幼女は教育に泣く
お茶会に行って数日後から妃教育が始まる事になり、今城に向かう馬車の中にいる。横を見上げると付き添いで来てくれた母様と目が合った。
母様がふわっと笑うと私も嬉しくてニコッと微笑む。
「母様は私がお勉強してる時何処に行かれるのですか?」
ふとした疑問を聞いてみると、少し悲しそうな表情を浮かべたが手で私の頭を撫でつつ答えてくれた。
「正室様のところに行ってきます、終わる頃に迎えに行くので心配しないで。初めてのお勉強大変だと思うけど、ステフならきっとやり切れるわ。」
言い終わると顔を近づけて微笑んでくれた、母様の言葉に励まされて元気よくうんっと頷きニコッと笑う。
城に着き教育係だと言うスミス夫人に初めて紹介された。素晴らしいと話題の夫人だと聞いたが、眼鏡の奥からの冷たい目線に少し怖くなる。
しゃがんで抱きしめながら頑張ってねと励ましてくれた母様と別れ預けられた私は、道順を確認しつつ夫人の後ろを付いて妃教育の部屋に向かった。
教育に与えられた部屋は広く、私だけの教育にここまでしてもらって良いのか夫人に聞いた。
「カリーナ様から何処に出しても恥ずかしくない様に、しっかりした教育を施すように言われていますので。」
冷たい目線の様に低く硬い声で言われると、既に母様に会いたくなってくる。泣き出しそうな私を見てスミス夫人が、ため息をつきつつ淡々と言葉を発した。
「このような事で泣くようでは、立派な淑女になれませんよ。貴方の恥は貴方だけでなく、婚約者であるバルガス殿下の恥でもあるのです。
貴方を選んでくださった殿下に恥をかかせる前に、淑女としての振る舞いを身につけてください。」
ここで王子様の名前が出ると思っていなかったので、ビックリして夫人を見上げる。
「貴方の行動全てが殿下の評価になるのです、婚約者になったのなら殿下の為に身を呈して励みなさい!」
私の評価があの王子様の評価になる…
あの王子様が失敗を許してくれる筈が無い事に気がつく、頑張って周りに認められないと家族が殺されちゃう。
顔色が青くなって来ているのに気がついたのか、スミス夫人は中央にあるテーブルに移動して私を呼ぶ。
椅子に座るのを勧められ座ると、いい香りのする紅茶を入れてくれた。
「飲みなさい、そしておちつきなさい。
殿下の婚約者になったのです、淑女を代表する立場たる者は決して表情を読み取られてはいけません。」
夫人もテーブルに備え付けられた椅子に座ると、自分で入れた紅茶を飲む。スカートをぎゅっと握って心を落ち着かせて、テーブル上のティーカップを両手で持つ。
「違います!右手だけでカップを持ち、左手はソーサーを持ちなさい。こちらを見なさい、この様に構えて飲むのです。」
慌ててカップをソーサーに戻し、言われた通りする。しかし力が足りないからかカップとソーサーが当たり、カチカチと不快な音が静かな部屋に響く。
「この様な場所で音を立てるのはマナー違反です、手に力を入れてカップをしっかり支えなさい。」
その後もカップの置く音から始まり飲む姿勢、果てはカップの角度まで指摘されてお茶を飲むというひとつの事で怒られ続けた。
「こんなお茶を飲むという事すらまともに出来ないのですか、初歩の初歩ですよ。貴方は今年からお茶会デビューするのでしょう、全く練習などしなかったのですか?これからは常に人の目に晒されると思って行動しなさい、貴方への評価は全てバルガス殿下に影響を与える事を考えなさい!」
何度も注意され繰り返すうちに、お茶でお腹も膨れて気持ち悪くなってきた。何も出来ないことが情けなくて、下を向いてしまった事で涙がまた零れてくる。
「泣いている時間なんて無いのですよ、その崩れた姿勢を正しなさい。」
ビクッとしてもう逃げたいと思い、椅子から飛び降り勢いで部屋から飛び出した。後ろから名前を呼ばれている気はしたが、勢いのまま走っていく。
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