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12 辺境伯家の父子

 食事を終えるとイーサン様の様子を見舞いに行くがまだ眠っていた。まだ幼い顔立ちをしている。


 私と同じ年だと聞いたけれどこんな小さい子を盗賊団の調査に連れて行くなんて辺境伯はどういう親なのだろう。


 私は彼の様子を毎日見に行った。まだ熱が出ているのか朦朧としてうなされて呻くような声を出していた。


「クリフ様の治癒で早く治りますように」


 そっと祈りながら彼の手を握るとその手はとても熱かった。私は部屋を訪れる度に同じようにしていた。いつしか彼から握り返してくるようになった。



 私は特に予定もなく一日の大半はゆったりと過ごしていた。エブリンお姉様と散歩したり、音楽を奏でたり、今まで感じたことのない満たされた時間だった。


 それに優しいお姉様やお母様から愛されているという実感。


 領地の住民や使用人も気さくに接してくれる。


 過ぎ去る時間が惜しまれるほどだった。


「時よ止まれ、とは誰が言った言葉だったかしら?」


 私は自室から見える美しい緑の領地を眺めていた。





 イーサン様はまだ全身包帯を巻かれていたけど熱は下がり、少しなら起き上がれるようにまで回復していた。


 既に私が領主城に来て一月が経とうとしていた。


「今日は何を読もうかしら」


「リリーシア様のお好きなもので」


「そうねぇ。イーサン様なら……」


 私はまだ体が動かない彼に公爵家の本棚から読めそうなものを持ってきて寝台の側で朗読してあげていた。


 横になったままの彼は包帯でぐるぐる巻きだったけれど辛うじて目だけは分かった。


 それは綺麗でエメラルドのようだった。


 そして、イーサン様は声変わり前の柔らかいトーンで私に話しかけてくる。私の名前に様付きでこんなに優しく話しかけられたことなどなかった。


 私はイーサン様が疲れないように気を配って話をしていた。でも、気がつけばついつい会話が弾んで時間を忘れてしまうのだった。


 ――歳が同じだからかしら? イーサン様となら話が尽きないわ。


 ハロルド様と会話なんてした覚えがなかった。


 いつもお前は醜いとか敬えとか罵声を浴びせられていたことしか思い出せない


「リリーシア様?」


 ハロルド様とのことを思い出して無言になっていた私を気遣うように声をかけてくれたイーサン様に何でもないというように微笑んでみせた。



「あらあら、すっかりイーサンと仲良くなって。二人ともとても楽しそうね」


「そうよ。イーサン様にリアを取られて寂しいわ」


 お母様とお姉様が時折イーサン様の部屋に訪れると一緒にお話をした。それもとても楽しかった。





 そんなある日、イーサン様の父親が心配して公爵家の領主城にいらした。


「長い間、愚息がご迷惑をかけております」


 イーサン様の父親がお母様に挨拶をされた。


 丁度お父様もお兄様も王都と領内を巡回されていて領主城にはいなかった。


「いえいえ、こちらこそ盗賊の討伐にお力を頂いているのに申し訳なく」


 サマーズ辺境伯はイーサン様と同じ淡い金髪と緑の瞳の美丈夫でお母様も社交界の青い薔薇と呼ばれているほどの美女なのでお二人並ぶととても絵になった。


 サマーズ辺境伯であるが現王の弟であるので、ハロルド様の叔父にあたる。


 ハロルド様は赤味の強い金髪だったのであまり似ているようには感じられなかった。


 私はお姉様と一緒にお出迎えをしていたが緊張していた。


「今すぐにでもこちらに引き取りたいのですが……」


「……ご子息の傷は深く酷い状態ですわ。その、生きているのが不思議なくらいとクリフ様が仰っています。だからまだ動かすのはよろしくないかと」


「そうですか」


 表情を曇らせる辺境伯にとりあえず中で休むようにとお母様が城内へ案内しようとしたので私達も挨拶を交わした。


「おお、これはお美しい。噂に名高いバルトロイ公爵家の美姫の方々ですね」


 私とお姉様がお辞儀すると手離しで褒めてくださったので気さくな良い方だと感じた。


 急な辺境伯の訪問に簡単ながら歓迎のもてなしを差配するお母様は流石公爵家の令夫人だと思った。

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