23 断罪劇
「さて、これで皆揃ったな」
そこには両陛下、ハロルド様、側妃様、第一王子のアルバート様にパトリシア様とその父親のウェスカー侯爵だろう男性と何とお父様にサマーズ辺境伯様までいらしていた。ある意味凄いメンバーが揃っている。
「これはどういうことですか?!」
側妃様とハロルド様がそれぞれ叫んでいた。お二人は後ろ手で拘束されていて、まるで罪人のようだった。
「さて、これから、まず卒業パーティでのことから訊ねようじゃないか。ハロルド」
「た、訊ねるとは? 私は事実を言ったまでです!」
陛下に睨まれてハロルド様はタジタジとなっていましたが、胸を張って宣言していました。
それは以前、私に命令していた高慢な姿のままです。国王陛下は不快そうにハロルド様を眺めました。
「お前はいつから王太子になったのだ? 正妃の息子でありお前の兄である第一王子のアルバートを差し置いてそなたが王位に就くなど……。更にお前の婚約者候補でしかないパトリシア嬢は懸命にお前を支えていたのにあのような扱い。それに王命での婚約を破棄するなどいつからお前は私より偉くなったのだ?」
「そ、それは……」
陛下に睨まれて勢いをやや失ったハロルド様はちらりと側妃様を見ました。側妃様は項垂れたままでした。
「そうだのう。それにアルバートに毒を盛ろうとしたミランダはとっくに自白したぞ?」
すると弾かれたように側妃様が顔を上げて叫びました。
「ち、違いますわ! 私の指示ではありません! その卑しい者が独断で行ったのですわ!」
「ふん。まだお前が犯人とは言っていないのだがな。語るに落ちたか。そもそも高々一介の男爵令嬢が王子に毒を盛ってなんの利があるというのだ?」
そのとき辺境伯が一歩前に出ました。辺境伯は側妃様を睨んでいます。
「それに我が領地に現れる盗賊団は側妃の配下の者だった。目的は側妃の活動資金の調達と王位継承権のある私の殺害であると推測される。大方愚鈍なハロルドを王にするための画策だろう」
「なっ!」
ハロルド様が驚きの声を上げて辺境伯を睨んだあと側妃様を縋るように見つめていた。
側妃様は開き直ったのか高笑いをされました。そう以前よく聞かされていたあの笑い声です。
「はん。目障りなアルバートを殺したって、王弟のあなたがしゃしゃり出るのが分かっているからよ。私の可愛いハロルドが王になるためには邪魔モノを排除していかないとね!」
「は、母上……」
ハロルド様は力が抜けたように床に崩れ落ちた。ハロルド様は高慢ですが、お花畑な頭なのでそういった策を練ることには不向きな方です。
「ああもう、ミランダが上手くやらないから!」
「そうですね。ミランダは手あたり次第に男を漁って味方に引き入れようとしていました。だからあなたの計画などだだ洩れでしたね」
私を背に庇うようにイーサンがそう言いながら私を守るように一歩前に進み出ました。
「そうよ! あのミランダが上手く立ち回らなかったからこんなことになったのよ。アルバートなんて、もっと早く殺しておけばよかった。そのあとミランダを始末するつもりだったのに。……それにお前達はもっと前に死んでいたはずだったのにどうして生きているのよ!」
イーサンや辺境伯を指差して叫ぶ側妃様にイーサン達は黙って笑うだけだった。辺境伯は冷たい口調で返した。
「どうやら我が辺境伯領への盗賊行為は随分昔からだったようだな。分かっていたことだが……」
「ごほん。国王である私から言い渡そう。側妃は第一王子の毒殺未遂、辺境伯領での強奪行為及び王位継承権のある王弟及び子息の殺害未遂に傷害容疑、証拠は王家の手の者が既に押さえておる。それぞれ罪状に応じた極刑を言い渡す!」
「へ、陛下!」
側妃はがくりと身体の力が抜けたように座り込んだ。ハロルド様も一緒に。
「……そして、ハロルドは直接関わることが無かったようだが、王太子であることの虚偽の申し立てと側妃の息子であるため連座を免れぬ。また善からぬ者に王位へと担がれてはこの国の乱れになる。よって王族籍より抜き王位継承権も剥奪し、側妃と同罪とする。もう既にミランダは第一王子毒殺未遂の咎を受け処刑しておる」
「ち、父上?! そ、そんな……。ミランダが……」
「お前は王族としての自覚があまりにもなさ過ぎた。最早、父と子でもない。気安く呼ぶではない。連れて行け!」
こうして前回私を傷物として陥れた人達は処罰されたのだった。
緊張のあまりに私は気が遠くなりイーサンの背にもたれかかっていた。
あの側妃様が全ての元凶だったなんて、ミランダさえも手駒の一つだった。邪魔になったら殺そうとしたなんてどこまで身勝手な側妃様なのだろう。私には慈悲深い姿しか見せていなかったから分からなかった。
前回、私が突き落とされて殺されたのも側妃様の計画だったのだろうか? それも今となってはもう分からない。
ただ分かるのは今の私を愛し守ってくれる人達のこと。私を庇うように前に立つイーサンはすっかり青年となっている。その頼りがいのある背中にそっと寄りかかった。
緊張のあまり倒れそうな私を後ろ手で支えてくれるイーサンに感謝しつつ目を閉じていたので、お父様とイーサン様が顔を見合わせて肯いていたことには気がついていなかった。
お読みいただき、☆、ブックマークをありがとうございました!
次話で本編終わりになります。




