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31 番外編 ~女辺境伯の恋 後編~

(やり直し後、二度目の邂逅)


 私はジルベスタ王弟殿下と王命により婚姻をする羽目になった。婚約式の前にお会いすると何故だがジルベスタ王弟殿下に不思議な懐かしさを感じた。


「――不思議だな。初めてあった気がしない」


 そんな言葉がぽつりと出てしまっていた。するとジルベスタ王弟殿下は少し驚いたように目を見開いたが、直ぐに王族然とした笑みを浮かべて応えてきた。


「それはそうでしょう。王宮での夜会などでお会いしていますよ。ビクトリア嬢」


「いや、そうではなく……。もっとずっと昔のような。先のような……。どう言ったらいいのか、変な感じなのですが……」

 

 どう言っていいのか戸惑いながら言葉を紡いだ。


「ふふ。そうですか。私も辺境の花の名は気になっていました」


「そ、そうなのですか。いえ、私は花などに例えられるような見た目では……」


「女性は皆私にとっては美しい花のように感じられますよ。あなたも……。それにあなたの方が私を誘ったではありませんか? どこかであったようなとまるで口説かれたのかと思いましたよ」


 私はジルベスタ王弟殿下の言葉に赤面してしまっていた。――それが私達の出会い。


 そうして私達は結婚し幸いすぐ子どもに恵まれ、私は息子を出産することができた。暫くするとお隣のバルトロイ公爵家にも末の娘が出来たとのことでお祝いを送ろうとしたら、先にラウルスの方から訪ねてきた。そして何を思ったのかとんでもないことを言いだした。


「すまない。私を辺境伯騎士団で鍛えさせてくれ」


「はあ? 今まで棒きれも持ったことが無い男が何を寝惚けたことを言っている」


「……」


 ラウルスの目は真剣だった。それは今まで見たことが無いものだった。


 剣など持たず適度に手を抜いていた男が変わったものだ。王族であるが我が婿のジルベスタよりも剣を持ったことのない男が何をしたいのか皆目分からない。


 ――もしや、何かあったのだろうか? バルトロイ公爵領は豊かで農産業が盛んなところだ。凶悪な獣などが出たことは聞いていない。


 まさか、愛娘が出来たせいなのか? いや上にもう一人娘がいる。とても美しい賢い子で何度か会ったことはある。


 考えても分からないので、私はにやりと笑ってみせた。そして、近くにあった訓練用の木剣を彼に手渡した。


「では、これで素振り……、そうだな。一万回すれば考えてやる」


「一万……、それは……」


 ジルベスタが横から異議を唱えようとしたが、ラウルスは不敵な笑みを浮かべた。それは私の知らないまるで別人のような顔だった。


「いいでしょう。それでは達成すれば必ず」


 そう言うとそれからラウルスは寝る間を惜しんで我が家に来て、辺境伯騎士団員と交じって鍛錬し、数年するとメキメキと力をつけていった。いつの間にかジルベスタも楽しそうに一緒に訓練をしていた。


 ある日、揶揄うようにラウルスに言ってみた。


「努力のできる天才なんて嫌味でしかないぞ。何があったのだ?」


 ラウルスはこちらを見ようともせず一点を見つめて素振りを続けていたが、一言だけ言い放った。


「運命に、抗う力をつけるために……」


「へえ、それはとんでもないものが相手だな。なんなら共闘するぞ。幼馴染じゃないか」


 はしたなくも口笛を吹き、するりと私の口からそんな言葉が出てしまっていた。ラウルスはやや驚いたようだったが、あの好戦的な不敵な笑みで返してきた。


「ええ、是非とも君の力が必要だ」


「何だか口説かれているような気持になるな」


「勿論、私の愛は妻のケリーだけだが、口説いてるのは間違いない。一緒に戦いをしよう。運命への」


 私は思わず高らかに口笛を吹いていた。これだから貴族令嬢なんてやってられなかったのだ。


「それは相手によるな」


 ラウレスは今度こそ私の方に向き直った。


「君達にとっても有益なものだと思う」


「では、教えてもらおうじゃないか。そんな楽しそうなことを独り占めするんじゃない」


 ――私はラウルスを知っている。


 お互い子どもの頃からの付き合いなのだ。大人になったってそうその根幹は変わらないだろう。不器用で情の厚い彼のことだ道を違えるような奴じゃない。




 ――とんでもない秘密が出来てしまった。ジルベスタにもまだ話せる内容ではない。そんな側妃様が……、だが、最近の領内に現れる不審者は――。


 私は何故だかそれを本能レベルで理解した。


 ラウルスは流石辺境の野生児などと私を笑っていたので聞き逃さなかったからしっかりと肘鉄を食らわせてやった。


 するとラウルスの顔が見慣れたはにかむような笑みに変わった。


 その笑みに私はこれが正しいのだという思いが何故だか心の底から湧き上がってきていた。


 不敵な笑みより、はにかむ彼が彼らしいと――。




 番外編 ~女辺境伯の恋 後編~


 了

さて、今回もお読みいただきありがとうございました(^-^)

イーサン母の話で誰が誰に対して想いを寄せていたのか、何故リアの悲惨な事件が起きたのかの原因がちらりと出ていました。

次は側妃視点か、ハロウィンネタか、出来た方から掲載します

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