03 ハロルド王子の妃そして(回顧)
私は過去の幻影であるハロルド様とミランダを眺めていた。
あの頃はミランダの方がハロルド様と一緒にいるので私と勘違いされることも多くなった。そして、いつの間にかミランダこそがハロルド様の婚約者だと言われるようになってしまった。
そうしてハロルド様が卒業のときに婚約破棄を言い渡されそうになった。
言い渡されそうというのはハロルド様が卒業パーティで私と婚約破棄をするつもりだったけれど、両陛下がご臨席していたのでできなかったと話されたからだ。
そのときに婚約破棄ができていれば私はミランダにバルコニーから突き落とされず、また違った運命を迎えていたのかもしれない。
私達の婚姻の日に婚約破棄ができなかったと悔しそうに話すハロルド様を私は申し訳なく黙って眺めていたのだった。
「ふん。婚約破棄をしなかったのはお前の父親が有能だからだ。お前を人質にしてあいつには王国の為に馬車馬の如く働いてもらわないとな。所詮お前達はそれくらいしか取り柄がないのだ!」
「……はい。ハロルド王子様。存じております」
「返事が遅いぞ! そんな生意気なお前にはこうだ!」
そうして私の頬を嬉しそうにぱあんと引っ叩いた。
ピリピリとして痛みを感じるような気がしたが、私は他人事のように感じていた。やはりもう何も感じなかった。
くすくすと笑いながら叩かれた私を楽しそうに見るミランダ様。
周囲の使用人達もニヤニヤしながら私達三人のやり取りを眺めていた。
「ふん。お前を妃として披露する式などしないぞ。婚姻届の紙切れを執務の間に書くだけだ。初夜は勿論ミランダのところに行くからな。醜いお前を抱くなど考えるのも悍ましい!」
「はい。ハロルド様。弁えております」
明るい日差しが差し込む王城の執務室で私は痛む頬を冷やすこともなく肯いていた。ここでいつも私はハロルド様の執務のお手伝いをしていた。いいえ、最後は殆ど私が書類事務を処理していた。
入籍して一月ほど経った頃からミランダのものとなった王子妃用の部屋に話し相手として呼ばれるようになった。そこでヒステリックに喚くミランダの相手までするようになった。
私はミランダに呼ばれて昼間にできなかった書類事務を深夜に渡ってこなす日々が続くようになった。
そうして、入籍だけして三か月ほど経った頃に私はミランダに死ねばいいとバルコニーから突き落とされたのだった。