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20 軽食会

 サンドラ様はきつそうな見た目だけどさっぱりして気持ちの良い方なので私達は入学早々に仲良くなっていた。

 

 彼女には婿入り予定の婚約者もいて、お相手の方は既に卒業されて公爵家の領地経営を手伝っているそうだ。今日は婚約者として彼女をエスコートしていた。事前に申請すれば婚約者は参加してもかまわない。


「その淡いグリーンのドレスは良く似合っているわ。サマーズ辺境伯令息の執着を感じる色だけど。ふふ」


「勿論。リアは誰にも渡すつもりはない」


 にやりと笑うイーサンがとても格好良く見える。


 そんなことをサンドラ様に話すと呆れられた。



 そうして軽食会が始まり最初に挨拶をされるハロルド様。


 これも以前と同じ。


 違うと言えば前は私がハロルド様の近くで控えて話す内容のフォローをしていたことだろう。今は側近の一人であるらしい伯爵家の令息が近くで控えてハロルド様のフォローをされていた。


 正直今回のハロルド様の挨拶はあまり褒められたものでは無かった。話す内容がちぐはぐでとってつけたような話だった。一応拍手をしてハロルド様の挨拶が終わるとそれぞれ軽食を楽しみながら歓談を始めた。


 用意されたテーブルや食事や飲み物を私は眺めていた。


 貴族学院とはいえ生徒会の活動だから予算も限られていたけれど私はいろいろと商会に掛け合って安く良い品を提供していた。王子妃となるならばと業者と交渉していたのだ。


 ここにあるのは全員に行き渡りそうもない量しかなく、味も美味しいとは言えなかった。イーサンも同じような結論になったようだけど彼は質より量と楽しんでいた。なんでも討伐で遠征に行ったときなど味に文句など言えないそうだ。国境を守る辺境伯としてイーサンは既にその若さで何度か国境警備に参加していたのだ。



「君の名は何て言うのかい? 妖精のような人」


 寒気のするような言葉と声に振り返るとそこには決して会いたくなかったハロルド様が立っていた。


 ……いつの間に? 学院内でも遭遇しないようにと気を付けていたのに。


 私は手足まで冷たくなるほどの悪寒を感じていた。動揺して動けない私の腰をぐっとイーサンが抱き寄せてくれた。彼にピッタリと身を寄せると悪寒が収まってきた。


「彼女はバルトロイ公爵家のご令嬢で私の婚約者ですよ。ハロルド殿下」


「なっ、お前は、イーサンっ!? お前に訊ねてなどいない!」


「彼女は僕の最愛の婚約者だから僕が代わりに答える権利はあります。ふふん」


 ハロルド様に一歩も引く様子が無いイーサンに驚きつつ庇ってもらえて私も少し落ち着いた。まあ、お二人は従兄弟同士だし顔見知りでもおかしくないもの。


「ご紹介いただいたサマーズ辺境伯のイーサン様の婚約者でバルトロイ公爵家の娘、リリーシアと申します。殿下には初のお目通りとなります」


 普通はどうぞよろしくと続くところだけどよろしくなんて言いたくない。


「あ、ああ、そなたがあのバルトロイ公爵家の幻の妖精姫……、こんなに可愛いなんて聞いてないぞ。そのままじゃないか。てっきり、誇張されたものだと」


 呆然としたままのハロルド様が舐めるような目で私を眺めていた。そんなことは今まで一度もなかったので悍ましく感じた。


 ――冗談じゃない。あまり見ないで欲しい。気持ち悪いわ。


 そんな空気を切り替えるようにイーサンが咳払いをして私の腰を抱いて向きを変えて歩き出した。


「さあ、僕達はあちらにまだ挨拶していないから行こうか。じゃあ、殿下、御前を失礼します」


「ま、待て。イーサン。その、リリーシアは置いていけ」


「はあ? 嫌ですね。リアは僕の婚約者です。離れるつもりはありませんよ」


「くっ、な、なあ。リリーシアだって、そんな酷い傷の男など嫌だろう? 妖精のように可愛いそなたには不似合いだ!」


「僕のリアを気安く名前で呼ぶんじゃない。ハロルド殿下」


 イーサンがハロルド様を睨んで注意するとひっとハロルド様は怯えました。それなりに美男子なのに何だか傷だらけのイーサンより見劣りしてしまいます。


「まあ、殿下。何を騒いでいらっしゃるのですか?」


「パトリシア! い、いやこれは、その……」


「ウェスカー侯爵家のご令嬢。お久しぶりです。ハロルド殿下の手綱をしっかりと握っていてください。僕の最愛の婚約者に言い寄ろうとしている」


「サマーズ辺境伯のイーサン様。ご無沙汰しておりますわ。まあ、殿下ったら、またですの? 先日の男爵令嬢のミランダ嬢とのことで陛下にまでご心配をおかけしたのに」


「なっ、あれは、その、あれだ! 気の迷いだったのだ! 男爵令嬢などに私が本気になるはずもない。だが、このバルトロイ公爵家のリリーシアは違うぞ! そなた以上の高位貴族の令嬢で、美しさも上だ。どれをとってもこの私に相応しいものだ」


「まあ、何ですって? 殿下は私という婚約者がおりますでしょう」


 ハロルド様を叱責していたウェスカー侯爵令嬢は今度は私を睨んできたがイーサンが庇ってくれた。


「そうだ! 王なら側妃を持てる。そなたにはその栄誉を与えようじゃないか。そしてリリーシアを私の正妃にする!」


「はあ?」


 ハロルド様は私やウェスカー侯爵令嬢に向かって尊大な態度でとんでもない失礼なことを言いだした。


 いつハロルド様が国王になったのでしょうか? 


 王太子の地位も正妃様の息子である第一王子アルバート様で本決まりになっています。これはお父様からも先日お聞きしております。

今日から更新日時が変わりました。

お読みいただき、評価、ブックマークをありがとうございます


いよいよ勘違い王子が出てきてお話も終盤になります。

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― 新着の感想 ―
うわあ、ハロルド最悪‥‥取り繕う頭も無いのは「お花畑王子」と呼ばれてる時点でわかってたけど、無いわぁ。。。 こんなヤツのために、前世のリリーシアはあんな酷い目に遭ってたんか。 理不尽不条理。 今世は絶…
[良い点] 漫画を見てこちらに来ました。大好きな作品です!何度も読み返しています。 [気になる点] 量がないのに質より量という表現が気になってしまいます。質もよくなく量もみんなに行き渡らないくらいしか…
[一言] 頭湧いてやがる(笑)
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