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上:悪評付きの元英雄

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


気付かないうちに、無自覚の内に、誰かを救っていたりするもんです。逆も然りですが、あるなら信じたい。



【屋敷の下働きになれる子供が1人欲しい。応じて頂いた暁には、金銭及び物資援助を約束する。


ガルディオ・アレース】



孤児院に来た手紙に、老いた牧師と修道女は、表情を曇らせていた。


「ガルディオ・アレース・・・この名前を聞くとは」


「こんな男に、ここの子をやらなきゃならないのかい?」


その会話を聞き取り、犬耳をピョコン!と真っ直ぐにした、獣人の少年ハピ。いつも笑顔を絶やさない2人が、とても沈んだ顔をしている。どうしたのか心配になった彼は、読書を中断して声をかけた。


「牧師様、シスター様。どうなさいましたか?」


「いやなに、あんまり良い話じゃないよ。お前は知らない方が良い」


しばらく2人は、詳細を話すのを渋る。だが「知りたいです!教えてください」と必死に尋ねるハピに、とうとう折れたようだ。重たい話をするよと、深呼吸して語り始める。



ハピが暮らすミュトシア国は、魔物との争いが続いていた。「少数民族の獣人が関与している」というデマも流れて、混乱は続き、国は荒れる一方だった。


それに終止符を打ったのが、2人の剣士だ。魔物を率いていた黒幕を討ち取り、国に平和をもたらした。


1人は正義感が強い赤髪の剣士、クラッシュ・アテニア。明るく誰からも好かれる彼は、仲間と共に様々な活動をしていた。


もう1人は冷静沈着な金髪の剣士、ガルディオ・アレース。無口で一匹狼だった彼は、独り剣を振るい、魔物討伐をし続ける。


彼らは【英雄】として称えられた後、国家繁栄のために尽力してきた。


しかし意見や方針の食い違いにより、2人は対立関係になっていく。そして・・・ガルディオは公前で、クラッシュを一方的に殴ったのだ!


クラッシュは出血する重傷を負い、ガルディオはすぐさま捕縛される。彼は処罰として、英雄の称号を没収、都からの追放。そして移された辺境地にて、無期限の魔物討伐が課せられたのだ。


ガルディオ・アレースは今や【血塗られた元英雄】として、嫌悪されている。



そんな男からやって来たのが、先程の手紙だ。本人の署名は、思ったより綺麗な文字が綴られていた。


「確かに国からの支援金も途絶えた今、ウチは資金難さ。だが、犯罪者になった奴の元に行かせるなんて・・・!それなら、潰れちまった方が良い!」


「シスター、落ち着くんだ。この孤児院が潰れたら、居場所を失った子供たちはどうなる!?」


悔しそうにうなだれる修道女に、焦りながら説得する牧師。そんな2人を見て、ハピはギュッと拳を握り締める。


ハピの生まれ故郷も、魔物の襲撃に遭った。まだ幼かったので記憶は朧気だが、村中が炎に包まれ、とにかく怖かったことは覚えている。両親を失い、大怪我を負っていたところを助けられて、この孤児院に保護されたのだ。


厳しい状況に置かれた子供たちを、人種問わず多く受け入れてきた孤児院。ここが無ければ、ハピは死んでいたかもしれない。特に獣人にとっては、酷い差別から守ってくれる場所でもあったから。


平和になった今も、家族や居場所を失い傷を負った、幼い子供が沢山いる。


この孤児院を無くしたくない、なんとしても守りたい。


だったら自分も協力しないと。出来ることは、1つだ。



「牧師様、シスター様。僕が・・・ガルディオ様の下働きになります!」



突然の宣言に、言い合っていた牧師と修道女は目を丸くする。


「下働きに出るなら、比較的年上の僕がピッタリでしょう。僕、体力になら自信がありますよ!


それに僕も、この孤児院を守りたいです。孤児になった獣人の僕を、見捨てずに育ててくれた、大切な居場所を!」


「ハ、ハピ・・・」


本当は止めたかった、反対したかった。だがこの孤児院を守るには、誰かを行かせるしかない。運営する側だからこそ、嫌な程それを分かっていた。


哀しみに不安、感謝に喜び・・・様々な昂ぶりを治めるため、ハピを抱きしめた2人。いきなりのことで、ハピはビクッと震えてしまう。


それでも「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返され、本当に愛されているのだと実感したハピだった。



数日後、孤児院に直接ガルディオ・アレースが迎えに来た。物珍しさ見たさにか、遠くには多くの野次馬が集まっている。


短い金髪に屈強な体格を持つ、不機嫌そうな男。鋭い瞳をギロリと向けられ、周囲は一瞬威圧される。ハピはそんな様子に怯えつつも、場違いのように「格好いい」とも思っていた。自身のボサボサな金髪と細い体を、ひっそり自虐しているのだろうか。



ーーーアイツが、血塗られた元英雄。


ーーークラッシュ様を一方的に殴って、のうのうと表に出やがって。


ーーー金がねぇから、こんな場所からしか人を雇えねぇのか。



野次馬の嘲笑と侮辱など素知らぬ顔して、ガルディオは深くお辞儀をする。


「・・・この度は急な要望に関わらず、応じて頂き誠に感謝する」


思ったよりも、丁寧な口調で驚いた。パチリと目が合ったので、ハピは慌てて挨拶をする。確か左足は膝をついて、右腕を胸の前に掲げて・・・。


「お、お初にお目にかかります、ガルディオ様っ。ほ、本日よりお仕えします、ハピと申しますっ」


ガチガチに緊張していたハピ。早口になってしまうが、必死に練習した挨拶を、何とか噛まずに言うことが出来た。



ーーーなんだアイツ、獣人かよ。みすぼらしい見た目だな。


ーーーそもそも衛生状態悪いのね、野良犬の方が良い生活してるわよ。


ーーー獣人を匿うとか、馬鹿みてぇな孤児院だな。獣臭ぇし。



すると今度はハピや孤児院への、嘲笑と侮辱が始まってしまう。幼い子は牧師や修道女の後ろに隠れるが、それでも嘲笑は止むことがない。


それは当然、ガルディオにも届いている。彼はすぐさま、野次馬をギロリと睨む。



「お前ら・・・耳障りだ、消えろ」



端的な言葉は、野次馬に衝撃を与えた。ガルディオはヌッと剣を取り出しつつ、怒りと侮蔑を含めた声で、淡々と話す。


「黙らないなら、喉を抉って声を出せなくしてやろうか?それとも、首を直接切り落とされたいか?」


血塗られた元英雄の名に似合うように、戦慄した提案を出すガルディオ。これには野次馬も悲鳴を上げながら、散り散りに逃げていった。


呆然とする牧師や修道女も気にせず、ガルディオは再度話を進める。


「・・・とりあえず、今用意できたモノを送る」


彼が乗っていた馬車から落ろされたのは、食料や毛布などが入った物資袋だ。本当に物不足な孤児院では、今すぐに欲しいモノばかり。


キャッキャッと喜ぶ子供と、お辞儀をする牧師と修道女。双方を確認した後、ガルディオは遅らせながら、跪くハピに礼をする。


「・・・これから宜しく頼む」


堅い顔に、素っ気ない低い声。だが先程と違い、どこか優しげに感じる。さっきも孤児院の子供たちが嗤われたら、手段こそ怖いが守ってくれた。


思ったより、怖い人じゃないのかもしれない・・・。


気付けばハピは、先程までの恐怖と不安がすっかり薄れていた。

読んでいただきありがとうございます!楽しんでいただければ幸いです。


「中」は明日夜に投稿します。

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