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「もうすぐ次破壊するから。ちょっと周囲見ててくれ」
「了解」
迷宮の天井はさすがに頑丈だ。
そりゃあ黒竜とかが暴れても穴が空かないわけだしな。
だから、破壊するのにもさすがに力が必要というわけだ。
俺は少し魔力を溜めてから、もう一度足を振り下ろした。
〈……え? 今きたら何かやばい光景になってんだけど、誰か解説してくれないか?〉
〈お兄ちゃんがEランク迷宮の天井に穴開けて移動してんだよ〉
〈???〉
〈草。事実だけど事実だけ出されても理解不能だわw〉
〈俺冒険者として活動したことないんだけど、これって普通じゃないのか?〉
〈普通じゃないから……また勘違いしちゃってるじゃんか〉
そうして天井を割っていって進んだ先。
大広間のようなフロアへと降りた。
俺は一緒に降りてきた玲奈へと視線を向ける。
「玲奈、今何階層だ?」
「この大広間で八階層だね」
「七、八階層くらいにボスフロアがあるって協会は言っていたけど、ビンゴだな」
俺たちが着地すると同時、俺たちの侵入に気づいた迷宮が魔物を作り出した。
さらに奥へと繋がるであろう階段があるほうには扉がある。
このボスを討伐しなければここから先に進むことはできないというわけだ。
……まあ、別にボスモンスターを無視して壁に穴をあけてしまってもいいのだが、それはさすがにボスモンスターも可哀想だろう。
ここまでの移動に五分もかかっていないので、相手する時間的余裕はある。
それに普通の迷宮とは違う可能性もあるようだし……それ含めて念のため様子を見ておいたほうがいいだろう。
「どうするの?」
「さっさと倒すとするか」
現れた魔物はゴブリンリーダー一体だ。
ゴブリンリーダーがボスモンスターの場合、仲間を呼ぶことが多いのだが……向かいあってから十秒ほど経っているがそんな気配はない。
ここのボスはこいつだけか。
少しだが個体としてのランクも高そうだ。
今も迷宮が成長しているわけで、
とはいえ――。
俺が踏み込んで一瞬で距離を詰め、ゴブリンリーダーの顔に肘鉄を当てる。
敵の動きを見るためにも多少加減したのだが、ゴブリンリーダーはまったく反応できていないようだ。
ついでに、初心者に解説でもするか。
「攻撃されると、殴られた部位に力がこもって、他の部位の力は抜けやすい。だから顔を殴って怯ませてから、手首をこう掴んで、ひねるチャンスが生まれるわけだ」
見本を見せるように俺はゴブリンリーダーの手首をつかむ。
このやり方は普通の護身術でも教えられている技術だ。
そのまま、手首をひねるようにしてやると、あまり力を使わずにゴブリンリーダーが剣をこぼした。
「魔物たちが使う武器は十秒程度所有者以外が使用した場合、消滅するようになってる。だけどまあ、その十秒以内に剣を拾って――こうする」
拾い上げた剣に魔力を込め、ゴブリンリーダーの首を跳ね飛ばす。
「こうすれば、自分の武器を消耗せずに武器を使えるからちょっと節約になるんだ。俺が金に困っていたときはロクに武器も買えなかったから今お金に困っている冒険者は参考にしてくれ。初心者講座終わり。そんじゃ、迷宮の完全攻略行くぞ」
ゴブリンリーダー自体は特に何の力もなかったな。
本当に少しイレギュラーな迷宮の成長をしているだけ、ということのようだ。
昔を懐かしむようにしながら話してから自分のスマホで確認する。
〈草〉
〈何か初心者講座のフリしてるけど、あんな風にゴブリンリーダーに突っ込んでいける度胸のある初心者がいるかよw〉
〈武器の奪取までスムーズすぎるわw〉
〈まあでも武器の節約になるっていうのだけは、初心者向けかもなw〉
〈内容はまったく参考にならないんですがそれは〉
どうやら微妙な評価のようだ。
俺は開いた扉から階段を降り、奥の小部屋へと入る。
迷宮の心臓部とも言われる場所だ。
「一応、まだ迷宮に入ったことのない人たちへ。通常、協会の指示なくここの魔石をとった場合は犯罪だからな? いくら迷宮奥地の魔石が高値で売れるからって勝手にとらないように。これをとると迷宮内に魔力が補給されなくなり、まもなく迷宮が消滅する……まあ、早くて一時間程度、遅いときは一日くらいかかることもあるからな」
「脱出の準備はちゃんとしようってことだね」
「そうそう。今回はシバシバの魔法もあるし……今日はもう配信も終わりにするとして、いったん俺の部屋にでも移動するか。その前に、会長に連絡もしておいたほうがいいか」
やることは色々とあるんだよな……。
一番簡単な手順としては、このまま迷宮の外に出て下原さんたちに報告するのだが……それだとシバシバの空間魔法を二回使う必要がある。
第一、この配信含めて今頃外は俺や玲奈を一目見る人たちで溢れているはずだ。
外に出るのも大変そうなので、このまま別の場所に移動したほうがきっと色々スムーズに済むんだよな。
そんなことを考えていると、再び俺のスマホが震えた。
『配信見ていました。お疲れさまでした、助かりました』
「それじゃあこれで依頼完了ってことで大丈夫ですか?」
『はい。冒険者カードに登録されている口座に報酬を支払っておきます』
「お願いしまーす」
……たぶんこれで手数料や税金などを引いた金額が俺の口座に振り込まれるのだろう。
毎回このくらいの依頼ばかりであれば時間もそう取られずに済むんだけどなぁ。