00 プロローグ 傷痕
本編は完結まで大体書けておりますのでご安心ください。
少し残酷な描写がありますのでお気をつけください。
『私なんて生きていても仕方がない』
『私なんて生きている資格もない。……傷物だから』
私はずっとそう思って生きてきた。
「あんたなんてさっさと死ねばいいのよ! この、クズ!」
「申し訳ありません。お目汚しな存在で……」
私はそう言いながら床に蹲っていた。
目の前に立つのはピンクゴールドの髪とピンクの瞳をした愛らしい女性。
彼女の名前はミランダと言い、私の夫であるハロルド王子の運命の恋の相手。
だけど男爵令嬢なので身分が低すぎて愛妾にしかなれなかった。
だからハロルド王子の正妃である私を蔑み、こうして苛めることによって溜飲を下げていた。
愛らしい彼女は多くの人に好かれていた。
私は王宮の使用人にさえ見下され嫌われて、人々からは傷痕王子妃と呼ばれていた。
ミランダの身分は愛妾だけど実際は王子妃の部屋を賜っていた。私は今日もそこに呼び出されて挨拶と言う名の虐めを受けていた。
私の部屋はここではなく王宮の王族用の隅にある側用人のところをあてがわれていた。公式行事は私の代わりに彼女が全て出席していた。
私は実家の公爵家からの援助を受けるためだけに王家に生かされていたのだろう。
こうして毎日彼女に呼び出されて罵倒されて、ときには暴力を受けていた。
彼女、いいえ、ミランダにとっては形だけでもハロルド王子様の正妃になっている私は忌々しい存在だった。
「ああ、陰気臭いし、相変わらず酷い傷痕ねぇ。そんな醜い顔なら私はとうに死んでいるわ。いつまでも見苦しく生きてるんじゃないわよ。もう死んじゃえば? そうよ。私が公務だってこなしているんだし……、あんたなんていなくったって問題ないわ」
ぶつぶつ言いながらミランダは私をバルコニーへと押しやった。もう手すりぎりぎりのところまで押しつけられていた。
私は背中から仰け反るように王宮のバルコニーから身を乗り出すまでになっていた。そうして、ドンと更に押されて私は王宮の王子妃の部屋のバルコニーから落とされてしまった。
私はゆっくりと空中を落ちていく。
悲鳴は上げなかった。
死ぬのは怖いけど自分で命を絶つことはできなかったから、これでいいのよね。
輿入れの際に用意されていたドレスは型遅れで空中に裾がひらひらと無様に舞っていた。まるで私自身のように思えた。
最後に見えたのはバルコニーから勝ち誇ったような顔をしているミランダの歪んだ笑顔だけだった。
「きゃあぁぁ、誰か、傷痕王子妃様がっ」
ミランダの嬉しそうな声が聞こえると間もなく私は激しい全身の痛みに意識を失った。――そして、ミランダの望んだ通りに死んだのだろう。