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「――剣での戦闘は問題ないな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。今教えてもらっている人にそのまま教わっていっていけば、問題ないと思うぞ」
俺も剣をまったく使えないわけではないが、我流だ。
せっかく基礎がしっかりとできている凛音のそれを崩してまで教えるほどの代物ではない。
……第一、俺は剣で相手を仕留めるというよりは剣は相手の攻撃を受けるためだけのもので、本命は拳や蹴りだからな。
「良かったです……。最近いまいち成長ができていなくて、周りに置いていかれていたので……不安だったんです」
「剣は、問題ない。……問題は魔法だな」
俺の指摘に、凛音は頬をひきつらせる。
「……うげ? そうですかぁ? 具体的にどのあたりがですか?」
「魔力の無駄が多い。魔力を込めるまでは問題ないが、そこから先の出力の部分で失敗しているな」
「魔力の感知ができるとそこまで、分かるんですね……」
「まあな。これからその調整をしていこうと思うんだけど、もう一回魔法を使ってみてくれないか?」
「分かりましたっ」
「一応、自分で修正できるかもしれないから魔力をより意識して魔法を使ってみるようにな」
「はい!」
凛音はむむむ、という表情とともに魔力を練り上げ、魔法を構築していく。
凛音の体内では今にも爆発しそうなほどの魔力が集まっている。だが、それが魔法という形になる頃には、それまでの威圧感はどこへやら。
集まっていた魔力のほとんどが魔法にならず、外へとただただ垂れ流されてしまった。
凛音の手から放たれた水魔法は、先程リザードマンもどきに放ったものより少し威力はあったが、それでも最初に練り上げた魔力からは考えられないほどに弱いものだ。
「……どうでしたか?」
「まだまだ、無駄が多いな」
「……そうですか」
それから何度か凛音は魔法を使ってみるが、毎回同じだ。
ちょっと、おかしいんだよな。
魔力がうまく使えない人は、そもそも練り上げることさえできない。
体内の魔力が多くあるというのに、それを魔法に変換する術を知らないことが多い。
だから、多くの場合、まずは自分の体内の魔力を自覚させるところからスタートさせる。
麻耶の場合がそうだった。
魔力はかなりあるほうだったが、そもそもそれを自覚できていなかった。
だから、魔法を使う場合も、高威力低威力とそのときそのときで不安定になってしまうことが多かった。
だが、今の凛音は明らかに状況が違う。
「凛音。とりあえず魔力の使い方を教えていく。触れてもいいか?」
相手は女性で冒険者学園に通っているのなら、恐らく中学生か高校生だろう。
……立派な体つきをしているので、恐らくは高校生ではないだろうか? これで中学生だとしたら麻耶の成長期はどこに行ってしまったのだと考えてしまう。
「は、はい。手で大丈夫ですか?」
「ああ」
俺が手を差し出すと、彼女は俺にお手をするように乗せた。
お互い向かい合って手を触れあう形だが、凛音はあまり慣れていないようで僅かに頬を染め、照れを誤魔化すように微笑んでいる。
俺はそんな彼女の体内の魔力を意識していく。
「凛音。まず魔力を練り上げてみてくれないか?」
「はい。こ、こうでいいですか?」
「問題ない。俺が凛音の魔力を操作するから変な感覚がするかもしれないけど、我慢してくれ」
「ま、魔力の操作って……ひう!?」
彼女の魔力を感じ取った俺は、その魔力を操っていく。
凛音は顔を赤くしている。
なるべく不快感を与えないように丁寧に操っていたのだが、ひとまず問題はなさそうだ。
「こ、これ……ど、どうなってるんですか? 体中から力が沸き上がってきますけど……」
「……凛音の魔力量は、お世辞抜きで凄まじいんだよ。それこそ、麻耶級だ。その魔力を全身に行き渡らせたんだ。この感覚を練習してみてくれないか?」
相手に触れていれば、魔力の操作も簡単に行える。
だからこそ、触れると同時に相手の魔力を滅茶苦茶にかき回すことで、眩暈のようなものを起こさせることもできる。
俺が武器を使わずに戦闘しているのには、これを活用するためでもある。
彼女の身体強化の維持をやめると、魔力は離れていく。
一度手を離し、次は凛音一人で身体強化の練習をしてもらう。
「……さっきのような感じですね? 分かりました」
それから、彼女はすぐに同じように身体強化を使っていく。
彼女の魔力の流れを確認しつつ、問題があればすぐに俺が修正を行っていく。
一度で完全に習得することはできなかったが、それでも何度かやっていくと凛音は飲み込みが早く、すぐに全開の身体強化を身に着けた。
「……こ、この状態?」
「ああ。そのまま維持してくれ」
そうして、全身に魔力をいきわたらせ、彼女が身体強化を行う。
ただ、維持するのは相当大変なようで、踏ん張っている状態のようにぴくぴくと動いている。
そうして、しばらくして彼女の魔力が乱れ始めると、そこから崩れるのは早かった。
「うぎゃ!? い、いったあ……!? お兄さん、全身が凄い痛いです……」
「まあ、失敗したらそうなるわけだ」
麻耶も初めてのときはとても痛がっていて、それがまた可愛らしかった。
全力で心配はしていたのだが、ほのかに生まれた心の高鳴りは今も俺の思い出だ。
筋肉痛のような激痛が全身を襲ったことだろう。
「……こ、これ……が正しい身体強化、ですか」
「そうだ。痛みは嫌だと思うが、それを一つの目安にしてあとは訓練していく。痛みにならない場所で維持を続けて、その限界を伸ばしていく作業を繰り返していくだけで、身体能力の高い冒険者になるはずだ」
俺が身体強化を伸ばしていったやり方はこれだ。
他の人にまであっているのかは分からないので、すべての人に押し付けるつもりは特にない。
あくまで、凛音に合えば、この訓練を続けていってくれ、という感じだ。
「……し、失敗しないように頑張ります」
「身体強化に関しては、限界を維持していけるようになったらまた次の限界を見つけてそこの維持をしていく。この繰り返しだな」
「そのたびにさっきのような痛みに襲われるんですよね?」
「分かりやすいだろ?」
「分かりやすいですが……あまり体験したくないです」
「だから、多くの人は中途半端なところで身体強化を諦めちゃうんだよな。ここで差がつくから、高ランクの冒険者を目指したいなら続けること」
「はい、頑張りますっ」
やる気は十分だ。それだけの心意気で挑んでくれると、教えるほうとしても嬉しいものだ。
あとは感覚を掴んでいけば個人で練習をしていけるだろう。
どちらかというと、魔法のほうが問題だよな。





