18 学院入学
貴族学院へは王都にある辺境伯の館から通わせてもらうことになっている。公爵家の館より学院に近いのと安全面のためであった。ハロルド様の婚約者のときは王宮から通っていた。
今のバルトロイ公爵家は拠点を領主城にしていて、王都にはお父様がいない。
お兄様は王宮にいらっしゃるけれど公爵家まで戻ることは少ない。
だから、お父様もイーサンと一緒にいた方が良いと言ってくださった。週末はお父様やお兄様がいらっしゃるときに公爵家で過ごすことにした。
辺境伯の館ではイーサンの隣に立派な部屋を用意してもらっていた。それはとても素敵な部屋だった。公爵家からの使用人も何人か連れてきている。ケイトも勿論一緒だ。館の使用人もとても親切で今から若奥様なんて呼ばれて恥ずかしかった。
「いいじゃないか。あと二年もすればそうなるのだから」
「だ、だって。まだ……。イーサンは学院で新しい出会いがあるかもしれないじゃない」
「はぁぁ。今更学院で出会いなんて求めてないよ。僕はリアと違って社交界に出てるから貴族の令嬢の内実は分かっているつもりだ」
「それはそうかもしれないけど……」
最近イーサンからは社交について子ども扱いをされてしまう。確かに私は王都にここ十年ほど行っていない。領主城とイーサンのいる辺境伯領だけだった。でも一度は私の方が大人になっているのだからと思うけれどいろいろと実社会の経験値は負けているような気がしてくるこの頃だった。
とうとう今日、私は貴族学院の二度目の入学式を迎える。
馬車に揺られて二人で貴族学院に向かった。今度はイーサンと一緒なので安心だ。入学式の受付を済ませたがミランダには遭遇しなかった。
あの時の私は前髪で隠していた傷跡を表に晒されて目の前で気絶までされた。今思えば迷惑なことだった。
以前、見覚えのある学友達が居たけれど私はイーサンと一緒に座った。
そう言えばイーサンは前のときは居なかったように思う。これだけ目立つのなら流石に私だって覚えているはず。だけどサマーズ辺境伯の子息のことは何も覚えていなかった。
イーサンは優秀で総代を逃したものの二番だったそうな。万が一総代が出来ないときのために先生から保険として頼まれていたと話してくれた。
私達が教室に向かおうとすると、そこには何かを探しているミランダがいた。一瞬足が止まりそうになったが、イーサンに不審がられたので我に返り、慌ててイーサンを促して立ち去った。
――そう、もう彼らとは何の関わりもないの。
『忌々しい。あの女……』
ミランダから微かに漏れ聞こえた言葉にどきりとした。
――まさかね。
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