは肩を落とし、目を開けた。光の粒子が消えていく。
「やはり僕には...」
そう呟いた瞬間、ルミナの声が響いた。
「諦めるのは早い。お前には才能がある。ただ、それを引き出すのに時間がかかるだけだ」
レオンは顔を上げた。ルミナの姿は見えないが、その存在を感じることはできた。
「でも...もう一週間も経つのに、何も進歩がありません」
レオンの声には焦りが混じっていた。
「一週間で古代魔法を習得できると思っていたのか?」
ルミナの声には、少し笑みが含まれていた。
「いえ...そうじゃないですが...」
レオンは言葉を濁した。確かに、そう簡単に習得できるはずがないことは分かっていた。しかし、早く強くなりたいという焦りが彼の心を占めていた。
「焦ることはない。お前の才能は、ゆっくりと、しかし確実に開花していく」
ルミナの声は優しく、しかし厳かだった。
「分かりました...もう少し頑張ってみます」
レオンは再び目を閉じ、集中し始めた。
その時、遠くで木の枝が折れる音がした。
「!」
レオンは驚いて目を開けた。遺跡の入り口の方を見ると、そこに人影が見えた。
「誰だ!?」
レオンは警戒しながら叫んだ。しかし、返事はない。
人影はゆっくりと近づいてきた。月明かりが差し込み、その正体が明らかになる。
それは一人の少女だった。
長い銀髪を風になびかせ、エメラルドグリーンの瞳が月光に輝いている。年齢はレオンと同じくらいに見えた。
「あなたは...誰?」
レオンは警戒しながらも、少女に問いかけた。
少女は一瞬躊躇したように見えたが、やがて口を開いた。
「私の名前は...エリス」
その声は、か細いながらも、どこか凛とした響きを持っていた。
「エリス...どうしてここに?」
レオンは困惑した表情で尋ねた。この禁忌の森に、どうして少女が一人で?
エリスは少し俯いた。
「私は...逃げてきたの」
「逃げてきた?」
レオンは驚いて聞き返した。エリスの表情が曇る。
「私の村が...王国軍に襲われたの」
その言葉に、レオンは息を飲んだ。
「王国軍が...? どうして?」
エリスは悲しげに目を伏せた。
「私たちの村には、昔から伝わる力があったの。精霊と心を通わせる力...」
レオンは驚いた。精霊と心を通わせる? それは、彼が今まさに学んでいる古代魔法に通じるものがあるのではないか。
「その力を...王国が欲しがったの」
エリスの声は震えていた。
「でも、私たちはその力を悪用されたくなかった。だから...拒否したの」
「そして...襲われた」
レオンは静かに言葉を継いだ。エリスは無言で頷いた。
「私だけが...逃げ延びたの」
その言葉に、レオンの胸が痛んだ。彼自身も、家族から追放された身。エリスの悲しみが、痛いほど分かった。
「エリス...」
レオンは優しく彼女の名を呼んだ。エリスは顔を上げ、レオンと目が合った。
その瞬間、二人の周りに光の粒子が舞い始めた。
「これは...!」
レオンは驚いて周りを見回した。エリスも同じように驚いた表情を浮かべている。
「お前たち二人には、特別な力がある」
突然、ルミナの声が響いた。
「特別な...力?」
エリスが戸惑いの表情で尋ねた。
「そうだ。お前たちは、古の力を受け継ぐ者たち。その力が、今呼応し合っているのだ」
レオンとエリスは、互いに顔を見合わせた。
「私たちが...?」
エリスの声には、不安と期待が入り混じっていた。
レオンは、決意の表情を浮かべた。
「エリス、一緒に来ないか?」
「え...?」
「僕も...家族から追放された身なんだ。でも、ここで新しい力を学んでいる」
レオンは優しく微笑んだ。
「一緒に学んで、強くなろう。そして...」
「王国に立ち向かうの?」
エリスが、レオンの言葉を先取りした。レオンは頷いた。
「うん。僕たちの力で、世界を変えよう」
エリスは一瞬迷ったように見えたが、すぐに決意の表情を浮かべた。
「分かったわ。一緒に...頑張りましょう」
二人が手を取り合った瞬間、周りの光がさらに強く輝いた。
「よし、では新たな修行の始まりだ」
ルミナの声が響く。
こうして、レオンとエリスの共同修行が始まった。彼らはまだ知らない。この出会いが、やがて世界の運命を大きく動かすことになるとは...
一方、アルカディア王国の王城では...
「なに? レオンが見つからないだと?」
アルステア公爵の怒声が、広間に響き渡った。
「申し訳ございません。森で追跡の痕跡が途絶えてしまい...」
報告する兵士は、頭を深く垂れている。
公爵は椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。
「くそっ...あの小僧、まさか本当に...」
その時、部屋の扉が開いた。
「父上」
入ってきたのは、長男のガルドだった。
「ガルド、お前か」
「はい。レオンの件、私に任せていただけませんか?」
ガルドの目には、冷たい光が宿っていた。
公爵は一瞬考え、そして頷いた。
「よかろう。だが、必ず始末しろよ。レオンの存在は、我が家の恥だ」
「承知いたしました」
ガルドは薄く笑みを浮かべた。その表情には、何か別の思惑が隠されているようにも見えた。
こうして、レオンを巡る新たな動きが、王国内で始まろうとしていた。
果たして、レオンとエリスの運命は...?