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神殺し  作者: 雷禅 神衣
9/41

9.〜鉄 麗 編〜

一仕事終えたウルは自分たちのアジトのあるビルの前に立つと

そのまましばらく立ち尽くし、周囲を眺めた。

路肩に転がっている死体の数が日に日に増えているような気がする。

もっとも魔界でNo,1の実力を誇り、同じ殺人鬼たちから「神殺し」と恐れられるほどの人物である

別に死体が幾つ転がっていようと動じるわけでもないのだが

最近、魔界の様子が変わってきているように思える。

「また始まるのか・・・・」

ウルは誰にとも無くそう呟くと、エレベーターに乗り込んだ。

ウルには分かっていた。魔界の空気が変化している事も去ることながら

その根源が誰にあるのか、その詳細まで分かっている。

魔矢は自分や紅に隠しているようだが、「あれ」が蘇った事は、他の誰よりもウルが分かっている。

「あれ」とは・・・即ち「ゲノム」の事である。


ウルにゲノムの存在が分からないはずがない。何故ならゲノムの基盤となった人物はウルの母親なのだ。

そしてその母親を手に掛けたのは、他の誰でもないウル自身。

降りて行くエレベーターの中で、ウルは過去の事を思い出した。


ウルが魔界でNo,1の実力を誇るのには分けがあった。

それは人並み外れた強靭な肉体と強さ以外にも理由があり、その理由こそが母親であるゲノムを抹殺した理由でもある。

何も最初からウルが狂人のような人間だったわけではない。ウルも他の人間と同じように

母親の母体で生命を培い、産まれて来た極普通の人間だったのだ。

だがそれはあくまで「普通に産まれていれば」の話である。

ウルの母親、つまりゲノムの家庭環境は最悪だった。

ウルは決して望まれて産まれた子ではなかった。親の勝手な事情によって仕方なく産まれた生命だったのだ。

そのため母親と父親、果てには親族たちの激しい賛否両論が日々の生活の中で繰り返され

母親のゲノムは常日頃から親族や夫に対し、激しい憎しみを抱いていた。

「いつか後悔させてやる」「殺してやろうか」

そんな事を思うのはもはや日常茶飯事だったのだ。

母親のゲノムは「不潔」「淫乱」「売春婦」と罵られ、いつしか自分の居場所を見失った。

そして積もりに積もった不平不満は、夫殺害と言う最悪の行為によって終止符を打ったのである。

その時の光景を、ウルは母親の母体の中で見ていたのだ。

母親がナイフで夫の首を切断し、道端に投げ捨てた光景を・・・。


仕方なくウルを出産する。その時の母親はそう思っていたのだろう。

ウルの方も母体の中で散々母親の憎しみを味わい、もはや正常な男児ではなかった。

ウルが産まれる際、上げたのは産声ではなく悲鳴だったのだ。

「スベテヲハカイスル・・・・」と言う悲痛なまでの断末魔。

出産直後からウルは既に邪悪な存在だったのだ。

母親から発せられた憎しみを一身に受けた小さな殺人鬼。それがウルである。


幼少時から既に人を殺める術を覚えた。

成人になる頃には、自らに害を加えんとする存在を全て抹殺していた。

そしてウルが魔界に入る直前、母親であるゲノムをこの手に掛けたのだ。

「育ててもらった恩を忘れたのか!!」母親が絶命する際、そう言い放った。

「誰も育ててくれなど頼んでない」そう言い切ったウルは母親の肉体をバラバラに切断したのだった。


「これで済むと思うなよ、親不孝者・・・いつか、いつかお前を殺してやるからな」


ゲノムはそう言い残し、絶命した・・・・はずだった。


それから数年が過ぎて、魔界でゲノムが蘇った。それが今から7年前の事である。

どういうわけかゲノムはウルたちに殺された魔界の殺人鬼たちの死念をかき集め

世にも恐ろしい姿となって蘇ったのである。

人間とは思えない醜い姿。身体中にいくつも顔があり、手があり足がある。

有に100を超える殺害された殺人鬼たちの眼球と口。

そしてそれに見合った数の脳味噌と心臓。

蘇ったゲノムのターゲットはウルであった。

ウルは仲間の紅、魔矢とともにゲノムの抹殺に打って出た。

しかしゲノムはウルたちが想像していた以上に強靭な強さを誇り、3人は大怪我を負った。

1週間にも及ぶ激闘の末、ようやくゲノムを魔界最南端、忘れられた孤島「煉獄」に封印。

この激闘によって紅と魔矢は意識不明の重体にまで追い詰められ

神殺しと称されたウルでさえ、全治半年と言う重症を負った。

それだけゲノムの力は強大であったということだ。


あの激闘から7年が過ぎた今、ゲノムが再びこの魔界に蘇りつつある。

最近魔界で起こっている不吉な現象は、ゲノム復活を意味する何よりの提示である。

あれから7年の歳月が過ぎ、かき集める殺人鬼たちの死念は前回よりも更に協力であろうことが予想される。

あの時はどうにか犠牲者を出さずに済んだ。だが今回までそう上手く行くとは限らない。

最近魔界に降り立った鬼武、パイフーの両名に加え、まだ明確な素性が掴めない鮫島 聖の存在。そして焔 羅刹。

この3名に自分たちを加え今現在、合計7人の強者が揃っている事になる。

ウルは誰とも組むつもりは毛頭ないが、計画的な魔矢の頭の中には

この7名が徒党を組むと言うプランが既に存在するだろう。

でなければゲノムは倒せない・・・・そう思っているからこそ、魔矢はゲノムが蘇った事をウルに直接伝えないのだ。

言ったところでウルがそのプランに賛同するとは考えられない。

ウルには魔矢の計画などお見通しだった。


だがしかし、魔矢の着眼点は適格だ。更に強さを増したことを考えると

前回のようにウル、紅、魔矢の3人のみで食い止められる可能性は極めて低いのだ。

ゲノムはそんな甘い相手ではない。こちらの想像を遥かに超える強さを誇る。

それと同時に、犠牲者が出ないと言う保証もないのだ。

今は一人でも多くの人手がいる。しかも強者と言う絶対的な条件を満たしている人間の手が。

今になってどうして魔矢が鬼武、パイフーの二人に神経を尖らせていたのか、その理由が分かる。

恐らく魔矢は先のことを見越してこの二人に目を付けたのだろう。

いずれゲノムが蘇る事を想定して、あえてこの二人を歓迎した・・・。そう考えるのが妥当だろう。

そして素性の掴めない鮫島 聖に紅が付いた事実も、きっと何かしらの意図があったに違いない。

焔 羅刹に関しても同じ事が言える。

「まったくどいつもこいつも、勝手な連中ばかりだな」

ウルは戻った部屋の窓から外を眺めた。

死体こそごろごろ転がっているが、ウルはこの魔界が好きだった。

自分の居るべき場所であり、帰る場所でもある。

そんな魔界を、ゲノムの良いようにさせるわけには行かない。

何故なら、邪悪なる神は一人で十分なのだから・・・・。


「そろそろ動き出す時期か」


「神殺しのウル」満を持していよいよ始動である。



END

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