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32 番外編 ~恋じゃない(イーサン視点・本編12話のところ)~

つい二人の出会いのネタが降ってきました。今朝、一気に書き上がりました。

初稿なので12のところに入れ込むかこのまま番外のままになるか分かりませんが、二人の初々しいところをお楽しみください。

 盗賊団との戦闘でバルトロイ公爵家に助けられて二週間ほど経った。傷の痛みや熱にうなされて朦朧としていたけれどもう随分と楽になった。


 部屋で休んでいると何度か夢で見ていた美少女、公爵家の娘さんが挨拶に来てくれた。


 淡い金髪で煌めく紫の瞳の美少女。


 どう話していいのか分からず彼女の美しさにただぽかんと見惚れていた。


 彼女はすっと頭を下げると、


「改めまして、私は公爵家の末娘でリリーシア・バルトロイと申します」


「お、俺いや、僕はイーサン・サマーズです!」


 沈黙が続いた。堪らず俺、いや、僕は、


「助けていひやひゃいでっ、あだっ、ただいて、ありがとうございました!!」


 僕の出した大声にリリーシア様は眼をやや見開くようにしたが、ついと僕に近寄った。


 ――緊張して噛んじゃったけど、近い、近い、いきなり近すぎるよ。殴りそうになった。でも良い匂いがするなぁ。


「り、リリーシア様?」


「生きてる。……でも、とても酷い傷だわ……」


 不安そうな声で僕の包帯の上からそっと触ると黙りこんでしまった。


 やっぱり女の子だからショックなのかな。母上なら傷なんて笑って舐めときゃ治るとか言うだけだもんな。


「ああ、でももっと酷かった、腕や顔なんか抉られ……あ、いやっ、その……」


 ――やべえ。丁寧な言葉なんて、出てこねぇよ。もっとマナーとやらを身につけねぇといけねえな。


 今にも大きな美しい紫の瞳からほろりと涙を落としそうなリリーシア様を見て僕は慌てた。


 こんな女の子の涙なんて見たことねぇよ。辺境にはこんな可愛い女の子なんていないし。泣いてもギャーギャー喚くだけだったし。体の傷よりよっぽど心臓に痛い。


「大丈夫です。クリフ様のお陰で欠損も直していただきました」


 僕はぺこりと頭を下げた。一応これでも辺境伯家の嫡男だ。失礼なことなんてあってはならない。


 全身包帯で右目だけがなんとか出ているから彼女の様子を覗うことが出来る。


「助かって良かった……。とそう、思いますか?」


「そりゃあ……」


 きょとんとして返事をしようとして当惑してしまった。


 ――どう返事するのが最適解なんだよお? 


 こんな綺麗で儚そうで今にも壊れそうな女の子に乱暴なことなんて言えねぇ。


「酷い傷で、いっそ死んだ方が良かったのだと思いませんか?」


 彼女はそう言うと唇を噛み締めて俯いてしまった。聞いてきた方なのに俺以上に辛そうだった。


「は? ……まさか! そんなこと思わない! うぐっ」


 思わず大声を出してしまったが、痛みが走り左胸を押さえて俯いてしまった。


「ごめんなさい。まだ傷が癒えてなかったのに……」


 謝ったあと申し訳なさそうに立ち去ろうとするリリーシア様の腕を咄嗟に掴んでしまった。


 案の定ビクリと怯えるリリーシア様に慌てて直ぐ手を離した。ダメだ。何にしても驚かせちまう。


「……傷つきました」


「ご、ごめんなさい」


 しゅんとして謝るリリーシア様は素直でまた可愛い。こんなの辺境じゃあっという間に喰われるぞ。


「だから、見舞いに来てください」


「え?」


 当惑する彼女に僕はにやりと笑ってみせた。悪戯が成功したときみたいに。


「君を見ているとその、なんというか、心、いや、僕の身体中が元気になるんです」


 リリーシア様は暫し僕を見てポカンとしてしまった。


 だけど彼女の白い顔が一気に桜色に染まった。そして、自然に笑ってくれた。それがとてつもなく可愛い。だから僕も一応安心した。笑ってもらえればそれでいい。彼女に笑っていて欲しい。


「は、はい。分かりました。また来ますね!」


 それだけ嬉しそうに言うと小走りに部屋を出ていった。


「あれは反則だろう……」


 ――俺、いや僕はこれから別の痛みと悩みで頭を抱えることになった。



 それから言葉通りに彼女が部屋に訪れてくれた。絵本を読んでくれる彼女の声に癒される。




 そろそろ、ここでクリフ様の治癒を受けてから一月が経とうとしていた。一回の治癒を受けるとクリフ様の魔力が溜まるまで次の治癒魔法を使えないから、ゆっくりとなると説明を受けた。僕は欠損級だから随分と時間は掛かるそうだ。


 心配した父上が公爵家まで見に来てくれた。母上は元気で鬼気迫る勢いで僕達を害した盗賊団の掃討作戦をしているそうだ。


 昼間はそう思わなかったけれど夜になると父上が来てくれたので帰りたくなった。


「帰りたい……」


 公爵家の方々は優しい。だけど……。ついすすり泣いていた。そんな恥ずかしい所をリリーシア様に見られてしまった。


「泣いてなんかない……」


 だけどぼろぼろ落ちる涙は止められない。みっともない。こんな自分なんて。だけど、リリーシア様は――、


「泣いたっていいじゃない。何がいけないの?」


「それは僕は男だし……」


 みっともないところなんて見せたくない! 特に君には……。


「男の子だって悲しい時はあるでしょう?」


 そう言って首を傾げる仕草で僕は気づいた。君が心底好きだってことに。魂のレベルで――。母上の言っていた本能っていうヤツだ。


 だから、やっぱり君の前でみっともない姿は見せられないんだ。


「やっぱり、人前で泣く訳にはいかないよ」


「そう? 泣きたいときに泣けばいいのに」


 それは僕にではなく、まるで自分に言い聞かせるように言っているみたいだった。


 不思議な少女だ。ますます目が離せなくなる。 


 それからリリーシア様は僕の思う通りにすればいいと言うと寝台に上がってきて僕をぎゅっと抱き締めてくれた。まるで子どもをあやすように。


 そんなふうに抱き締められて、僕にはリリーシア様にも何か辛いことがあったのだと思えた。


 ――バルトロイ公爵家のお嬢様が? 家族にも愛されて、世間の苦しみや醜さなど無縁に見える少女に何が?


 その夜、部屋まで送るという僕に寝るまでいてくれるという。


 心配してくれているのだろう。でも、どちらがどうなのか。でも案の定、彼女が先に寝てしまった。


 人のいる気配は心地よい。一人寝に慣れたけれど。リリーシア様なら。


 ふとうなされるか細い声に眼を覚ました。


 魔獣か? とつい身構えそうになる。これでも一応討伐の訓練も出たことがあるからだ。


 隣で眠るリリーシア様が何かを言っていた。起きている感じはしない。


「傷痕なんて……」


 そんな辛そうな声がして、閉じられた瞼から涙が零れていた。思わずそっと引き寄せられるように僕はキスをした。そうして誓う。


「こんな風に一人で泣かせやしない」


 もう一度彼女の涙にキスをしてみた。


「……しょっぱいな」


 すると彼女の涙は収まり呻く声もしなくなったので僕も横になった。――もうすぐ夜は明ける。明けない夜は無いと母上や父上は言っていた。




 早朝、旅立つ父上が部屋にそっと訪れた。残した母上のことが心配なのだろう。


 一族でも喧嘩する程仲が良いと今でも揶揄われているくらいなのだ。僕はリリーシア様といたいと父上に話した。


「初恋だな。はっはっは」


「恋? 恋なんかじゃない……」


 それでもにやにやと笑う父上を見ていると流石にイラついてくる。


「上手く言えないけど恋なんかじゃないんだ!」


「そうか? それなら別の婚約者でも良いんだな? お前にも申し込みはたくさん来ているぞ。何せ王位継承権第三位なのだからな」


 王宮に行くと僕達親子に群がってくる令嬢とその保護者を思い出して身震いする。


「ダメだ! リリーシア様でないと……。僕の隣はリリーシア様でないとダメなんだ。それにリリーシア様は僕のだ! 誰にも渡しはしない! 渡すもんか!」


「なら、大事にしろ。花を美しくするのも男の役目だ」


「花……」


 それは豪傑な母上まで花に譬えるというのだろうか。……確かに父上なら実行している。王宮でも浮名を流していたそうだからお手のものだろう。






 傷が治るにつれて、家に戻っても時間を見つけてはリアに会いに行った。


 同い年のはずなのに、まるで大人のような物言いをする彼女。必死に追いかけて追いかけて、横に並んだと思ってもまだ……。


 あるときから、張り詰めていた神経を緩めて微笑みを浮かべるようになったリアは可愛すぎた。


 幻の妖精姫。いつのころからか、リアのことをそんなふうに呼ばれるようになった。


 妖精なんて言葉はあまり良い言葉として使われないけどリアにはぴったりだ。


 でも誰にも見せたくはないな。


 おとぎ話の妖精のように儚い美しさを持つ僕のリア。それ以上に優しい彼女をもう傷つけさせたりしない。


 ――どうしたらいいのだろう?


 焦りが僕を強くさせる。ただ君の為に。剣を取り、心も強くなりたい。

沢山の声援をありがとうございます。

励みになっております。

あとは学園やイベントの小ネタを書き上げればなと思っています。

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[一言] >僕はぺりこと頭を下げた。 誤字だとわかっていても、何か可愛いです(^^)
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