殿下は現状で墓穴を掘る
沢山の評価にブックマークありがとうございます!
楽しんで頂けるように、残りの僅かですが更新を頑張ります。
「俺との約束だと?」
ステファニーは「はい。」と答える、俺は何を約束したのか考えるが本当に全く覚えが無い。婚約して直ぐという事は当時5歳のはずだ、そんな過去のことなど覚えている方がどうかしている。
「俺との約束とはなんだ?」
「流石にこの場で約束の内容を答えることは出来かねます。」
注目を集めていた所に、俺が怒鳴った事で衆目はこの場に集まっているといっても良い状況だ。困り顔で首を傾げているが、幼い頃の約束なのだから大した事では無いだろう。
「許す!」
「しかし…ここでは。」
渋るステファニーにイライラしつつ、内容を言うように促す。
「俺が良いと言っているんだ!良いから言え。」
あいつはビクッとしていたが、両手を胸の前で組みギュッと握りしめ覚悟を決めたのかこちらを見つめて口を開いた。
「申し上げます、約束は全てにおいて殿下の言う事を必ず聞くことです。」
周りが息を呑んだ音がする、その後ヒソヒソと話し声が響いていく。子供の癇癪や思いつきの命令で1人の令嬢の全てが、今まで決められていた事に反感を持っても仕方あるまい。それも仕方あるまいリデラ侯爵令嬢の評価は全てにおいて低く、笑われ貶される様な評価を今まで受けていたのだから。
幼い頃の俺は何を考えて約束をしたんだ、ただの子供特有の我儘ではないか。周りの目があるこの場で王家の一員として謝ることは避けたい、なんとか妙案を出してこの場を上手く纏めなくては!
「リ…リデラ侯爵令嬢、幼い頃の俺が大変な約束をしていたのだな。今まで俺の望みで願いを叶え続けていてくれた事を評価し、どうだもう一度婚約者に据えてやろう。」
俺の横から息を呑み腕を引っ張られるが、この際無視を決める。約束がバレてここまでさせて婚約破棄したことは、俺の評価に著しいダメージを与えてしまっている。なんとか挽回しようと思うと、既に撤回してしまっている婚約を復活させるしかあるまい。
そこまでして俺に尽くしていたという事は俺の事を好きでなければやっていられないだろう、俺の言葉に感動してすがりついてくるに違いない。ヴェルローズには悪いが側室としてそばに置き、ステファニーを正室に据えれば醜聞の問題もあるまい。
妙案が思いつき浮かれた俺はヴェルローズに掴まれていた腕を振り払って、リデラ侯爵令嬢の方に手を差し出す。早く手を取れと思っていると、再び胸の前で組んでいた手をギュッと握ってキリッとした眼差しでこちらを見つめてきた。
「その婚約お断り申し上げます。」
まさかの展開に俺の思考がついていかず、手を差し出したまま固まってしまった。王家からの打診で俺との婚約だぞ、ここまで約束を守ってきたという事は俺の事を好きなはずだ。
「俺の事が好きだから約束をここまで守ってきていたんだろ?ここは喜んで受けるところじゃ無いのか!」
興奮の余り勢いで言い切り、目の前のリデラ侯爵令嬢を睨む。この様な衆目の前で恥をかかされるとは思っていなかったので、睨む視線に力が籠る。
それに比べこちらを見返す視線には、哀れみすら感じさせて余計にイライラさせる。
「殿下との婚約破棄は王命で決定されております、その時国王陛下から自分の婚約は自分の判断で決めて良いとお言葉を授かっております。
婚約からずっと殿下に恋愛感情を抱いた事はございません、ずっと殿下には恐怖しかありませんでした。」
そういえば卒業パーティの時王命で婚約破棄を認められていた事を思い出す、政略的な婚約もあるので婚約自体に恋愛感情が無いこともある事だ。
しかし言うに事欠いて俺との婚約が恐怖だったと言われるとは思っていなかった、何故そこまで言われないといけないのだ。
「言うに事欠いて恐怖だと!何故そのような事を言う。」
見返すリデラ侯爵令嬢の視線が驚愕に囚われる、何故か責められている気持ちになるではないか。
「バルガス殿下、本当に約束を覚えていないのですか?」
どうやら約束には続きがある言い方なのが気になる、一体何を約束したのか気になり聞き出す事にする。
「幼い頃交わした約束の内容全てを言え、言葉を濁さず全てだ!」
リデラ侯爵令嬢の胸の前で組んだ手が力を込めているのがわかる、戸惑っているのか話し始めてから初めて視線が泳ぐ。
唇を噛み締めたあとで、ゆっくり震える声で告げてきた。
「で…殿下との約束には続きがあり、約束を守らない時は…か…家族を処刑するとおっしゃいました。
なので婚約破棄を言い渡された時、私はやっとこの重圧から解放されるのだと歓喜しました。」
婚約破棄の時震えていたのは歓喜で震えていただと!?言い淀んだのも分かる発言だ、高々王子の身であっても一国の侯爵家を処刑するなんて言ってはいけない事だ。気になってこの場で聞いたのが間違いであった、先程の発言は周りにも聞こえていただろう。王家が権力を振り回すことは求心力を失ってしまう、無闇やたらと処分を口にすることは愚の骨頂だ。人の噂はとどまるところを知らない、今いる人間の口からも周りに伝わるであろう。
第2王子は愚か者だと!
なんとか打開策を打たねば身の破滅に繋がってしまう、何か策をと考え出すと門の方から新たな入場者を告げる声が響いてきた。
「アルリヒト殿下、ご入場。」
訪れた者の名前を聞き俺は反射的に入場門の方を見る、何故奴がここにいるんだ。
アルリヒトは第1王子、俺の4歳上の兄だ。生まれた頃から身体が弱く10歳になる前に王宮から出されて、休養の為隣国へ留学していたはずだ。帰っているなど聞いていないし、見えたアルリヒトは健康そのものの偉丈夫に育っているではないか。周りの大半もアルリヒトの存在に戸惑っている様だ、幼い頃から社交の場になど出たことの無い使えないやつだから仕方あるまい。
アルリヒトも人が分かれて俺達を囲っている状態に気が付き、一瞬怪訝な顔をする。
その時何かを見つけたのか表情が和らぎ、こちらに向かって歩いてくる。
俺の横まで歩いてくるとピタリと動きを止めこちらを一瞬見た後、視線を動かして目の前に居るリデラ侯爵令嬢に微笑んだ。ビクッとしたリデラ侯爵令嬢の前に片膝をつき、手を差し出して世迷言を言い出した。
「リデラ侯爵令嬢、良かったら私の婚約者になっていただけませんか?」
クライマックスです。後1話で完結予定ですので、もう暫くお付き合いよろしくお願いします。
完結後、本編には入れれなかった小ネタを、番外編にして書きたかったりw
誤字脱字変換ミスがありましたら、ご連絡よろしくお願いします。