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 ――私のせいだ。


 お兄ちゃんに突き飛ばされた私は、同時に投げ出されたスマホとともに目の前でお兄ちゃんが黒竜に潰されるのを、ただ黙って見ることしかできなかった。


〈マヤちゃん! 早く逃げて!〉

〈なんとか別の階層に繋がる階段まで行くんだ!〉

〈すぐ逃げろ!〉

〈お兄さんの死を無駄にするんじゃない!〉

〈階段までいけば魔物は入ってこれない!〉

〈走れ! 早く!〉

〈嫌だよ! マヤちゃんが死ぬところ見たくない!〉


 お兄ちゃんが残してくれたスマホに映る画面には、そんなコメントが流れていく。

 だけど、私の足に……力は入ってくれない。


 ――お兄ちゃんに、恩返しがしたかっただけなのに。


 ――十年前。 

 発生した迷宮から魔物があふれだし、それによって仕事中だった私の両親は……死んでしまった。


 当時の私はまだ6歳で、お兄ちゃんは16歳……高校一年生だった。

 ……そんな私を、お兄ちゃんは必死に育ててくれた。

 周りで手を差し出してくれる人がいない中、お兄ちゃんは高校を辞めて冒険者になって、危険な思いをきっとたくさんして……それで私に今まで通りの生活が送れるように、頑張って育ててくれた。


 そのお兄ちゃんに、少しでも恩返しがしたいと思って……中学の時から配信活動を始めた。

 そんなに才能がある私じゃなかったけど、少しずつ視聴者が増えてくれた。

 そんなとき、事務所に声をかけられて、私は少しずつだけど視聴者を増やしていった。


 ……今では、普通の社会人くらいには稼げるようになって、これからお兄ちゃんに恩返しをしていこうと思っていたのに。


 ――でも、結局私はまたお兄ちゃんに迷惑をかけたんだ。


〈マヤちゃん! すぐ逃げて!〉

〈おいこれ誰か助けに行けよ! マヤちゃんが死ぬんだぞ!〉

〈無理に決まってんだろ!? 黒竜にはあの伝説の冒険者パーティーだって勝てなかったんだぞ!?〉

〈黒竜が出るのは95階層……。挑戦者が全滅させられたから、攻略階層が94階層なんだよ……〉

〈どうするんだよ! 誰かなんとかしろよ!〉


 ……逃げなければいけない。

 でも、逃げ切れたとして……その先に何があるんだろう。

 もう、お兄ちゃんもいない。

 それなら……生きていたって――。


「ガアア!」


 黒竜が咆哮をあげながら、こちらへブレスを構える。

 ……集まる炎。

 あれに呑み込まれれば、きっと私は痛みさえも感じる間もなく死ぬことになるだろう。


「お兄ちゃん……ごめんなさい……」

「おいこら! 麻耶に何しようとしてんだこのクソドラゴンが!」


 そのときだった。

 聞き慣れた声が聞こえた時だった。

 今まさにブレスを放とうとした黒竜が吹き飛んだ。ブレスは私に当たることなく、天井へと当たり、凄まじい熱風が肌を撫でる。


「おい麻耶無事か!? 怪我ないか!?」

「う、うん……! お、お兄ちゃんこそ大丈夫なの!?」


 なぜか、ピンピンしているお兄ちゃん。

 ど、どゆこと?

 ゆ、夢?

 もう私、死んで天国にいるの?


「え? ああ、あのくらいなら別にな。それよりちょっと待ってろ! すぐぶっ倒してまた一階層に戻って配信できるようにするからな! ほんとすまん! 麻耶の可愛さに見惚れてトラップ見逃しちゃった!」


 てへ、とばかりに舌を出すお兄ちゃん。

 いつもの家での適当な感じのお兄ちゃんだ。


〈え? 何がどうなってるんだ!?〉

〈いま黒竜殴り飛ばさなかったかこのお兄ちゃん?〉

〈いやいや、そんなわけないだろ?〉

〈ていうか、潰されたのになんで生きてるんだ?〉

〈どういうことだってばよ……〉


「ガアアア!」

「おいうっせぇぞクソドラゴン! 今麻耶と話してんだよ! それじゃあ麻耶、そこから動くなよ。んじゃちょっと行ってくるから」


 お兄ちゃんは笑顔とともに手を振ると、黒竜へと向かっていった。


〈は? へ?〉

〈何が起きてんだ……?〉

〈コンビニにでも行くようなテンションで草〉


 黒竜が翼を広げて浮かび上がると、お兄ちゃんも空へと跳んだ。

 お兄ちゃんはそれから、空気を固め、それを足場に空中を移動する。


 ……お兄ちゃんは無属性魔法の才能しかなくて、できることは身体強化と魔力凝固くらいだ。


 その魔力凝固を使って、お兄ちゃんは足場を作っているんだ……と思う。

 何度か指導をしてもらったから、理論は分かっている。……私は苦手であまりできないけど。


 お兄ちゃんは一瞬で足場を固めて踏みつけ、黒竜へと接近する。


「ハッ! おらおらどうした!? 飛んで有利にでもなったつもりかよ!」


 ……お兄ちゃん。

 戦っているときのお兄ちゃんはちょっとねじが外れちゃう。

 それが……かっこよくもあるんだけど。


 Gランク迷宮で戦闘訓練を受けたときも、お兄ちゃんは結構強かった。でもまあ、Gランク迷宮だしと思っていた。


 ……そういえば、私お兄ちゃんの冒険者活動について詳しく知らない。

 でもかっこいいから……今はそのかっこよさを少しでもカメラに収めないと。

 黒竜を完全に翻弄し、隙だらけとなったその頭をお兄ちゃんは、


「おらよ! いつまでも飛んでんじゃねぇぞ! 麻耶が首痛めたらどうするつもりだよ!」


 殴りつけた。

 最初の尻尾の一撃の仕返しとばかりの一撃に、黒竜は地面へと叩きつけられた。

 ……よろよろと起き上がり、再び飛ぼうとした黒竜の翼へと着地したお兄ちゃんが、その翼に手をかける。


「はいはーい! また飛ぼうとした悪い翼にはお仕置きだ。花占いするぞ……! 好きー嫌いーはい、嫌いー!」


 花占いの要領で黒竜の翼をもいだお兄ちゃんは、その翼をバットのように使って黒竜を殴り飛ばした。


 翼をぽいっと捨てると、それは霧のように消えていく。

 魔物は霧によって形成される。その部位破壊をしても同じように消えてしまう。


〈草!〉

〈お兄ちゃんやばすぎwww〉

〈強すぎだろこのお兄ちゃん!?〉

〈なんだこのイカレたジャパニーズは!?〉


 気づけば、視聴者が増えまくっていた。

 私の過去最が五千人ほどだったのに今は……一万、二万まだまだ増えていく!

 まるで戦闘力のようにとどまるところを知らない。日本語だけじゃない、英語とかよくわからない言語までも増えている!


「お、お兄ちゃん……私……今バズってるよ……!」


 私は応援の気持ちとともにすっとカメラをお兄ちゃんのほうに向ける。

 このお兄ちゃんのかっこいい姿を残すために。


〈バズってるのはお兄ちゃんだぞ〉

〈マヤちゃん。しっかりカメラには収めてて草〉

〈配信者魂なのかね〉


 すっかり、コメント欄は落ち着きを取り戻していた。

 それほどまでに、お兄ちゃんは黒竜を圧倒していた。


 黒竜がよろよろと起き上がると、突進する。

 それをお兄ちゃんは突き出した右手で掴み、地面に叩きつけた。


「おらおらどうした!? 力比べは苦手競技か? なら次は綱引きだ! 綱はおまえの尻尾だけどなァ!」


 叫んだお兄ちゃんは、黒竜の背後へと跳躍するとその尻尾を引っ張り、引きちぎった。

 黒竜に表情はないと思っていた。

 だが、その顔は明らかに恐怖していた。

 その黒竜へお兄ちゃんが迫り、そして。


「よくも麻耶に怖い思いさせやがったな! 死んどけクソドラゴンが!」

「が、アアアア!」


 黒竜は最後の一撃とばかりにブレスを放とうと口を開いたが、それより先にお兄ちゃんの拳がめり込み、首が九十度に曲がってへし折れた。

 黒竜は立ち上がることなく、出てきたときのような霧となって消えていく。


「よし……麻耶。ボスモンスターぶっ倒したからそこの転移石で移動できるようになったはずだ。これで、一階層に戻ってまた配信できるぞ」

「お、お兄ちゃん……もう今更一階層の配信はできないよ」

「え? なんで?」

「……お、お兄ちゃんの配信が凄すぎて……私の戦闘なんて恥ずかしいよ?」

「え? まさかまだ配信続いてるのか!?」

「う、うん」

「……ま、麻耶だよー! 黒竜倒したよー!」


 私の背後に回ったお兄ちゃんは、裏声でまったく似てない私の物まねをして、炎上した。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ↓ 下のリンクから読んでみてください! とか書いてたが、作者によって削除されとるがな
[良い点] え?誤魔化し方が雑で草しか生えない
[一言] 2枚しかない翼で花占いするくだり草生える
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