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「"ぐあっ!?"」
俺の拳がめり込むと、アレックスの体が吹き飛び、迷宮の壁まで吹き飛んだ。
壁が破損し、アレックスの体にその破片がパラパラと落ちていく。
彼の魔力を探りながら俺は、そちらへ近づき、見下ろしながら声をかける。
「"終わりか?"」
壁へと叩きつけられた彼は、一歩も動くことがない。
俺はアレックスの胸ぐらを掴み上げ、放り投げる。
「"ぐ……"」
「"おい。さっさと起きろ"」
俺はポーチに入れていたポーションをアレックスの顔にかけ、傷を治療させてから声をかける。
「"じ、ジン……"」
「"良かった。まだ降参じゃないよな?"」
「"え……、いや、ちょ、ま"」
アレックスが青ざめた顔で体を起こし、逃げ出そうとする。
だが、その足を踏み潰す。
「"がああ!? こ、降さ――ぶっ!?"」
「"何言ってるかわかんねーぞ?"」
負けを認めようとしたので、俺はその顔を鷲掴みにして押さえつける。
片手で頭を割らんばかりに掴み持ち上げると、アレックスは必死に俺の腕から逃れようと腕を殴りつけてきた。
だが、そんな力のこもってない攻撃など効かない。
俺が彼の口から手を離すと、彼は涙を流しながら叫ぶ。
「"こ、降参だ!"」
「"そうじゃねえだろ!"」
「"わっつ!?"」
「"謝罪の意思を見せろってんだよ!"」
「"ど、どうすれば……いいんですか……"」
「"そんなの分かりきったんだろうが! マヤチャンネルの登録して、毎日謝罪しながらみつづけやがれ!!"」
「"ぶべ!?"」
思い切り力を入れて殴りとばすと、アレックスは完全に気を失ってしまったようだ。
すでに彼の変身も解けている。なんなら、彼の魔力は急速に小さくなっていっている。
倒れたまま動かないアレックスを、呆然としたままクレーナは見ていた。
「おい」
俺はちらとクレーナを見て、声をかける。
クレーナはびくりと肩を上げ、こちらに顔を向けた。
その彼女を威圧するように睨むと、彼女はがたがたと震え始めた。
「な、なんでしょうか」
「……」
クレーナは震えた声で返事をしてきたが、俺は殺気を込めたまま近づいていく。
「ま、待ってください! わ、私にも手を出すつもりですか!? ま、マヤチャンネルは登録します! 毎日見ます! 見逃してください!!」
顔を青ざめ、逃げようとした彼女だったが焦りがあったのだろう。足をもつれさせ、転んだ。
それでも必死に逃げようと這って逃げようとした彼女の前に立ち塞がる。
絶望的な顔でこちらを見上げてきた彼女は涙を浮かべていた。
そんな彼女に、俺は緊急用に持っていたポーションを取り出して投げ渡した。
「さっさと回復させないとあの男死ぬぞ。まあ、俺は別にいいけど」
「……え、あっ」
「……それで? まだ麻耶に何かする気はあるのか? あ?」
殺気を再びぶつけると、クレーナは青白い顔でがたがたと震えていた。
「い、いいいいいいえ! わ、我々はあくまで手段の一つとしてそう言っているだけでしてっ! 本気で何かをするつもりはありません! すみませんでした! さっきのもただ画像を持ってきただけでして……っ!」
「だろうな。あいつが目覚めたら言っとけ。次にまたアホなことぬかしたら、本気で殴るからな」
「へ……は、はい……っ! わ、分かりましたぁ!」
俺が軽く睨むと、クレーナは全身を振るわせ、頭を下げながらアレックスにポーションを飲ませた。
傷は塞がったが、あくまで応急処置にしかならない。
クレーナはそんなアレックスを引きずるようにして、去っていった。
あの巨体を運べるあたり、クレーナもそれなりの冒険者なんだろう。
これくらいやっておけば、同じような真似をしてくることはないだろう。
まあ、もしもまたやってくるようなバカだったら、その時はその時だ。
「お、お兄さん……?」
「ああ、悪い流花。ちょっと邪魔入っちまって……ていうか、大丈夫だったか? さっき、あのバカに腕掴まれてたよな」
力のある冒険者に掴まれるだけで、痣ができることは珍しくはない。
心配して見てみたが、流花の肌は特に傷のようなものは見当たらない。
大丈夫、そうか?
「う、うん……お兄さんが助けてくれたから……、そっちはいいんだけど……その、配信が――」
「なんだ?」
「め、滅茶苦茶、バズってる……」
「え? なんで!?」
俺がコメント欄を見ると、それはもう凄まじいくらいの賞賛のコメントであふれていた。
〈お兄様! さすが俺たちのお兄様だ!〉
〈マヤちゃんになんかしようとするとか無謀すぎるだろこいつらw〉
〈"日本の侍、ありがとう! あのバカは本当に大嫌いだったからスカッとしたよ!"〉
〈"Sランク冒険者を一撃で仕留めるとかお兄ちゃん最強だ! あっ、妹ちゃんも可愛いから登録しておいたよ"〉
〈"今いる子も可愛いね! 皆登録しておいたよお兄様!"〉
〈お兄ちゃんマジ最強!〉
〈もともと外国人ニキたちも見てたけど、露骨にコメント増えたなw〉
〈そんだけ、あいつが嫌われてたんだろw〉
……コメントが、四六時中俺の賛美ばかりで目では追えないような状況になっていた。
見ている間もどんどん視聴者は増えていて、外国人の視聴者の多さに驚かされる。
……まあ、そりゃあそうだよな。世界人口から見れば、日本だけでやっていくよりは世界全体が見られるコンテンツのほうが伸びるよな。
「アレックスのチャンネルから……こっちに流れてきたみたい」
「そうなのか?」
「う、うん……なんかさっきのアレックスって人、無敗記録持ちでかなり強いみたいで……」
「自分より弱い奴にしか挑んでいたとかじゃなくて?」
〈あいつは普通に強いぞ?〉
〈まあ、さっきのお兄さんみたいに半分脅された状態の人もいるから全力を出せてなかった可能性はあるかもだけど……〉
コメント欄を見るに、どうやらそうらしい。
……また変な奴に目をつけられたもんだな。
「……なんか海外のほうで、凄い盛り上がってる」
流花がスマホで色々と調べていると、俺がアレックスを殴り飛ばしたシーンの画像が海外で拡散されまくっていた。
ざっと見てみると、アレックスがそれだけ複数の国で迷惑行為を行っていたため、その分だけ不満を溜めていた人たちがこの配信を見に来てくれたようだ。
コメントを見てみると、確かにそんな感じだ。
〈"マジでアレックスには困っていたからな……"〉
〈"日本のニンジャ、ありがとう"〉
〈"以前日本のやばい魔物を倒したっていうクレイジーニンジャだろ? アレックスを倒してくれてスカッとしたよ!"〉
〈"あいつ本当に迷惑かけまくっていたからな……クレイジーニンジャ、ありがとう!"〉
〈"これでちょっとは反省してくれればいいんだけどな"〉
〈"あんなのにポーションを渡すとか……クレイジーニンジャ優しすぎるだろ……"〉
……アレックス、どうやらあちこちで問題を起こしていたようだな。
ポーションをあげたのは、さすがに俺だって人殺しになりたくないからだ。
麻耶の将来にも影響してくるだろうからな……。
「私もそこまで詳しくなかったけど、今調べたら……アレックス、Sランク冒険者みたい」
「ああ、そうなのか?」
〈海外だと結構有名だな〉
〈高ランク冒険者に戦いを挑んでは問題を起こしてるんだよこいつ〉
〈実力は間違いなくあるんだけどな〉
〈海外メインで活動してた迷惑配信者だから知らないかもしれないけど、冒険者界隈ではかなり嫌われているやつだな〉
なるほどな。
そいつを俺が倒したから、こんな感じで盛り上がっているわけか。
ちらと見ると、クレーナがアレックスを引きずるようにしてちょうど転移石から一階層へと逃げていった。
アレックスの魔力反応を見るに、とりあえず落ち着いているので死ぬことはないだろう。傷もポーションでほとんど回復しているようだったし。
「まったく。人の配信に割り込んできて迷惑な奴だな」
「……まあ、アレックスはそれが狙いだったみたい。……とりあえず、どうしよう? なんだか変な風に盛り上がっちゃってるけど……」
「これから、俺たちの夕飯を確保する必要があるんだしこのまま続けていけばいいんじゃないか? "そういうわけで、海外の奴ら! 俺たちの配信の概要欄にマヤチャンネルってあるからちゃんと登録していけよな!" んじゃ、とりあえずグラントレックスの狩りを再開するか」
「う、うん……私は撮影に徹するから」
「もう大丈夫だと思うが、変な奴来たらすぐ言ってくれ。麻耶の友達に怪我をさせるわけにはいかないからな」
「……う、うん分かった」
〈そういえば、ルカちゃん、怪我とかは大丈夫だったのか?〉
〈あのきもいのに触られてたよな……〉
コメントを見て流花の様子を見てみるが、怪我はしてなさそうだよな。
「大丈夫。私は特に……お兄さんがその……すぐ来てくれたから」
流花は頬を赤らめながら掴まれていた腕などを映すようにカメラで撮影していた。
〈ルカちゃんが無事で良かったよ……〉
〈本当、何もなくて良かったな……〉
〈怪我に関していえば、どちらかというとアレックスのほうだよなw〉
〈まあ、お兄ちゃんもポーション渡してやってたし、死にはしないだろうな〉
〈お兄様、ポーション渡すとか本当優しすぎますよ……〉
〈ほんとな。あのまま放置でよかっただろw〉
〈さすがにあのままだと死んでたかもしれないからなw〉
〈ていうか、お兄さんやばくないか? アレックス、問題児だけど実力は確かだよな?〉
〈普通にSランクでも上位層の実力者だぞ?〉
〈それにまったく反応させずに勝つとか、お兄ちゃんってやっぱSランクでも上位か?〉
〈"こんな冒険者が日本にもいるんだな……"〉
〈"日本の冒険者は世界的に見ても能力はあまり高くないほうだと聞いていたが……災害級に近い人もいるのか……"〉
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