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04 やり直しの朝

 私は暖かい日差しを感じて覚醒した。


 ……ああ、生きてるのね。あのバルコニーから落ちたのによく生きて……。


 高い所から落ちたはずなのに何故か全身の痛みは無かった。


「お嬢様。お目覚めですか?」


 その声はとても懐かしい声だった。私は思わず飛び起きてしまった。令嬢としてのマナーなんてどこかに捨てて。だってこの声は――。


「ケイト! どうして生きて……」


「あらあら。お嬢様はまだお目覚めではないようですね。うふふ。変な夢でも見ましたか?」


「……夢?」


 私が誘拐されたときに私を庇って殺されたはずの侍女のケイトが私を覗き込んでいたのだった。


「さあ、リアお嬢様、朝のお支度を致しましょうね」


「だって、でも!」


 これが夢だって死んだ後の世界だっていいじゃない。


 そう思って私はケイトに抱きつくと大声を上げて泣いてしまった。


「どうしたのですか? あらあら、お嬢様。まるで赤ちゃんのようですよ」


 私の泣き声が聞こえたのか開け放たれた扉のところには――、


「どうしたの?」


 そこには亡くなったはずのお母様までいらっしゃった。


「お母様!」


 最早私の涙腺は止まることが無かった。


 混乱する中、ただケイトに抱きついてその温もりを感じていた。


 お母様と侍女のケイトにこの上もなく優しくされて私は落ち着きを取り戻した。


 どうやら私はこの夢なのか現実なのか分からない世界の中では五歳らしい。


 私はお母様に死んだことを話そうとしたけれど言葉が上手く出てこなかった。前のことを話そうとするとおかしなくらい声が出なくなった。わんわん泣いたので喉もがらがらだった。


 そこへお父様までやって来てくれた。


 私を抱きしめて泣き止むまで慰めてくれる優しい両親。


 あの頃はこんなふうだったのかと記憶が無いので比べることができなかった。


 お父様は王宮でお仕事をされていたので家で姿を見ることはあまりなかったように思う。ただ顔色は遠くからでも分かるほど酷かった。それにかなり痩せていた。今は若返っただけでなく、生き生きとしていた。もしやあの頃、私と同じように脅されて王宮で仕事をしていたのかもしれない。


「一体何があったのかい?」


 前世の思い出とは違いすぎる優しい口調と眼差しのお父様。


「……い、いえ、あの、何だかとても悲しい夢を見ていたようなのです」


「まあ、それで泣いてたの。可愛いリア。夢なのだから気にしないで」


 お母様が私を愛称で呼ぶと優しく抱きしめてくれた。美しく優しいお母様に私はまた涙が溢れそうになった。昔の、小さい頃の私は愛されていたのかもしれない。


 私は再びお母様に抱きついていた。


「まあまあ、大きな赤ちゃんだこと」


 ほほほと楽しそうな笑い声をあげるお母様に私はぴったりと寄り添っていた。


 ――これが夢でも何でもいいわ。もう一度やり直せるならお母様やケイトをなんとしても死なせはしない。


 私はそう決意するとお母様から離れて部屋にある鏡の前に立った。


 私は泣きすぎて腫れぼったくなった顔を鏡で見ながら微笑んで見せた。鏡に映るのはまだ傷の無い私の顔。


「うふふ。リアは本当に可愛いわね。我が家の天使ちゃん」


 お母様が嬉しそうに私に話しかけてくる。


 鏡の中には淡い金髪に菫色の瞳で確かに天使のような美麗な少女の顔が映し出されていた。


 そう言えば十歳上のエブリンお姉様は隣国のイリシア帝国の皇太子殿下からその美貌と才で一目惚れされてかなり強引に輿入れが決まったと聞いている。かなりなごり押しだったようだ。


 姉は十六歳で帝国に嫁入りしたので物心ついた頃には殆ど会うことがなく、数回しか見たことはなかったけれどとても美しい人だったことを覚えている。


 でも、こうして見ると妹である私もかなりの美少女だった。今まで傷のある姿しか見ていなかったので、明るい日の中で傷の無い顔を見るのは初めてかもしれない。


 今の私はどうやら五歳らしい。


 あのベランダから落ちてこんなまだ幸せだった頃の私の夢を見ているのだろうか。


 ハロルド様と婚約が内定するのは六歳の時で、誘拐されるのは七歳だったのでまだ時間がある。どうにかしてハロルド様との婚約は辞退して、誘拐事件を無くしたい。

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