殿下は戸惑いをぶつける
言われた言葉を理解出来ずに、じっと目の前でカーテシーをして名乗った女性を見る。
今確かに彼女は俺に丁寧に名乗ったが、その名前と顔が一致しない。
「リ…リデラ侯爵令嬢なのか?」
目の前の女性がこちらの様子に戸惑いつつ、こくりと頷きはいと答えた。
目の前の女性が元婚約者のリデラ侯爵令嬢で間違い無いという事
なのか?
以前の姿と今の姿では、余りに違いすぎて驚愕する。雲泥の差である!
以前は連れて歩いていつも笑われていた事を思い出し、怒りに任せて怒鳴りつける。
「何故そんなに変わるんだ!」
ただでさえ注目を集めていたが、更に周りの目が集まってくる。本当はこんな風に目立つ事は良くないと分かっているが、怒りで冷静さを失っていた俺は気にせず怒鳴り続けてしまった。
「以前の地味にしていたのは、俺への嫌がらせだったのか!」
俺の怒鳴り声にビクッと震える、こういう所は以前のままなのかと思う。妹を庇うようにエドワードが動くと、ステファニーがエドワードの袖を握ってフルフルと首を振る。
エドワードの1歩前に出て来たステファニーは、ゆっくりと深呼吸して表情を正して答え始めた。
「いいえ、殿下に嫌がらせなど決してしておりません。」
こちらを見つめる真剣な眼差しに嘘は無さそうだ。
「では何故あの様な姿をしていたんだ?」
「以前の姿などは、全て殿下が望まれた結果です。」
余りの言い様にイライラとくる、俺がそんな事を望むはずが無い。自分の過失を、俺の責任にしようとしているのか?
「俺が望んだだと、バカバカしい。
じゃあ何故髪の色が違う?艶のない髪をひとつに纏めていたのも、俺が望んだからだと言うのか?」
「はい、殿下の望まれた結果です。
婚約して暫くした頃に白髪みたいで気持ち悪いと言われたので、毎日ありふれた茶色に染めておりました。
染める事で髪が傷みパサついていた所、殿下から見苦しいからひとつに纏めるように言われました。」
「あのダサいドレスはなんだったんだ、ドレスを与えなかった俺への当て付けか?」
「殿下が流行りや最先端等で、一々作り直すのを良くは思ってないと聞きましたので。流行り等とは関係の無いドレスを身につけていました。」
先程も同じ事を考えていたので、俺はドレスについて思っていた事をこいつに言っていたのか?
周りの人間が婚約者にドレスすら贈っていない俺に何か思ったのか、ヒソヒソと言葉を交わしている声が聞こえてくる。俺は居心地の悪さを誤魔化すように、ステファニーに次の問いをかける。
「では何故眼鏡なんかかけていたんだ、今つけていないという事は視力に問題がある訳じゃ無いのだろ!」
「私の目の色が作り物みたいで怖いと言われましたので、目が見えない様に作った眼鏡をかけておりました。」
「背筋が伸びているではないか、以前は妃教育を受けてこなかったから姿勢が悪かったじゃないか!」
「成長期に殿下より少し身長が高くなった折に、殿下から背を曲げて身長を低くする様に言われましたので。」
俺の問にステファニーはすぐ様言葉を返してくる。僅かに言った覚えのある事も少しある。言っている事がもし全て本当なら、幼い頃の俺が馬鹿な事を言ったのが悪いようじゃないか。この状況を認めたくなくて、更に粗を探すように言い続けた。
「妃教育を幼い頃に放棄して、受ける素振りすら見せなかったではないか。」
「殿下に妃教育をする位なら、お茶を一緒に飲む様に言われました。
それではいけませんので妃教育はスミス夫人にお願いして、早朝に我が家で行っておりました。スミス夫人からは、妃教育は及第点を頂いています。」
それで毎日飽きもせず、何が楽しいのか分からないお茶を飲んで帰って行っていたのか。ヴェルローズから聞いたスミス夫人が引き合いにステファニーの名前を出していたのも、教育を受け比べる事が出来たからなのか。
横に居るヴェルローズは悔しかったのか、俺の腕にかけていた手にギュッと力を入れてきた。
「王太子妃教育も途中で止め、授業中居眠りばかりしていて成績も最下位から数えた方が早かったじゃないか。
そういえば文官がお前が政務の手伝いをしていたと言っていたが、成績の悪いお前が出来るはずが無いだろう。」
「殿下から勉強が出来るからと偉ぶる様に点数をとることを禁止されておりましたので、学院では試験を受けて飛び級をして期末毎の試験で点数を出さなくても良いようにしていました。
毎日殿下とのお茶を飲んだあとで、私の執務室で夜中まで執務を行っていたので、授業中ついつい居眠りをしてしまっていました。」
居眠りしていたのが恥ずかしいのか、後半モジモジしながら答えていた。
文官が言っていたことは本当だったという事か、さっき言っていた俺が望んだからあの状態だったというのも本当なのか…
何故ここまで俺の言うことを、ひたすらに守っているのか全く分からない。本当に気まぐれや、八つ当たりで言った事もあるのに。
「何故ここまで俺の言うことを聞くんだ!」
「それが婚約して直ぐにかわされた、バルガス殿下と私の約束だからです。」
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