33 番外編 ~ ハロウィン・ナイト 前編 ~
お待たせしました!
ハロウィン編です。
ぎりぎりセーフ
今回ちょっと最後が甘いです
ハロウィン仕様と言うことで
私とイーサンは貴族学院に入学して半年が過ぎようとしていた。
王都にあるサマーズ辺境伯家のタウンハウスで二人きりの生活をしていたのも大分慣れてきたと思う。
ちらりと隣の揺り椅子で本を読んでいるイーサンに声を掛けた。
「ねえ、サマーズ辺境伯領ではハロウィンのお祭りはどんなことをしているの?」
バルトロイ公爵領では王都のように家の戸口にカボチャのランタンを灯し、広場に焚火をしてその周りで夜明けまで踊り明かすのだった。
「そうだな。王都とそう変わらないと思う。ただ、ハロウィン初日は暗黒の森から魔獣が出やすくなるので警備に人手を割かないといけないから規模は小さめかな」
「まあ、そうなの。大変ね」
「だから、今年は王都のお祭りを体験したいな。リアはどんなのか知ってる?」
「え、ええ、何度か……」
でも、それは今の生ではない。うっかりやり直し前のときのことを言ってしまった。イーサンに不審がられないかちょっと様子を覗ってみる。イーサンは気がついていないようだった。
「じゃあ、案内してくれるかな?」
「もちろんよ!」
――案内だけなら変だと怪しまれないわよね。気を付けなくちゃ。
そして迎えたハロウィンの日。
死者の霊が帰ってくる日とされ家々の入り口にはカボチャで作ったランタンを灯して魔除けにする。
広場で焚火をしてその周囲で人々は踊り明かして死者の霊を慰める。
集まった人々目当てに簡易なお店が軒を並べていた。
子どもには甘いお菓子と果汁。大人にはエールにワイン。
この日ばかりは子どもも夜更かしを許される。
私は自室の窓辺にお菓子の皿を置いた。昨日から作ったクッキーやケーキを並べる。
「これでよし」
するとどこからかくすくすと笑う声がした。
「誰?」
『妖精姫なんてどんな人間かと思えば。まあまあね』
『そうかな?』
『可愛いよ!』
『そうだ。綺麗で可愛い!』
『可愛い! 可愛い!』
『遊ぼ!』
『遊んで!』
『一緒に!』
すると部屋に光るキノコが生えて私の周りを円環に模った。
「えッ?」
すると急に視界が光で覆われ、次に陰りくるくると視界が変わる。
眼を開けると目の前にはそびえ立つ塔が現れていた。
「何これ? ここは何処なの。誰か! イーサンとタウンハウスにいたはずなのに……」
「ようこそ。さあ、姫君は塔の中へ。ご案内いたしましょう」
執事の服を着たウサギがぴょこんとお辞儀をした。
吸い寄せられるように私はその塔の中へと入り込んだ。
塔の中には美味しそうな匂いがする。
『パンプキンパイにアップルパイ!』
『美味しそうでしょ?』
羽があって光る小さな妖精達が口々にお菓子を勧めてきた。私はその子達に、
「ここは何処なのよ。早く私を家に戻して! お菓子なら窓辺に用意したじゃない。悪戯はダメでしょ」
イーサンと王都のハロウィンのお祭りに行く約束があるのに。
それにイーサンだって私が居ないのでびっくりするかもしれないわ。
『お菓子を食べないと返さないぞ~』
驚かそうとしてくるけど小さくて可愛いので怖くない。
「逆じゃないの……。本当に食べれば返してくれるのね」
『うん!』
私は焼き立てのパンプキンパイに手を伸ばした。
「あら、美味しいわ」
私は思わず手を口にやる。
『でしょ。でしょ。美味しいでしょ?』
『これを食べると嫌なことなんて忘れちゃうよ!』
勢いよく妖精達が勧めてくる。
「別に嫌なことなんて……」
そう言って思い出すのは傷痕王子妃と陰口を言われていたやり直し前の自分。
私は嫌な気分を振り払おうとした。
「いいえ、あれはもう済んだこと。今はあんなことには。でもこれも本当に今なの?」
ぐらりと足元が崩れそうになった。すると私の口の中に甘いキャンディが放り込まれた。
「甘くて美味しい!」
『じゃあ、今の暗い気持ちも忘れたね! はい。次はこれ食べて!』
「え、ええ。これも美味しいわ」
そのとき私の頭を掠めたのは優しい緑の目をした男の子。
「誰だったかしら?」
『誰でもいいじゃない! リアがここに居れば楽しいよ!』
美味しいお菓子を食べながら、何か大事なことを思い出そうとするけれど……。まるで霧がかったように分からなくなってしまった。
お読みいただき評価・ブックマークご感想をありがとうございます。
ハロウィンはケルトのサウィンの儀式からとか
そちらは日本のお盆に近いのでそのような雰囲気にしてます。
後編も本日中に投稿できる予定です(^-^)
あとがき書くのが好きなのでいろいろここでやらかしておりますが、
また良いお話ができると思います。
あとは学園編とかも書けたらいいなぁと。
では、また新作を始めたのでよろしければお立ち寄りをお待ちしてます(^^)/
そちらも辛い設定なんだな……。




