『小さき庭で』
遠くで花火の打ち上がる音がしている
昔は此処からでも見えていたそれも
今は遮る物が造られ過ぎて
空を白く照らすのが垣間見られる程度となった
その場所に訪れた時期もあったが
喧騒に揉まれ 疲れ果てるのが関の山
今は音を聞くだけで充分
私は線香花火のほうが性に合ってるから
昔ながらのすぼ手が好きだ
藁の先に黒色の火薬が塗っただけのもの
最近の糸より様のはどうもにも違って感じる
これの火薬には松煙が混ぜられているのだが
その松煙が今では希少なのだそうだ
子とよく使った小振りのアルミバケツに水を張り
紙パックを加工し作った蝋燭立ても持ち 庭に出る
蝋燭の芯の煤を爪先で払い
マッチを擦る
火は悪戯な風にすぐにも消えそう
それを芯に移す時が一番緊張する
片手で風を停め 息を止めて
蝋燭の芯を幾度かその頂に滑らせる
真新しいと火が移りにくいが一度使ったもの
芯は焦れることなく燃えだすのだ
要を果たしたマッチ棒をバケツに投げ入れた
ジッとだけ言って甘い匂いを残し残骸と化す
その様子が哀しい
それを見届け 焰の点いた蝋燭を右手に持ち替える
ぐるりと回し
冷え固まった肩を撫でると途端に蕩けてゆく
一面だけ切って広げたパックの底に
流れ出さんとするものを滴らせ蝋溜りをつくる
蝋燭を注意深く指で挟み
真っ直ぐその中に押し沈め しばし保ち留める
そして踏み台にも使うブロックで囲めば準備完了
こうすれば風を気にせず愉しめる
線香花火に火を点けよう
火薬の先 半寸を焰に差し込むと
すましていたそれは難無く燃えだした
輝きは火薬全体をつたい膨らませ
アッという間に焼けつく丸い玉を作る
時を置かず蕾はほころび牡丹へ変わる
輝きの糸をこれでもかとばかりに吐き出す
誇張するように
四方八方に
ともするとヤケ狂う球は土の上にと墜ちてしまう
少し上向に傾けた右手は動かせない
手持つすぼの後ろからは細く煙がくゆっている
そして一瞬黙り 終わったのかと思いきや
今度は強弱をつけながら伸縮を繰り返す
松葉だ
不規則に走る光
美しい
母なる物体から新星が生まれいでているような
意識は宇宙へと跳びそこから眺めている様
やがてチリチリとしたそれが収まってゆき
最後までチリチリと
収縮してゆき
キエル
満足せず何本も試みて
その残骸を全てを水に浸せば
本当の終焉
蝋燭の炎を吹き消すと
詐りの闇に包まれる
瞼を閉じ 冷えた動きをしばし頬に感じた
遠くの花火の上がる音はまだ続く
オイと呼ぶ声がする
遊んだ跡は片付け 濡れ縁に上がる
背中に月夜が当たっていたのかも知れない
そんな気がした___