〜アナザー・ストーリー〜 エピソード1「神殺しウル、誕生秘話」
神殺しウル・・・今ではこの言葉を魔界で知らぬものは誰一人いない。
文字通り神さえも殺しかねない殺人鬼。魔界でNo,1の実力を持つ者のみが与えられる最高の栄誉である。
しかし、その神殺しウルの素性は未だ不明であり、その過去を知るものもまた存在しない。
ここで語られる物語は、そんな神殺しウルの過去の物語。
神殺しはいかにして神殺しと成り得たのか・・・。
そしてどのようにしてこの世に生を受けたのか・・・。
凄惨且つ、惨たらしい過去の扉が開かれる・・・・。
「ハア・・ハア・・ハアア・・・」
凄まじい心拍数が跳ね上がる中、可憐は躯となった夫の亡骸を見下した。
「お前が悪いんだよ・・・全部ワタシのせいにするから、こんな事になったのさ・・・」
ドップリと返り血を浴びた可憐は、右手に鉈を持ったままそう言った。
「お前も嬉しいだろ、麗。お母さんの復讐が全て終わったんだ。お前も喜んで生まれ来るといい。
必ずしも望まれた子供じゃないけどね」
可憐はそう言いながら自分の下腹部を擦った。
今現在子宮の中には麗(うるは、後のウル)と名付けた我が子が宿っている。
可憐はずっと麗の妊娠を恨みながら今日の復讐劇を迎えたのだ。麗の命を喜べるはずも無い。
何故なら麗はこの憎き夫の血を受け継いでいるのだから。
そんな子供を子供として受け入れられるはずも無く、可憐の中では「忌み子」としてその役目を背負わされていたのだ。
「ワタシがどれだけ苦労したか、お前に分かるか?麗・・・・」
可憐は静かに目を閉じ、過去を振り返った。
幼い頃に両親を亡くした可憐は、その後の人生全てを親戚の元で過ごした。
だが必ずしも可憐を快く引き取る親戚だけではない。そのほとんどが邪険にされながら引き取られていた。
「とろい子だよ、あんたって子はっ!」
たらい回しにされた先々で可憐は親戚による執拗なまでの虐待に合った。
殴る蹴るは日常茶飯事。食事制限などもはや常識だ。何も食べさせてもらえなかった日もあった。
それでも可憐は文句を言う事など許されなかった。自分には帰る場所など無い。親はもう居ないのだ。
少なくとも成人するまでは何処かで養ってもらわないと、人生破滅である。
可憐は果てしなく続く暴力の嵐の中、ずっと息を潜めるように耐えてきた。
「メスブタ」「淫乱」など、まったく身に覚えの無い言葉まで浴びせられる頃になると
引き取り先の男たちの格好の性処理機として扱われた。
夜になると親戚の主人たちが可憐の部屋に忍び寄り、口を塞ぎ、裸にして暴力を振るう。
「所詮お前はメスブタだ。誰にでもヤらせるんだろ?」
中学から高校に上がると、親戚たちによる言葉の攻撃で可憐の精神はもはや限界ギリギリだった。
嫌がる可憐を無理矢理押し付け、気が済むまで犯し続けた。
後に残ったのは身体の中、外問わず放出された男たちの白い欲望のみ。
いつしか可憐の心は壊れ、そして今の夫の子供を孕んでしまったのだ。
今しがた殺害した夫、一輝が可憐と一緒になった理由は至って簡単。
可憐が我が子、麗を宿したため仕方なく籍を入れた。決して望んだ結婚ではなかった。
一輝も可憐の親戚一同の一人であり、別に親戚同士が結婚する事に問題は無いのだが
相手が親無しの可憐だと、いろいろと都合の悪い事例が出てくる。
メスブタ呼ばわりされた女が自分の妻である事を知られたら、他の親戚たちに何を言われるか分かったもんじゃない。
そのため一輝は可憐の存在を隠しながら、偽りの夫婦生活を続けてきた。
「お前なんかカスだ。俺はお前を嫁として認めないからな」
もはや慣れきった言葉だったが、既に麗を身篭っていた可憐にはキツイ言葉であった。
それ以後も一輝、そして他の親戚たちからの嫌がらせは続いた。
会えば意味も無く唾を吐きかけられる。頭を叩かれ、振り向いた瞬間、凄まじい威力持った拳が顔面に撃ち込まれる。
痛みで悶絶していると今度は腹を蹴られ、のた打ち回る可憐に冷たい水が浴びせられる。
そして最後に裸にされ、強姦されると言うのがいつものパターンだった。
当然ながら避妊具など無い。真っ白な欲望は下半身の奥深くに注ぎ込まれる。
もはや限界など超えていた。そしてその頃から「殺してやる」と言う確固たる憎しみが可憐の心に巣を作っていたのだ。
我に返った可憐はまたもや下腹部を擦っていた。
殺害した夫の首は切断し、身体は工事用の切断機に放り込み、粉々に砕いて海に捨てた。
そしてその半年後、可憐は本格的な陣痛を向かえ、麗が誕生した・・・。
「言っておくけどお前はワタシにとって邪魔以外の何者でもないんだからね。
その辺勘違いしないでよね!」
「・・・・・・」
「まったく何言っても無言かい!このバカ子がっ!?」
「・・・・・」
幼い頃からそう言われ続けて麗は育った。学校から家に帰っても可憐はおらず
夕食の支度も自分でしなければならなかった。
麗は何も言わず黙って生活を続けた。心の中に絶対的な殺意を育てながら・・・。
「や〜い、お前んち貧乏家!みすぼらしい世捨て人〜!」
「お前汚いんだよ、寄るな!」
「死んだ目してんな、いっそ殺してやろうか?」
「お前んちの母親ヤリマンだろ?いつもホテルから男と出てくるんだぜ」
「毎回男が違うんだよな。そんなにモテる顔じゃないってのにな、お前の母さん」
小学、中学、高校と麗は他の生徒たちから差別され続けていた。
それでも麗は何も言わなかった・・・。
だがそれは言葉で何も言わなかっただけだ。何も行動まで起こさなかった・・・・と言うわけではない。
この頃から麗の通う学校では生徒たちが次々と行方不明になるという奇怪な事件が多発し始めた。
警察も本腰を入れて動き出したが、依然として犯人は見つからず、生徒たちも見つからない。
警察の捜査の手は当然同じ学校に通う麗にも及んだが、麗が学校でいじめられている事実を知り
そのいじめに対し抵抗しなかった事実を見つけると、警察は麗のマークを外してしまった。
警察では「復讐などするようなタイプではない」と踏んだのだろう。
しかし警察の読みは浅かったのだ。幼い頃から憎しみによって育てられた麗にとって
自分の感情を消し去る術など、当に身に付けていたのだから。
こうなってしまえばもはや麗の独壇場である。
言葉による抵抗は皆無だった。だがしかし、行動による抵抗は確かに、そして静かに続けられていたのだ。
行方不明になった生徒たちは、行動を起こした麗によって惨殺されていたと言う事実は、もはや言うまでも無いだろう・・・。
「お前、人を殺したね?」
「・・・・・・」
「黙ってても分かるんだよ。殺っただろ?ええ?そうなんだろ!」
家に帰った麗を可憐は執拗に責め始めた。
「お前の学校の生徒たちが行方不明になっているって、今日警察どもが来たんだよ!」
「・・・・・」
「お前だろ!?お前が殺したんだろっ!?」
「だったらなんだって言うんだ?」
このとき、可憐は初めて我が子の声を聞いた。産まれた時の産声意外で声を聞くのは初めてのことだった。
「この人でなしがっ!!人様に迷惑掛けるんじゃないよ」
可憐の容赦ない平手が飛んでくる。
「人の事どうこう言える立場なのか、お前は」
「お前・・・お前だとっ!!!母親に向かってお前とは何様だっ!!」
「俺様だよ。お前が母親だなんて俺は思っていない。ただのメスブタに過ぎん」
「な、なんだってぇ・・・この人殺しがっ!!」
「お前だって人殺しだろ?あの男を殺したじゃないか」
「っ!!」
麗は知っているのだ。まだ母体に居たときに可憐が殺した夫の事を。
常識的に考えてそれは不可能である。だが、どういうわけか麗はそれを知っている。
「やっぱり・・・やっぱりお前は生まれてくるべきじゃなかったんだよ、麗!?」
「今頃言っても遅いだろ。頭の悪い女だ」
「このガキッ!!死ね!!」
可憐は我が子麗に飛び掛った。だが高校生になった麗に力で勝てるほど強くはない。
可憐は呆気なく麗に首を掴まれてしまった。
「お前がな」
「えっ・・!?」
次の瞬間、「ゴキッ!」と言う鈍い音を立てて可憐の首があらぬ方向へと曲がった。
「あああ・・・ああああ・・ああ・・・」
可憐の口からヒューヒューという空気の音が漏れる。
「メスブタには相応しい最後だな」
可憐の口から大量の溢れる。ごぼごぼと言う音を立てながら床でのた打ち回る可憐。
「これで済むと思うなよ、親不孝者・・・いつか、いつかお前を殺してやるからな」
「死んでどうやって俺を殺そうってんだ。バカ女がっ!?」
そして可憐は一切の動きを止め、絶命した・・・・。
翌日、麗の通っていた学校でまたもや行方不明者が出た。
今回、行方不明になったのは鉄 麗と言う生徒で、他の生徒たちから執拗ないじめを受けていた生徒であることが分かった。
また彼の家で何者かによって殺された彼の母親が発見されている事から
鉄麗が何らかの事情を知っているとして警察は捜査しているという情報が流れた。
行方不明になる前日、彼を最後に目撃した近所に住む大学生の話によると
彼は全身血塗れになりながら夜の闇の中に消えて行ったと証言している。
麗は表の世界から完全に姿を消したのである・・・。
「ひぃぃ!!だ、誰なんだお、お前は・・・」
ゴトンと転がった死体を余所に、男は自分の目の前で立ち尽くす人物にそう言った。
「鉄 麗・・・魔界か、なかなか良い場所だな。気に入った」
この日、麗は魔界に降り立った。
それから14年後、麗は魔界で凄惨な殺戮を続け、ついに魔界No,1である「神殺し」の異名を会得した。
更にその2年後、仲間の紅、魔矢と共に「神殺し」と言う物語の幕が開かれるのである・・・。
END




