番外編 黒い森での甘々デート? 貴族学院のある日の放課後にて
ちょっと遅れましたが、コミカライズ「傷痕王子妃は幸せになりたい」本編5巻発売記念です。
ご笑納ください<m(__)m>
今日はイーサンから放課後に寄り道をしようと誘われました。
最近、生徒会が忙しくて一緒に過ごせなかったお詫びと言われたのですが、私は気にしていないのに。だけど今まで放課後に寄り道をすることはなかったのでとても楽しみにしています。
「最近王都で有名なデザート屋さんがあると聞いたから、どうかなと思って、ずっと生徒会で忙しかったので、そのお詫びも兼ねてだけど」
「そんなこと気にしなくてもいいのに。だけど嬉しいわ」
「でも、とても人気店らしく、なかなか入れなくて待たされるかもしれないけれどいいかな?」
「ええ。もちろんよ。イーサンとなら待つのも楽しいわ」
「リア」
イーサンは笑顔を浮かべました。
「そうそう、その店の名が黒い森って言うらしい。辺境伯領にそういう名の森があったなと思ってね」
「まあ、それはどんなところなの?」
「それが、うちの領地から北の山脈に連なっているところで、暗くて深い森なんだよね。魔獣の巣窟にもなっているところだ。もしかしたら、店の奥から魔獣がっ!」
おどけた様子でイーサンが私に魔獣の真似をして見せてきたけど全然怖くないのでクスクス笑ってしまいました。
「そんな恐ろしい名前なのに王都では人気店なのね」
「まあ、さすがに危険なことはないだろう」
イーサンにエスコートされて一緒に馬車に乗り込みました。まだ馬車に乗ることはあの襲撃の事を思い出して気分が悪くなることもありましたが、イーサンの手を握っているとそんなことも忘れることも多くなりました。
「ほら、あの店だ」
イーサンの言葉に私達は馬車を降りてお店に向かいました。そのお店は王宮に向かう大通りの一角に建てられていました。瀟洒な建物でお店の前には若い女性達が列をなしていました。
「これでも少ないほうだと思うよ」
イーサンがそう言って列の後ろに並びました。私も一緒です。
前に並んでいる女性達も飾り窓から見える店内を見て歓声を上げて楽しそう。
「ふむ。我が領の黒い森は悲鳴も届かない深淵で、女性の悲鳴が……」
「ふふ。イーサン。どうやら悲鳴ではなく歓声のようよ」
イーサンの言葉に私は訂正をて、彼女らと同じように店内を眺めました。窓越しでも、美味しそうなケーキが並んでいるのが見えます。
女性向けの店内は薄いピンクや白いリボンやレースで飾られてとても可愛いい。
すると後ろから貴族子弟達が並んでいる女性の列を抜いて入口まで割り込んできました。
「ほう、ここがその人気の店か?」
「そうです。今王都で一番人気です」
少しぽっちゃりして着飾った少年が鷹揚に頷いていました。その周囲には媚びた感じの少年が数人取り巻いていました。
「そうか、では早速入ろう」
そう言って入口付近の女性を押しのけようとしていました。
「きゃっ。ちょっと私達が先に並んでいたのよ」
私の視線に気がついたイーサンも彼らに気がついたようです。そして、面識があるのか私には分かりませんが、じっと視線を送っておりました。
彼らは順番を無視して店内に入ろうとして、入口の女性を押しのけたので店員が気が彼らを諫めていました。
「お客様。大変申し訳ございません。ただいま満席になっております。順番にお呼びいたしますので列の最後にお並びください」
「なんだと!? 私は伯爵家の者だぞ、その伯爵家の人間に並べと申すのか! この不届きもの!」
ぽっちゃり少年が声を荒げました。
「そうですよ! この方は名門伯爵家のご令息であります。お待たせするなどもってのほか、早々に席をご用意したまえ」
取り巻きの少年がそう捲し立てました。
「そんな……」
店の店員は困りつつも彼らを店内に入れないように立ち塞がっていました。
その時、イーサンがそっと私の肩に手を置き囁きました。
「リア、少しここでいてくれる? 他の護衛も近くでいるから心配ないからね」
そう言うと入口に向かいました。
「へえ、名門伯爵家という割には女性を押し除けるなんてみっともない」
「な、なんだと! お前は……」
伯爵令息はイーサンの顔を見てはっとして言葉を失ったようです。他の少年達はそれに気づかずイーサンに暴言を吐きました。
「なんだ。お前? 伯爵家に歯向かうのか!」
「お、おい、止めろ。その方は……」
青ざめるぽっちゃり伯爵令息は他の取り巻きの少年を止めようとしました。
「へえ。君は僕の事を知ってるみたいだね? じゃあ、このまま騒ぎ続ければどうなるか分かるよね?」
イーサンの表情は私のところから見えませんが、なんだかとても楽しそうな口調なのだけは分かりました。
危険なことにならないようにと私は心の中で祈りました。
「あまり、荒事はしたくないんだ。ほら、僕は愛しい婚約者とデートでここにきてるからさ」
「そんなの関係な……。ふがっ」
ぽっちゃり伯爵令息は慌てたように取り巻きの少年の口を塞ぎました。
「ば、馬鹿! この方は辺境伯家のご令息だ! 既に爵位もお持ちだ」
「へ? 辺境伯家って、あの王家と姻戚関係のある……」
ぽっちゃり伯爵令息は取り巻きの少年の言葉に大きくと頷いた。
「し、失礼いたしました!」
大声で彼らが叫ぶと逃げ去って行きました。それを見て、イーサンは周囲からはありがとうございますと賞賛されていました。
「僕は何もしていませんよ。彼らの逃げ足は速いようだけどね」
イーサンは何事もなく私のところに戻り、一緒に順番を待ちました。そして、店内に案内され、窓際の席に案内されました。
「挿絵があるのね! どれも美味しそう」
メニューを見てみると挿絵入りで、様々なスイーツが描かれていました。その中に当店一番の人気メニューとして、黒い森がありました。
「迷っちゃうけれど、やっぱり……」
そう言いながらイーサンの方を見るとにこりと微笑んでいました。
「じゃあ、二人とも黒い森で!」
暫くすると、店員が黒い森を運んできてくれました。
「どうぞ、当店一番人気の黒い森です!」
「ショコラがとても美味しそうね!」
「ほう、これが黒い森とな……」
「イーサンの領地の森とはとても違うわね。ふふ」
ケーキを口にいれると砂糖の甘さとショコラのほろ苦さがしっとりした生地に程よく合ってとても美味しいです。
「美味い!」
「とても美味しいわ」
二人で夢中になってケーキを食べていると先ほどの店員が飲み物を運んできてくれました。
「どうぞ、ささやかなお礼です。当店の特製のアイスハーブティーです」
そう言ってストローの先が二本に分かれた飲み物が置かれました。
「はは。ありがとう。いや、これは……」
イーサンが戸惑っています。私は恥ずかしくて頬を染めて俯いてしまいました。
「リア。一緒に」
「え、ええ。でも、こんな人前で……」
私が周囲を見渡すと先ほどまで感じていた視線はすっと逸らされました。
「じゃ、じゃあ」
にこにこするイーサンに負けて私は目を閉じてえいっとストローを口にしました。
味なんて分かりません。人前で恥ずかしくて仕方なかったの。
「うん。これも甘いね」
「そ、そうかしら」
私はやっぱり恥ずかしくてイーサンを見ることもできず下を向いてしまいました。
「うん。この黒い森はとても良いところだった。また来ようね!」
「え、ええ」
イーサンの嬉しそうな様子に私も釣られて微笑みました。
――フォレ・ノワールはとても美味しゅうございました。とても甘くて……。次も楽しみです。どのケーキを選ぼうかしら。
現在、マンガParkでコミカライズが日曜日に不定期更新されております。
番外編のプロットはこっそり、男性陣のプロポーズ集にしてみました。とても楽しく書かせていただきましたよ~
そして、白泉社チャンネルではなんと有名声優さんによる「傷痕王子妃」のPVが流れております。ぜひぜひ素敵なボイスでお楽しみください!




