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「……そうだな。もう撮影は終わりでいいんですか?」
スタッフに確認で声をかけると、慌てた様子で頷かれる。
「え? あっ、はい……大丈夫です!」
「それじゃあ、さっき言ってた指導含めてちょっと魔力の使い方でもみるかね」
「お願いしまーす」
相手としてはちょうどいいだろう。
有原が歩いていき、俺もそのあとをついていこうとしたところで、背後から肩を掴まれた。
振り返ると、そこには有原のマネージャーさんがいた。なんとも決死の表情をしている。
マネージャーとして、止めようとしているのだろうか?
そう思った次の瞬間だった。
「お兄さん……私の世界一プリティーキュートな美也に怪我だけは、どうか怪我だけはないようにお願いします」
……どうやら有原を心配してのもののようだ。
心配性な人だとは思うが、その気持ちも分からないでもない。
俺も恐らく麻耶が同じようなことを言った場合はとても心配するからだ。
「ええ、いいですけど……世界一プリティーキュート?」
「美也の可愛さを表現するためのものですが……まあ、美也の可愛さは言葉ではとても表現できませんがね」
「いや麻耶のほうが可愛いんですけど?」
「は? 何言ってるんですか?」
俺たちが睨み合っていると、有原が俺の背中を押す。
「ほらそこ、二人で変な争いしてんな。ほら、お兄さん。あーしを見ててね」
有原はウインクとともに俺の前に出る。ソルジャースケルトンもじろりとこちらを睨んでくる。
ソルジャースケルトンの探るような視線がこちらへ向く。……先ほどの有原さんのマネージャーとやり取り中も俺が威圧していたから、警戒しているようだ。
ただ、有原はその視線の動きが少し気にくわなかったようだ。
「よそ見、してんなっ」
有原が叫ぶと同時、全身の魔力をこめて踏み込んだ。鋭い一閃がソルジャースケルトンに迫るが、ソルジャースケルトンはそれに剣を合わせる。
「ガアア!」
ソルジャースケルトンが叫び、剣を振りぬく。
有原もそれに応えるように剣を振り、お互いの剣が激しくぶつかりあう。
……思っていたよりも、かなり動けるな。
ソルジャースケルトンの連撃にうまく対応している。
それをソルジャースケルトンも理解しているようだ。
さらに身体能力を高めていき、攻撃が激しさを増していく。
「頑張れ美也ー! 勝てたらご褒美に今日は駅前のナイントリアのプリン買って帰るよ!」
……ソルジャースケルトンの攻撃に合わせ、激しさを増すのは有原のマネージャーの声援だ。
有原のマネージャーは周りが恥ずかしさを感じるほどの声援を送っている。
厄介なファンみたいになっている。
「……なんていうか、もう少し周りを気にして声援送れないものなんですかね」
「普段の麻耶さんへのお兄さんもあんな感じですよ?」
「……あれ? いつもの『冗談ですよ?』の言葉待ってるんですけど……」
「冗談じゃないですよ?」
霧崎さんがにこりと微笑んできて、俺は苦笑するしかない。
しかしまあ、麻耶への応援は仕方ないだろう。
そう開き直っていると、ソルジャースケルトンから放たれる魔力が増した。
……余裕があるのはソルジャースケルトン側か。
今、有原の限界の強化をソルジャースケルトンが超えた。
それでも有原はまだ受けきれている。
ソルジャースケルトンの連続攻撃をどうにか捌けているのは、剣の技術によるものだ。
経験からくる先読みと剣の技術。それらによってどうにか堪えていた有原だったが、それでも無理と判断したのだろう。
有原は、魔力を膨れあげ、そして風魔法を放った。
緑の鋭い風がソルジャースケルトンの体を襲い、切り裂く。
しかし、ソルジャースケルトンは魔法への耐性が高いほうだ。
だからか、有原の渾身の魔法は引き上げた身体強化で受け切られてしまった。
……剣を切り結んでいたこともあり、魔法に集中しきれなかった部分もあるな。
ソルジャースケルトンが再び剣を振り下ろし、有原が身体強化をさらに引き上げる。
しかし――有原の表情が歪んだ。
身体強化に失敗したようだ。
全身を筋肉痛のような痛みに襲われたのだろう有原の動きが鈍り、ソルジャースケルトンの剣が迫る。
「ひゃああああああああ!?」
悲鳴を上げたのは有原のマネージャー。……有原は堂々となんとか次の一手を打とうとしているんだから、もう少ししっかりしてくれ。
ただ、有原の策は恐らくどれも間に合わない。
なので、俺が間に割って入る。
「ちょっとタイムな」
ソルジャースケルトンの剣を左手で掴んで受け止める。
噛みついて来ようとしたソルジャースケルトンに頭突きを返し、怯んだところで頭を掴んで地面に押さえこむ。
俺から逃れようともがくそいつを魔力で押しつぶして拘束しながら、俺は有原と向かい合う。