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シンギュラリティ(仮)  作者: Racq
プロローグ
1/4

プロローグ-1

 今日もまた、日は沈む。

 この砂の星で生きる為に、狩りをするのだ。


◆◆◆


「おい」


 そろそろ行くぞ、と叩き起こされる。この男は私に住む場所を提供してくれてる人。砂漠の中の穴の中が家の構造になっている。狭いものの、住むには必要以上ではあった。

 右手に革製の手袋をしたこの男の名はウォン、それだけ告げられた。背は私より少し低く、少々小太り。顔の引っ掻き傷が、過去の経験を語っている気がする。ライフルの扱いが上手く、私に銃の基礎を教えてくれた人だ。それだけではなく、この星の生き方に至るまで、だ。所謂、師というやつだろう。


「寒くないようにしろよ」


 髭を揺らしながら口を開くウォン。砂の星の夜は冷える。私が持つ服は一着分。ウォンは男だから、私に合う服を持っていない為だ。

 白い服に袖を通し、体の中心でボタンを止める。寒くならないようタイツを履き、続いてスカートを履いて、ファスナーを上げる。

 カーディガン、タクティカルベストを着用して、その上からブレザーを着る。最後にマフラーを巻いて、終わり。

 この服とは長い付き合いになってきた。私が目覚めた時から来ていたこの服は、私の記憶を探す頼りになる。

 マガジンをいくつかと、必要な装備を掴んでベストに仕込んでおく。弾は有限だが、死んでは意味がない。弾切れにならないよう、余裕を持っておく。

 ここまでしたが、準備はまだ終わらない。最後に髪を纏める。私は髪が長い故に、邪魔にならないようゴムで縛っておく。ウォンからは「切れ」と言われたが、私の心がモヤっとした。口論の末、ポニーテールにすることで話は収まった。

 自身の身長より大きな愛銃を背負い、部屋を出る。


「できた」


 扉を開けると、ウォンは壁に背中を預けて立っていた。


「よし、最後にこれを持っとけ」


 そう言って渡されたのはナイフだった。私の拳三つ分はあろう刃の長さである。渡されたレザー製のナイフカバーにしまい直す。

 これは何だと問うと、ウォンは家の扉を開けて言う。


「まだちゃんとした近接装備を渡してなかったからな。これからは俺と一緒に近接の実戦もする」


 確かに私は今まで後方からの援護射撃ばかりだった。今回から実際の戦闘に参加すると思うと、少々緊張する。


「最後に確認だ。今回の対象はデザートウルフ。肉を剥いだら即撤退だ。緊急事態に陥ったら各自で撤退。──まぁ、無いだろうがな」


 ここ最近で、デザートウルフの群れが近くに移住してきた。今回はその群れの一部が狩りの対象だ。


◆◆◆


 夜、とは言えここは砂漠。

 日中の暑さは消え、いつまでも変わらぬ景色が、私の心身を蝕む。

 しかしデザートウルフの足跡は続いている。歩くたびに、その足跡はくっきりとして来ている。そろそろだろう。


「……居たぞ」


 ぐっすりと眠っているデザートウルフの群れ。子は親にピッタリとくっついて丸くなっている。そんなところを少し可愛いとさえ思えてしまう。私たちはそんな子らをこれから殺すのだ。生きたければ、殺すしかない。現実というのは、生易しくはない。


「よし、俺はあっちから狙撃する。お前はここから撃て。合図は任せる」


 この三年で培った射撃の腕を試されている。

 任せて、とまでは言えないけれども、昔に比べて戦えるようにはなったはずだ。


 私の銃はウォンから貰った巨大なスナイパーライフルだ。全体の約半分を占める銃身が目立つ。

 先端のバイポッドを立てて銃口をデザートウルフの親の頭に向ける。

 親子は幸せそうな寝顔を浮かべて、夢の中を彷徨っているようだ。その時々動く耳や尾が愛らしい。


 引き金の側面に指を当てる。彼らのことを、スコープ越しではあるが眺めた。過酷なこの地で、必死に生きたのだろうと。今日の日まで何を思って生きてきたのか、今何を思っているのか。死の瞬間、何を思うのか。

 私は引き金に指をかけ、その指で引いた──。

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