表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/39

11 治癒魔法

誤字訂正しました。

 私が側にいる方が邪魔になるかと思いそっと身をひいた。クリフ様がイーサン様に近寄ると額や手首を大事そうに触られていた。私はこんなふうに診てもらえたことなどなかった。


「大丈夫ですぞ。気をしっかりお持ちなさい」


「……こんな傷では、クリフ先生でも……。ごほっ」


 イーサン様は咳き込みながら苦しそうで、クリフ様は何かを唱えているようだった。すると不思議な光が生まれイーサン様を包んでいた。イーサン様の呻く声が少し収まって安らかな寝息が聞こえてきた。クリフ様はゆっくりと立ち上がった。


「イーサン様は国境の盗賊団に襲われ酷い傷じゃった。だが治癒が間に合ったのでゆっくりだが、治るはずじゃ」


「……盗賊団に、そうなのですか。それは……」


 良かったと言っていいのか分からず私は黙り込んだ。


 ――では私のあの全身の酷い傷は治癒が間に合わなかったのだろうか?


 公爵家の威信をかけてお父様はきっとお金に糸目をつけず治していただいただろう。


 ということはクリフ様が話されたように私の怪我は治癒できる時間内に間に合わなかったということだったのかもしれない。でもそんなことまでは聞いたことが無かった。


 そもそも傷が治るなんて思ってもみなかった。


 物心ついた時にはもう傷痕令嬢と言われていたのだ。バルコニーから落とされる前は治癒については全く知らなかった。元々魔法使いは貴重なので国益のためになる人しか利用できない。それも意図的に私に隠されていたとしたら……。


 私はクリフ様に部屋まで送られて自室の寝台に横になった。




 翌朝、私は朝食の際にお隣のサマーズ辺境伯の子息であるイーサン様のことをお兄様から聞かされた。お兄様にはクリフ様から昨夜のことは伝えられていたみたいだった。


「先日、辺境伯とうちの領地の境に盗賊団が出るとの噂があってね。エブリンの輿入れのこともあるし、討伐を兼ねた調査をしようとしていたのだ。だが、荒事の得意な辺境伯が請け負ってくれて、どうやら同行していた嫡男のイーサンが盗賊団との戦闘で大怪我をされてこちらに運び込まれたのだ。うちの領主城には引退したクリフ様がいるからね」


「まあ、そうなのですね」


 お母様とお姉様が怖いわとかお可哀想にと口々に話された。


「ああ、クリフ様のお陰で身体欠損の治癒にはぎりぎり間に合ったみたいだが、長期間の治療は必要になるし傷は全回復するまで残るそうだ」


「それは大変でしたのね……」


 私は昨晩のイーサン様の様子を思い出し、お兄様が私を見遣った。


「そもそもあんなところに盗賊などが出るはずではないのだがな。まあ、暫くイーサンは我が家に滞在することになっている。リアは絶対余所ではこのことを口外しないように」


「……分かりました」


「クリフ殿がまだ欠損級の治癒が行えるとなるといろいろと問題が出てくる。どこから情報が洩れるか分からないから用心しておきたい」


「そういうことですのね。お兄様」


 私がそう言うとグレイお兄様はにこりと微笑んだ。


 欠損級を治せる魔法使いは王宮から引退できないのかもしれない。


 そう感じたのはあながち間違いではなく、クリフ様にお会いした時にお訊ねしてみた。


「魔法使いとて力は無限ではない。それにとても希少じゃ。だから魔法使いは死ぬまで拘束される。じゃが欠損級の傷を治し続けるとこちらの命を文字通り削るのじゃよ。それが老いぼれた儂には堪えだしてのう。そんなときバルトロイ公爵が助けてくれたのじゃよ。こうして匿ってくれておる」


「……そうなのですね」


 もし私が誘拐事件で傷ついたらお願いしようと思っていたけれど王都からここまで間に合うかどうか分からないわね……。


 それにしてもバルコニーから落とされる前はクリフ様を公爵家で雇っていたのだろうか? 


 王宮で生活していたからあの頃の領主城にクリフ様が居たのか分からない。今では希少になっている魔法使いはそもそも王宮にいたのだろうか? 各国でも一人お抱えがいるかどうかという状態だそうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ