7.〜全てを無へ〜
魔界最南端、忘れられた孤島「煉獄」
魔界の中央部から南へ離れる事およそ7800km。
「血の池地獄」と呼ばれる小さな池を渡り、「絶海」と言う巨大な大海原の最果てで「煉獄」は静かに浮かんでいる。
島の面積は東京23区ほどの広さを誇り、豊富な自然に恵まれている。
だが文字通り島であり、魔界の都市部から離れている事も手伝って、この島に生息する殺人鬼は誰一人いない。
それどころか生物の類は一切存在しないのだ。
それには大きな理由があった。
この島の北部にそびえたつ「煉獄山」は兼ねてより火山活動が活発な山脈で、常にマグマが島全土に流れている状況である。
高熱のマグマによって溶かされた土地には塵一つ残らず、全て焼き尽くされてしまい
後に残るのは溶岩石くらいなものだ。動物や小鳥などが必要とする虫なども誕生しない。
水は全て海水のため、存在する生物といえばバクテリアやプランクトンなどの微生物のみだ。
ましてや人間が生きられる環境ではない。
そんな静かで忘れられた島「煉獄」で、ある変化が起こっていた。
この島に生物が生きられない理由はもう一つある。
この煉獄は島の端から端まで「封印布」と呼ばれる布で覆われている。
それはまるで何かを封印した後のような形跡があり、それに恐れをなして人が住むことを拒絶しているのである。
その封印布は7年前までは無かった。
そう、「あの出来事」は7年前に起こったのだ。
そしてこの煉獄には「あれ」が封印されている。
煉獄山火口の奥深くで「それ」は確実に再生を始めていた。
摂氏数千度を誇るマグマの中で、身を寄せ合うように蘇生を繰り返している。
散りばめられた肉片を探すように、この世に存在する全ての憎しみが集結し始めている。
そしてその憎しみこそが「それ」を形成する最も重要な要素だった。
憎しみ、怒気、殺意、腐敗・・・凄まじいまでの負の感情が流れるマグマの中を傍若無人に行き来しているのが分かる。
やがてその負の感情は人間の形となり、醜い醜態を作り上げていく。
基盤となる同体が形成されると、それなりの思考回路が芽生え、考えるという行為が可能となる。
「それ」の脳裏に浮かんだのは真っ暗な闇と、自分を封じ込めた三人の男の姿だった。
その中でも特に長身で無表情の男だけは鮮明に記憶している。
「それ」はこの男によってこんな場所に封印されたのだ。
その男は「神殺し」と言った。そう、「神殺しのウル」である。
その存在そのものが憎しみだけである「それ」にとって、まさか自分が敗北する姿など想像もしていなかった。
しかし現に「それ」はこの男たちの手によって封じられたのだ。
そう思うと元からある憎しみが更に加速する感触を覚え、興奮が抑えられない。
そして「それ」は自らの意志を持ち始め、やがて名前を考える。
魔界で壮絶な死を遂げた人々の憎しみが集結した姿。それが彼の姿であった。
そのため彼の姿はとても人間とは思えないほど醜悪だ。
苦痛に歪んだ無数の顔、夥しい数の眼球と口。腐敗の進んだ肉体に歪な手足。
そう、それは魔界でウルたちに殺された何千と言う殺人鬼たちの集合体だった。
彼は煮えたぎるマグマの中から起き上がった。
考える思考も、正義も悪も、全て感じる事のない破壊の神。
ただただ自分たちを死に追いやったウルたちに復讐を誓う悪魔の姿。
燃え盛るマグマの炎が、彼に再び血と殺戮の衝動を宿した。
「我が名はゲノム・・・・全てを無に返し者・・・」
END




