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02 最悪の出会い

 ある日、王子様と一緒に宮廷の学者から王国史を学んでいた。まだ貴族学院の入学前のことだった。


「ふん。私よりできるとは……。醜い傷痕があるくせに私より勉強ができるのは生意気だぞ!」


「はい。申し訳ありません。ハロルド王子様。これ以上はいたしません」


「分かってれば良い。お前は酷い傷痕があり、姿形も醜いのだ。他にお前を貰いたいという奇特な者はいないだろう。()()私だから仕方なく貰ってやるのだ。だから、私より上になってはいけない。私より出来が良いのは認めん」


「はい。ハロルド様。申し訳ありませんでした」


 そんなやり取りを毎日していたのだ。

 

 私は最早何も感じなくなっていった。




 そんなふうに王宮で過ごし、私も十五歳を迎え貴族学院へ通うことになった。ランザール王国では貴族の子弟は十五歳から十七歳までの二年間、貴族学院へ通い社交術や様々なことを学ぶのだ。


 ハロルド様は私より一つ上なので既に先にご入学されていた。


 その頃の私はハロルド様のいない午前中は王宮で一人で授業を受けて、ハロルド様がお戻りになると執務をお手伝いするようにしていた。王族としてハロルド様もいろいろと公務を抱えるようになっていたのだった。


「残りはお前がしておくのだ。俺は他にも忙しいからな!」


「はい。ハロルド様はご公務でお忙しいのですから、私がさせていただきます」


 ハロルド様は私に指示をされると直ぐに執務室から出ていかれるので最後の方は私が処理をしていた。


 いよいよ私も貴族学院に入学することになり、いつものように自分一人で用意されていた制服に着替えて学園に向かう。ハロルド様は生徒会の役員なので先に出られたため私は公爵家で用意されていた馬車で向かった。



 その入学式でハロルドとミランダは運命の出会いをしたのだった。


 ミランダは私と同学年で男爵家の令嬢だった。ピンクゴールドのふわふわした髪でピンクの瞳の可愛らしい人。そのときはまさか彼女に突き落とされて殺されることになるとは思いもしなかった。


 ミランダは明るい可愛らしい方で私にも最初は優しかった。


 そもそも最初はミランダが私に声をかけてきたように思う。ミランダは他の皆のように私を傷のことで蔑むことはしなかったのだ。


「まあ、あなたはどうしてお顔を隠しているの?」


「いえ、お見苦しいので……」


 手を伸ばして私の前髪をかき上げようとするミランダを止めることが出来ず彼女は私を見てしまった。


「まああ! なんて酷い傷なの……」


 そう叫ぶとミランダは気を失って倒れてしまったのだ。


 そこへ騒ぎを聞きつけてハロルド様がやって来た。


「何を騒いでいる! リリーシア? 騒ぎの原因はお前なのか!」


 周囲からはあれが傷痕令嬢と囁いている声が聞こえてきた。それは好意的なものではなく冷たく侮蔑する響きだった。ハロルド様は倒れたミランダを抱き抱えていた。


「後で事情を聞いてやるが、とりあえず彼女を医務室へ連れて行く」


 そうして私に悪態をつくとハロルド様は彼女を抱えて医務室へ行ってしまった。今思えばそれはミランダの策略だったのだろう。そのときそれに気が付いていればどうにかできたのかもしれない。


 でも私はあの後ミランダが倒れたことをわざわざ謝りにきてくれたのでそれだけで舞い上がってしまった。何故ならこの私に謝罪をして、お友達になってくれる人など今までいなかったからだ。


「てへへ。倒れちゃってごめんなさい。びっくりしちゃったみたい。でも良かったらお友達になってください。この学院で私の最初のお友達ね。嬉しいな」


 ぺろりと舌まで出す勢いて謝る姿も可愛かったので私は呆然としていた。周囲は何事かと私達を見ていた。


「あ、あの……。私は……」


「でも、リリーシアさんは公爵家のご令嬢ってお聞きしました。やっぱり私なんかと身分が違いすぎるのでダメですかあ?」


 力の抜けた口調で話すミランダになんだか逆らえなかった。


「身分とか、気にしません。その、こんな私でよろしかったら……」


 私は年頃の令嬢とは話をしたことが無かった。今まで遠巻きにされて、ひそひそ言われるかくすくす笑われているだけだったのだ。


 ミランダの屈託のない笑顔に私は驚いたもののそれを受け入れた。


 それから私はミランダと一緒にいることが多くなった。


 でも、私と一緒にいると必然的にハロルド様も一緒にいることになる。その内、私を除けてミランダとハロルド様の二人だけでいるのを学園で良く見かけるようになった。


 それでも私は何も言わず二人の後ろからただ黙って付き添っていた。




 そして、私はハロルド様に言われた通りに学院のテストでは手を抜いていた。だから成績は真ん中位だった。


 ハロルド様は辛うじて上位三分の一の内に入っていた。一番ではないので不満を言っていたが、王族の権力を使って上位に表示するようにはしなかったらしい。


 そのときはハロルド様を素晴らしいと私は何故か感動して尊敬までしていたように思う。あの頃の私はハロルド様の言うことは絶対で言いなりだった。


 それにミランダは勉強が嫌いでかなり下位の成績だったように思う。


 こうして死の間際に人生を振り返ってみるとあのとき思いっきり遊んだり勉強したりしておけば良かったとか全力で試験を受けてみたかったと未練が出てくる。


 ――それに酷い傷痕って言われても、私のせいではなかったのに。


 どうして俯いていたんだろう。


 こうして殺されるのだったら好きにすればよかった。

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