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神殺し  作者: 雷禅 神衣
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5.〜音羽 魔矢編〜

昨日の深夜から降り続いている雨が止む気配は無かった。

所々に出来た水溜りに雨が水溜りを作って群れているのを見ると、魔矢の身体は唸りをあげるように痛み出した。

「こうも雨が続くと疼くな」

左手で右肩を擦りながら、そこに体温が通っていない事を確認する。

今や金属で出来た魔矢の右腕は雨に弱い。いくら錆びない特殊な金属を使っているとは言え、雨の日は古傷が痛むのだ。

目的の店に辿り着くと、魔矢は店のドアを開け中に入った。

「いらっしゃい。あら?傘持ってなかったの?」

「ああ。そのうち止むだろうと思ってね」

「昨日の深夜から降り続いているのに、いつか止むだろうって?」

「変かな?」

「そんなこと無いけど、これ使って」

そう言うと店のマスターと思われる女は魔矢にバスタオルを投げ渡した。

「すまんな」

魔矢は受け取ったタオルで身体を拭った。おかげで水分は拭い取る事ができた。だが血の臭いだけは拭えるものではない。

「また殺ったのね」

女は魔矢を見ずに言った。

「これが仕事だからな」

「ウルと紅は元気?相変わらずニコニコしながら殺ってるんだろうけど」

「紅はそんな感じだが、ウルはそうでもないさ。ヤツは無愛想で有名だからな」

「座って。いつものヤツで良い?」

「ああ」

魔矢はそう言うとカウンターの席に腰を降ろした。

女の名前は「由佳」ここ魔界でバーを経営する数少ない女だ。

魔界には女の殺人鬼も数名存在するが、由佳は殺人鬼ではなく、一般人である。

だが由佳は決して正常な人間とも言えない。

「あんな光景」を目の当たりにして平然としていた女だ。やはりどこか狂っているのだろう。

懐かしさが漂う中、魔矢は由佳と出会った日の事を思い出した。


それは今から9年前、まだ魔矢が魔界で最上級レベルだった頃に由佳と出会った。

当時、まだウルと親密な関係ではなかった魔矢は「神殺し」の異名を取るウルと殺り合った。

無論、神殺しの肩書きは尋常ではなく、明らかに魔矢は圧されていた。

ほとんどダメージを与える事さえ出来ず、どうにか攻撃だけを防いでたのだが、それでも殺されるのは時間の問題だった。

魔矢は自分が殺られるとは思わなかった。不思議な感触だがウルは自分を殺さないだろうという確証を感じ取っていたのだ。

だがその戦いの最中、ウルではない別の殺人鬼たちが魔矢を狙い始めていたのだ。

殺人鬼たちはウルと戦った事で弱った魔矢を殺す計画を密かに練っていたようだ。

魔矢が次の攻撃に備え、裏路地に差し掛かったとき、無数の殺人鬼たちが魔矢の前に現れ襲い掛かった。

余計なダメージを恐れた魔矢は一気に勝負を決めるつもりだった。

金属と化した魔矢の右腕から様々な武器が火を噴いた瞬間、路地から由佳が現れたのだ。

「危ない!!」

そう思ったときには既に遅かった。

殺人鬼へと向けて放った武器の一つが由佳の腹部に命中、己の血と殺人鬼たちの返り血で由佳は全身血塗れになった。

殺人鬼たちは全員死亡。だが由佳だけはまだ息が合った。

魔矢は由佳に駆け寄り、とりえずの応急処置を施した。

「刺されると痛いのね」

全身血塗れになりながらも、由佳は笑いながらそう答えた。

そんな光景を見ていたウルは魔矢にこう言った。

「殺人鬼が人を助ける・・・。奇妙な事があるもんだな」

ウルも何かしら感じるものがあったのだろう。それだけ言い残し去って行った。

由佳の部屋で魔矢は看病を続けた。元々魔矢は関係の無い人間を巻き込んだり、無益な殺生を好むような男ではない。

何の罪もない由佳に攻撃を与えてしまった事に深い罪悪感を感じていた。

だが眠りから覚めた由佳は、魔矢の罪悪感とはかけ離れた事を口にしたのだ。

「刺されたときの痛みがわかって良かったわ」

その日以来、由佳と魔矢はどちらとも無く理解し合い、その関係は今日まで続いている。


「貴方のような人間がどうして魔界に?」

いつぞやそんなことを聞かれたのを覚えている。

「それにその右腕、普通じゃないよね」

その質問に魔矢はこう答えた。

「こう見えても家族がいたんだ。妻と子供。それはどこにでも有りそうな家庭だったけど、幸せだった。

だけど警視総監と言う仕事上、恨まれる事もあってね。たまたま俺が関わった事件の犯人に強い恨みを買ったのさ」

「それだけで魔界へ・・・ってわけじゃないんでしょ?」

「殺されたのさ」

「殺された?」

「ああ、その犯人に家族をね」

「・・・・・・」

「俺は警視総監と言う職務に就きながら家族を守れなかった。家に駆けつけたときには既に遅かった。

その後どうにかして犯人を捕まえたが、許せなくてね。警視総監でありながらヤツを射殺した。

この腕はその償いってやつさ。魔界に入る前、知り合いの精密士に腕を改造させた」

そう言うと魔矢は右腕を由佳に見せた。

魔矢の右肩は付け根から全て剥ぎ取られており、無数の武器が隠せるいわば「倉庫」のようなものだった。

その金属は特殊なオリハルコンと言う金属で出来ており、自らの意志で動かす事が可能だった。

「オリハルコン・オロチ、それがコイツの名前さ」

オロチには様々な銃器がセットされている。小型の自動小銃からショットガン。マグナム、小型バズーカ。

ミサイル、ナイフ、鎌、斧、鉈・・・・ありとあらゆる武器が納まっている。

「貴方が鬼眼きがんと呼ばれる由縁が分かったわ。銃の腕前は魔界一だものね」

どんなに遠く離れた場所からも明確に標的を射抜く眼。それはまさに鬼さえも射抜く眼と呼ばれ

殺人鬼たちの間で、魔矢は「鬼眼の魔矢」と呼ばれ恐れられている。


「はい、これ」

我に返った魔矢の前にグラスに入ったマティーニが置かれた。由佳が微笑ながらこっちを見ていた。

「ありがとう」

「そう言えばあの話知ってる?」

「あの話?それってパイフーと鬼武の事かい?」

「いえ、違うわ」

魔矢はウルと紅、そして由佳にはパイフーと鬼武の話をしている。そのため彼女がそれを知っていてもおかしくない。

「蘇ったらしい・・・・そんな噂を聞いたんだけど」

「蘇った・・・まさか!?・・」

魔矢の額から冷たい汗が流れ落ちた。

「蘇った」この一言で魔矢には一つ心当たりが合った。もはや二度と思い出したくない黒い過去である。

しかしその黒い過去は魔矢だけに留まらない。それはウルや紅にも、いや魔界全体にも同様の事が言えるだろう。

この話を聞いたらさすがのウルも表情を変えるだろう・・・。

「バカなっ!ヤツが蘇ったと言うのか」

「あくまで噂よ。姿をみた連中はまだ誰もいないわ」

「有り得ない・・・・あの時確かに抹殺したはずだ。調べる必要が有りそうだ」

「大丈夫よ、きっと。噂だもの」

「君も知っているだろう。ヤツを抹殺するのに俺たちがどれほど苦労したか。

俺と紅は全治半年の半ば半殺し状態。あのウルですら重症を負わされた相手だ。いくら噂と言っても鵜呑みに出来ん」

そう言うと魔矢はマティーニを一気に飲み干し、店を出た。

「何処行くの!?」

「ヤツの事、調べてみる。ウルと紅にはまだ言うなよ。何か分かったら俺から話す」

降りしきる雨も気にせず、魔矢は飛び出して行った。


「もし、万が一ヤツが蘇っていたとしたら、魔界は・・・・」


魔矢の脳裏に浮かんだ「ヤツ」の姿。

その姿は魔界全土を覆い尽くすかのごとき勢いで大きくなりつつあった・・・。



END

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