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「青月の都」  作者: 市川 滝
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~まだら~

昔、昔、それは俺がまだ幼い子供だった頃。

「青月の都」という、とある都の話を聞いたことがあった。

そこは、ここから西へ西へといった先にある美しい都で、金も食べ物も人が望むものは全て手に入れる事が出来るのだという。だから、そこでは貧乏も金持ちも皆、関係なく豊かに暮らしているのだそうだ。

だが、その都は簡単には見つける事が出来ない。

なぜなら、そこは〝青い月〟が昇る夜でないと姿を現さない〝幻の都″だからだ…。


もう何年も昔の話だ。

あれから、十五年が経った今でもその都はまだ見たことがない。

当然だ。都の場所も不確かな上に、青い月なんて珍しい月が見れる訳がないのだ。



当時、俺の家は貧しかった事もあり、

その貧しさを紛らす為の母の嘘だったのだろう…。

だが幼かった俺は、母から聞いたその都が、この世のどこかにある事を信じてやまなかった…。




十八の年になった俺は、腕っぷしと喧嘩が強い事だけが取り柄になり、

今では護衛の仕事で生計を立てて生活している。

仕事は順調だ。なぜなら、俺に喧嘩を売ってくる奴はまずいないし、万が一喧嘩をふっかけくるようなバカがいたとしても

大概、俺の顔を見るなり皆逃げてしまうからだ。


それもこれも、俺が幼い頃に侍に襲われた事が原因にある…。

幼い頃、俺は家族で小さな農村の村に住んでいた。貧しいながらも皆、慎ましく心は豊かに暮らしてる、そんな人達ばかりだった。


そこへ突然、大勢の荒々しい侍が馬に乗ってやって来たのだ。

侍達はあっという間に村を取り囲むと、持っているたいまつの火を放り投げ次々と村に火をつけていった。何故襲われているのか…。皆、訳も分からず必死に逃げ惑っていく。

中には女、子供もおり、侍に命乞いをする者もいた。

見知った顔も、昨日まで一緒に遊んでいた友も…皆、侍達の自慢の刀で殺されていく。

瞬く間に火の海になる村、逃げ惑う人々と沢山の悲鳴…そして、笑いながら惨殺していく侍達…。


あの光景は、まさに地獄そのものを見ているようだった。


俺は家の近くの鶏小屋で震えながら隠れていた。常々、母親から鳥小屋では遊んではいけないと言われていたが、この日は約束を破りこっそり鳥小屋で遊んでいたからだ。

しかし、しばらくすると両親の悲鳴が聞こえてきた。慌てて鶏小屋の隙間から外を覗くと、侍が母親の髪の毛を引っ張り、家から引きずり出している所だった。

やめるように必死に静止する父。

だがすぐに喉元を斬られ絶命、その後泣き叫ぶ母もすぐに首を切られ絶命した。



つい、叫び声をあげてしまいそうになり、咄嗟に両手で口元を抑えた。

溢れ出る生暖かい涙が、血のように震える手に滴り落ちる。

目の前で惨殺される両親を助けに行く事も出来ず、ただじっとしている事しか出来ない。

自分がいかに子供で、どれほど無力か…。

そんな弱い自分を、狭く暑苦しい鳥小屋の中で呪うしかなかった…。



その後、程なくして俺は別の侍に見つかり掴まった。 

「おーい!こんな所にも隠れてやがった‼」


俺の髪の毛を掴みながら、そいつは目の前の侍達に呼びかける。さっき、両親を殺した奴らだ。

呼ばれた奴らは、両親の骸を乗り越えこっちにやって来た。すぐに、この侍達の喉元を掻っ切ってやりたいが、この期に及んでも尚、全身が震えて動けない。


「おい、おい、そいつまだ子供だろ?震えてんじゃねぇーか。」

「みすぼらしい格好だなぁ…。この村の捨て子かぁ?」


拘束され、震えながら頭を垂れるだけの子供に情けをかけるような事を言う侍もいた。

だが、俺は覚えている。お前らが両親にした事を…。

ついさっきまで惨たらしく殺していたその口で何を言う…。俺は、垂れていた頭を上げ侍達を睨み付けた。

「はは‼こいつ睨んでやがる‼」

すると、視線に気づいた一人の侍がそう言った。

「子供とはいえ、こいつが大人になれば反乱分子になりかねん。」

「そうだな、反乱の芽は摘んでおかねーと。」

そして、他の奴らもそいつに同調し始めたのを皮切りに、侍達はさっきまでの顔に戻っていった。

「おい、ガキ。俺らに向かって一丁前な顔してんじゃねーか、命知らずだな。」

俺にまたがり、馬乗りになった侍が言う。


そうだ、このまま殺せ。親の仇に同情されるよりずっとマシだ。

父さんと母さんを殺した時のように殺せ…。

一瞬だけ、一瞬だけ我慢すればいい…。

父さんと母さんも一瞬で死んだ。

きっと、俺も一瞬の内に逝く。

怖いのも苦しいのも、一瞬だけ我慢すればすぐに父さんと母さんの所へ逝ける。

「生意気な顔だな…。」

だが、振り上げられたその刀は喉元ではなく俺の〝顔〟を切りつけた。

「ぎゃあぁぁっ‼」

痛がる俺の前で馬乗りになった侍は、相手が子供あっても容赦はしない。

抵抗する俺の細い腕を押さえつけ、刀は何度も振り下ろされた。

「はは‼ガキのくせに!立場ってもんが分かってない奴には教えてやんなきゃなぁ?」


顔から流れた血が目に入り、目の前が真っ赤になった。その赤い視界の先で侍は嬉しそうに笑っていた。

これが人の所業だろうか…。こいつらは侍でも人でもない、〝化け物〟だ。


どれくらい経っただろうか…顔や体、腕…。至る所を斬られ、ようやく意識を失いかけた時…


立派な旗を刺した侍が馬に乗ってやってきた。この辺では見かけない、見た事もない家紋が描かれている旗だった。

それにその侍は、周りにいる侍とは比べ物にならないくらい高価そうな甲冑や兜をつけている。

恐らく、この侍達の親玉。偉い殿様か何かだろう…。


「何をしている…。」


「は‼︎」


一斉に侍達が向き直り、その親玉の方を向く。すると、俺を刺した侍が得意げに口を開いた。

「親方…‼︎このガキが舐めた態度だったんで、ちょいと立場ってもんを教えてやったまでで…」


どうやらあの侍は、親方という奴を怖がっているようだ。薄れゆく意識の中で表情までは分からないが、声色から落ち着きのなさが伺える。

だがその親方という奴は、へつら笑いながら話す侍の話を早々に遮った。


「調子に乗るな…お前らのような俗を侍として雇ってやったのだ。〝らしくしろ″と言ったよな⁈」


「ひっ!ひぃぃっ‼︎も、も、申し訳ありませぬ‼︎」


一斉に平伏する侍達。

「良いな?この家紋をつける以上勝手は許さん…‼」

冷たくよく通る低い声。その声に、また更に深く頭を垂れる侍達…。

暫くすると、列の後ろの方にいた一人が様子を伺うように言った。


「では…このガキはどういたしますか?」


すると、親方という奴は冷めた目で横たわる俺を一瞥し、「そいつはもうよい、恐らく時期死ぬ…。そこへ放っておけ。」そう言い残し馬を走らせ去って行った。


「けっ‼おい…ガキ‼命拾いしたな‼」

「あぁ…運のいいガキだぜ…。」

「だが、虫の息だ。親方の言う通りこりゃもうダメだな…。」

侍達は残念そうに俺の方に視線を落とした。

そして、血だらけで転がる俺につばを吐き捨てながらその場を後にした。


侍達の言う通り、俺は虫の息だった。だが、それでも俺は生き延びた。

呼吸の浅いまま気を失い、次に目を覚ました時…。辺りは真っ暗になっていた。

どれくらい気を失っていたのか…。

そんな事も分からない程、焼け焦げた村に一人、倒れていた。


こうして、俺はくしくも敵に情けをかけられその命を永らえた。

それも敵の〝大将〟にだ。

アイツらは運がいいと言ったが、そんな事は絶対に無い。こんなはずでは無かった。

一瞬で両親の元へ逝くはずが、顔は焼けるように熱いし、全身が痛い。

こんな屈辱はない。息をするたびあいつらの悪行が脳裏によみがえる。

あの家紋…。アイツらの目印だ。

いつか…いつか…絶対に強くなってアイツらを見つけ出す…。

そして、絶対に復讐してやる…‼

八歳の夏だった。俺はそう心に誓い未だ異臭の残る村を後にした。


どれくらい歩いただろうか…。

一晩中歩いて人里に着いた所で、俺は力尽き倒れた。気づいて駆け寄った何人かが、俺の姿を見て驚いているのが分かった。


体の傷のある程度は、時間の経過と共に治っていった。だが、顔の傷だけは残った。

傷口は右上の額から目の上を通って斜めに入る傷、左頬に入る傷、左下あごに入る傷。


傷口はまだら模様のようになり、その姿は怪物そのものだ。

だから、俺の顔を見た人は、皆こう呼ぶ。


〝まだら〟と…。



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