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俺としては滅茶苦茶褒めているつもりだったのだが、怒らせてしまったようだ。
……あまりにも露骨な褒め方が癪に障ったとかだろうか?
難しい年頃の子だし、接し方は気を付けないとな。
「そういえば、次の配信の予定は決まっているんですか?」
「とりあえず検討中って感じだな。なんか、色々事務所がばたばたしているらしいしな」
「他人事みたいに言っていますけど、たぶんお兄さんの再現魔法関係じゃないんですか?」
「かもしれん。まあ、あとで霧崎さんと飲みに行くから、そのときにでも話すつもりだ」
「へぇ…………霧崎さんとはよく飲みに行くんですか?」
「配信前後の打ち合わせとかでな。経費で落ちるから、ということで霧崎さんは結構積極的に使ってるな」
「……そうなんですね、ふーん」
あれ? なぜかまた凛音が怒っている?
「なんだ? なんか怒ってます?」
「いえ、怒っていませんが」
「そうか? それならいっか」
「良くないです怒ってます。今度私とも食事行きませんか?」
「別にいいけど、俺にたからなくても大丈夫だろ?」
「たかるのが目的じゃないです!」
「じゃあなんだ?」
「え!? い、いやぁ……その、たまには配信者同士、意見交換をしたいといいますか……」
「別に食事中じゃなくても今交換できるぞ? どうする? 麻耶について語るか?」
「いやその……食事中のほうがいい意見が出てくることもありますし……脳に栄養を補給しながらのほうがいいと思いませんか!?」
「なるほどな……それなら麻耶とか流花とかも呼ぶか?」
「……そうじゃないです!」
「もっといっぱいいたほうがいい意見交換の場になるんじゃないか?」
「意見交換ならそうですが……っ。ああ、もう……っ! ていうか、玲奈さんの名前は出てこないんですね」
「あいつは呼ばなくても来る可能性があるからな……」
「……確かに」
玲奈は神出鬼没だが、常にこちらの魔力を窺っているのは分かっている。
だからまあ、呼んでなくても来る可能性は十分ある。別に嫌いじゃないけど。
「では、また今度どこかで食事にでも行きましょうね」
「ああ、それ決定なんだな」
「……嫌ですか?」
「いや、別にいいけど。っていっても、意見交換できるほどの知識とかないぞ?」
「大丈夫です。そんなに気にしていませんから」
「そうか? まあ、それなら、あとで行くとするか」
「は、はい!」
とりあえず、凛音の機嫌は良くなったので良しとしようか。
蒼幻島のSランク迷宮「七呪の迷宮」について語るスレ101
101:名無しの冒険者
最近武器ドロップした奴らいるか?
102:名無しの冒険者
俺も毎日潜っているが
103:名無しの冒険者
おい! 誰か助けてくれ!
104:名無しの冒険者
やべぇよ!
105:名無しの冒険者
は? どした?
106:名無しの冒険者
なんか外騒がしくなってきたな
107:名無しの冒険者
おい! 外魔物いるじゃねぇか! どういう状況なんだ!?
108:名無しの冒険者
大量の魔物が出現してる……っ
階層関係なしに魔物が出まくってるせいでやべぇ!
109:名無しの冒険者
Sランク迷宮の爆発とか……どうすんだよこれ!?
110:名無しの冒険者
「七呪の迷宮」って空飛ぶ魔物はいなかったよな?
111:名無しの冒険者
繋がっている橋さえ破壊すれば本島は無事なはず
さっさと協会に動いてもらいたいな……
112:名無しの冒険者
そんなことしたら蒼幻島にいる連中はどうすんだよ!?
113:名無しの冒険者
知らん
冒険者なんだから自己責任だろ!
114:名無しの冒険者
頼む! 誰か助けに来てくれ……っ! 現地にいる冒険者がどんどんやられてんだよ!
夜。気持ちよく眠っていた俺は、異様な魔力を感じて目を覚ました。
……麻耶の可愛さに魅了され、襲い掛かってくる輩がいないとも限らないので俺はいつでも対応できるように警戒している。
ただ、今回感じた魔力は家付近ではない。
恐らくだがこれは――蒼幻島のほうか。
俺はすぐに着替えを行いながら、スマホでニュースを確認すると……案の定だ。
どうやら、蒼幻島のSランク迷宮が迷宮爆発を起こしたらしい。
まじか。
とうとう、Sランク迷宮でそれが発生してしまったんだな。
……だが、Sランク迷宮はこのような事態を避けるためにそれこそ一時間置きなどに魔力の状態が検査されているはずだ。
協会の検査担当の者がサボっていなければ、急成長した、としか考えられない。
……ここ最近、迷宮関係の異常が多く発生しているよな。
緊急生放送を行っている番組もあり、ヘリで近づいて撮影が行われている。
蒼幻島のあちこちで魔物と冒険者が戦闘している様子があり、大変な状況であることが分かった。
……特に迷宮近くの状況が最悪なようで――ちょうど俺の別荘がある地帯も映し出され、そこに大柄のオークがいるのを発見し、
「ふざけんじゃねぇぞ!」
オークが俺の麻耶グッズを狙って進行していやがる!
そう思った瞬間、俺は空間魔法を使用する。あまり大きくはない穴を、身体強化で無理やりこじ開けて広げてからそこを潜り抜け、俺はまさに家近くへ迫っていたオークの頭を拳で打ち抜いた。
ついでに、周囲にいる魔物たちをおびき寄せるため、蒼幻島全体を飲み込むほどに魔力を放出した。





