令嬢は舞踏会で幸せになる
本日2話目です、前の話をまだ読んでいない方は戻ってください。
バルガス殿下と昔交わした約束の事を話していたら、いきなり見知らぬ人に婚約を求められた。
パッと見少し年上の青年で淡い金色の長い髪を後ろでひとつに結び、見上げてくる瞳は澄んだ水面を写し取った様に青く真っ直ぐに見つめてくる。顔つきも精悍で整っていて誰かに似ているような気がするが、疑問に思い見ると迷いがない真っ直ぐな視線にこちらが照れてしまう。いきなりの展開と見つめられる事で照れて慌てていると、男性は微笑みながらスっと立ち上がった。
「流石にいきなりすぎたかな、ステフ久しぶりだね。」
にっこりと笑った顔に見覚えがある、私は彼の事知っている!
「リヒト?」
「そうだよステフ、素敵な淑女になっていてビックリしたよ。」
やっぱりリヒトだ、幼い時に助けてくれた彼がここに居る。
嬉しさにリヒトの腕を掴んで存在を確かめ、気になっていた事を問いかける。
「あの後ずっと城内で探していたのよ、でも全く会えなくて。ずっと会いたかったの、あの後私ちゃんとスミス夫人から認められたのよ!あのね、どうしよう話したい事が沢山で何から話したら良いのかしら…。」
いきなりのテンションで話しかけると、リヒトが掴んでいない左手で口元を覆い笑い出す。
「やっぱりステフは僕を笑わせてくれる存在だね、こんなに楽しいのも久しぶりだよ。」
笑わせたくて話してる訳じゃないのにと思って、不満を表す為にちょっとプクッと頬を膨らませる。それを見て更にリヒトが笑い出す、私が笑わせるんじゃなくてリヒトが笑い症なのではと思う。
「ごめんごめん、ステフは相変わらずで何よりだ。」
「何故お前たちは愛称で呼び合い、お互いを知っているんだ!」
リヒトの存在ですっかり忘れていたバルガス殿下が、こちらに向かって怒鳴りつけてくる。リヒトとのやり取りで気が抜けていた所で、いきなりの怒鳴り声にビクッとしてしまう。
「バルガス怒鳴るな、ステフが怖がるだろう。」
私を庇う様にリヒトがバルガス殿下と向き合う、殿下にそんな事言って大丈夫なのか反対に心配になる。
「うるさい、兄気取りでお前如きが俺に指図するな!何故関わりのあるはず無いお前達は、お互いを知っているんだ。」
リヒトが兄?リヒトがこの国の第1王子様なの?
「城を出る前に迷子になっていたから城を案内したんだよ、ステフの話はその前から色々聞いていたけどね。」
納得出来ない様子のバルガス殿下を置いて、リヒトがまた私を見つめてくる。
「僕はその時から君の事だけ思っている、ずっと君の事が好きだよ。君にあげられるのは僕という存在だけしか無いけど、僕の手を取ってくれないか?」
改めて告白されてしまった、私はどうなんだろう?
あの時助けてくれたリヒトに会いたくて、登城する度に探し会えなかった事を落ち込んでいた。たった一度の出会いだったが、リヒトは私の中で特別な存在になっていたんだ。
妃教育も受けたし情勢も知っている為、第1王子が微妙な立場に置かれている事は知っている。私は王子であるリヒトが特別なのでは無い!あの時出会ったただのリヒトが特別なのだと思うと、トクンと胸が締め付けられる。
「私はただのリヒトが好き、こんな私で良ければよろしくお願いいたします。」
見つめ返してにっこり笑うと満面の笑みを浮かべたリヒトの片手が腰に周り、もう片手で私の手をすくい上げて口元に持っていき口づけを落とす。そんな事に慣れていない私は照れて慌ててしまう、好きだと自覚した為か近くにあるリヒトの顔を見ることが出来なくなってしまう。
周りから拍手が聞こえてきた事で、ここが夜会の会場である事を自覚する。周りからの温かい目に、真っ赤になった頬を押さえて下を向いてしまう。
バルガス殿下はこのやり取りが面白くなかったのか、チッと舌打ちをしている。
「国王陛下、ご入場。」
門番の声に皆一斉にお辞儀をして、陛下の声を待つ。
「皆、顔を上げよ。皆にこの場を借りて発表がある。
気がついた者も居ると思うが、我が息子アルリヒトが少し前に留学を終えて戻ってきた。戻ってから政務を少し任せてみたが、上々の成果をあげておる。王子たちの成長を見守りずっと保留のまま置いていた王太子についてだが、この場で第1王子アルリヒトを正式に王太子に据え今後動いていく。」
陛下の発言を理解すると、多くのどよめきがあがる。今まで第2王子であるバルガス殿下が有力候補だったのだから。
第1王子の母親は子爵家出身で、有力な家から側室を娶る事を条件に国王が結婚したのは国内では有名な話である。その為第1王子は後ろ盾が弱く、派閥の大きさで年齢を無視して第2王子が王太子候補とみなされてきた。
今までの思惑をひっくり返す事を言ったのだから、皆驚くのも無理がないのだ。
「父上何故アルリヒトなのですか!」
納得出来ないバルガス殿下が、陛下に問いかける。
「バルガスよ、お前政務をリデラ侯爵令嬢に甘え任せっきりにしていたな。婚約破棄後政務の滞りが報告されている、そしてその滞りを解消したのがアルリヒトだ。そして最大勢力であるリデラ侯爵家から正式に第1王子を擁護すると先触れがあった、どういうことか分かるな?」
まさかお父様がアルリヒト様につくと宣言している事に驚きを隠せない、どうしてお父様はアルリヒト様を知っているのだろうか。つい横に並ぶアルリヒト様を窺うと、ニコッと微笑み察してくださったのか答えてくれた。
「私の母はステフのお母様と学院時代からの親友で、母が王家に嫁いでからもよく話に来ていたんだよ。よくステフの事を聞いていたから会った時、ああこの子がステフだと気がついたんだ。」
それで会ってすぐに愛称を言い当てられて呼ばれていたのかと納得していると、アルリヒト様の横からお兄様が出てくる。
「ステフと会ってからはステフの事を色々聞いてきてたがな、まさか初っ端から求婚するとは聞いてなかったぞ。」
「お兄様はアルリヒト様の事ご存知だったのですか?」
「ああ。幼い頃母上と一緒に王宮に来てはリヒトと遊んでいたし、留学してからは手紙の交換をしていたからな。
今日この夜会にステフを連れて参加するように言ってきたのもコイツだ、ただ会って話すだけだと思ってたら婚約まで話が進んで帰ってから両親になんて報告しようか悩んでるよ。」
よく言う幼なじみという事なのか、兄の気軽に話す素振りに驚く。
アルリヒト様が手を繋ぎ微笑んでくるのが、心地よく優しい気持ちになる。ああ、これが恋をするという事なのだと実感する。
幼い頃に交わされた恐怖とも言える婚約があったから今の自分が居るんだと思うと、恐怖に震える幼い私に伝えたい。
「この婚約を乗り切ると本当の王子様が待っていて、今度は幸せを感じて歓喜に震える時が来る。」
これで一応本編が完結になります、ここまで付き合ってくださった皆様に感謝です。初の完結作品でここまで書ききれたのも、読んでくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました!
本編に書ききれなかったお話を番外編で数話投稿予定です。良かったら引き続きよろしくお願いします。