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「……」
ちらとこちらを見たのは玲奈だ。
彼女もどうやら魔力に気づいたようだ。
「お兄ちゃん? 玲奈ちゃん? どうしたの?」
「ああ、ちょっとな。今迷宮爆発が起きそうな気配を感じてな」
「うん……ちょっと怪しい感じだったね」
「え? 近くで?」
「いや……この家からは遠いけど、まだ動いてないと危険だよな」
場所は駅前のほうだと思う。今は夕方で、恐らくここから帰宅などで人も増えてくるはずだ。
……万が一迷宮爆発が発生してしまった場合、大事になるよな。
俺がソファから立ち上がると、麻耶と玲奈の視線がこちらに向いた。
「んじゃ、ちょっと行ってくるかね」
「あ、お兄ちゃんのいつものこっそり攻略?」
「そうそう。そういうわけで、俺は出てくから……」
「あっ、あたしも行くよっ。一人じゃ手が回りきらないかもでしょ?」
「……そうか? 麻耶は万が一があったら魔力解放してくれ。すぐ迎えにいくからな」
「分かったっ」
いつもなら、俺一人でいいのだが……。
なんだろうか、この感覚は。
普段感じる魔力とはまた別種のものを感じる。
……迷宮爆発? いや、違うのか?
考えても仕方ない。現地に行けば分かることか。
「ねぇ、ダーリン」
「なんだ?」
「さっきの魔力、なんだか変な感じしなかった?」
「やっぱりそうだよな」
街中を走って移動していると、玲奈が問いかけてきた。
俺と玲奈くらいの能力なら、下手な乗り物よりは走ったほうが目的地まで早く着く。
「よくわからん魔力だ。不気味、意外の回答ができないな」
「……ダーリンがそういうってよっぽどじゃない?」
「正確に言うと、脅威が異質な感じなんだよな。別に攻略不可能、っていうわけじゃないんだけど……だからこそ、余計に気になったんだよ」
「ダーリン、人知れずいつも真っ先に救助とか迷宮の破壊とかやっちゃうもんね」
「別に、誰かにアピールするもんじゃないだろ」
「そういうところであたしのポイント稼いじゃうんだから、ダーリンはもう逃げられないね!」
「……やめようかねぇ」
能天気な玲奈にため息をつきながら魔力を感知していく。
迷宮爆発でもない、だというのに異様な魔力。
……なんだろうか。嫌な予感がする。
街を駆け抜けた俺たちはフードをつけたまま、目的の迷宮まで移動する。
……なんか滅茶苦茶人がいるな。
俺たちはその迷宮を囲んでいる野次馬たちの会話に耳を傾ける。
「早く、攻略してでてきてくれないかな?」
「【ブルーバリア】のリーダー見たいんだよなぁ……」
「でも、まだ入ってそんなに時間経ってないし、どうだろう?」
話を聞いていると、そんな声が聞こえてくる。隣でスマホを操作していた玲奈がとんとんと腰を突いてくる。
「ダーリン、見て。今この迷宮、【ブルーバリア】が攻略中みたい」
「……なるほどな」
【ブルーバリア】といえば、大手ギルドの一つだ。
そして、先ほどの会話から推測するに、リーダーも一緒に迷宮へ入っていて、この野次馬たちはそのリーダーを見るために集まった人たちなのだろう。
自衛隊や警察で交通規制を行っているので、とてもじゃないが簡単には近づけそうにないな。
……それに、【ブルーバリア】の人たちも警備を行っているので、まあ……普通のCランク迷宮なら問題ない。……仮に爆発したとしても、だ。
「協会のほうで迷宮の成長を確認して、攻略依頼が出されたみたい。……ランクはCランクだけど、ちょっと魔力が異常だよね?」
「……そうなんだよな」
結局、迷宮まできた今も不安はぬぐえなかった。





