35.〜聖戦、ウル vs ゲノム 決着のとき〜
羅刹が火口から離れると、そこには由佳たちがいた。
由佳だけではない。パイフー、鬼武、等々力、鮫島、そして鮫島の愛刀鬼三。
鬼武以外は全員が満身創痍であり、倒れながらウルの戦いを見ている者が居る。
それだけゲノムは強大であり、手強い相手であることが伺える。
火口付近で爆発音が轟いたとき、鬼武と等々力がランドクルーザーからドラム缶を下ろしてきた。
もはやまともに動けるのは鬼武と等々力しか居なかった。
「な、なんに使うんや?」
「ウルからのリクエストです」
等々力がそう言った。
ドラム缶には液体水素と書かれていた。
「液体水素・・・なんや、一体・・・」
「ま、見てれば分かるって」
鬼武がそう言った。
煉獄の火山はもはや爆発寸前だった。後数分もしないうちに噴火するだろう。
だがそんな場所にウルは居るのだ。宿敵ゲノムと一緒に。
「そろそろ頃合だ」
「グルルル・・・」
鮫島、パイフー、羅刹によってしたたか傷つけられたゲノムの肉体は完全に再生する事が出来なくなっている。
ゲノムとは言え生命体である。限界は付き物だ。
「長かった・・・。お前にはうんざりだ、ゲノム。お前のせいで多くの仲間が傷付いてしまった・・・。
魔矢、紅、そしてあの連中も」
ウルはそう言うと顔を羅刹たちが居る場所へ向けた。全員がウルとゲノムの戦いを見守っている。
「俺は今まで神殺しと言う言葉を鼻に掛けたことは一度も無い。だが、俺には魔界を守る義務がある。
それが神殺しの称号を持つ者の使命。やるべき事だ」
「ウル・・・・」
「今一度お前を葬り、魔界に安堵をもたらす。それが俺の役目だ!!」
そう言った瞬間、ウルはジャケットの袖から大量の手榴弾を取り出し、ピンを引き抜いた。
「な、何をするつもりや!!」
「バ、バカな!あんな場所で爆発させたら噴火するぞ!!」
羅刹と鮫島が叫んだ。
「これで終わりだ!!」
ウルはそう言うと、持っていた手榴弾を全て火口に投げ入れた。
「や、やべぇ!!」
「みんな、伏せて!!」
由佳が叫んだ瞬間、火口に消えて行った手榴弾全てが爆発し、凄まじい轟音と共に火を噴いた。
「うお!」
「ぐわっち!」
鮫島とパイフーが共に後方へと吹き飛ばされた。だが岩に捕まり難を逃れる。
「島が・・・煉獄が崩壊する・・・」
「あかんで!ここは孤島や!このままやと海にバシャンやで!」
噴火を始めた孤島、煉獄は文字通り業火の如くマグマが吹き上がり、島の外壁を破壊して行く。
「コロス!!」
「やってみな!!」
その業火の中、ゲノムがウルに襲い掛かるのが見えた。ウルに武器は無い。あるのは己の肉体のみ。
遅い来るゲノムの触手を両手で受け止めると、そのままの格好で力押しの状態に入った。
「掛かったな!」
ウルはゲノムの後方に回ると、後ろからゲノムを羽交い絞めにした。
「鬼武、等々力!!」
「あいよ!!」
「待ってたぜ、この時を!」
「鬼武!等々力!」
いつの間にかドラム缶を持った鬼武と等々力が羅刹たちの目の前に立っていた。
「な、なんや!」
「ウルから言われてたの。火口を爆破するからその後このドラム缶を流せって」
由佳が羅刹に説明した。
「行くぞ、等々力!準備は良いか?」
「いつでも良いぜ!」
「おっしゃあ!流せ!」
「あいさ!!」
合図と共に液体と化した水素が火口に流れる。液体水素はウルとゲノムに向かって一直線に向かって行く。
液体水素が降りかかる瞬間、自分よりも巨体であるゲノムの頭部にウルは飛び乗った。
液体水素には物質を瞬時に凍らせる力を持っている。
しかしそんな液体水素に極端な熱が加えられる、熱と化学反応を起こし、大爆発を起こす事をウルは知っていたのだ。
熱なら打って付けのマグマがある。そこに液体水素が降り込めば、島ごと吹き飛ぶ事は必至だ。
「ギュオオオオオ!!」
液体水素がゲノムを襲う。液体水素が触れた部分は瞬時に凍り付き、身動きが取れなくなる。
「あかん!ウル、急いで戻って来い!し、島が爆発するで!」
もはや島全体が凄まじい揺れを起こしている。巨大な地震が島を襲う。
「ああ!」
「ニガサン・・・」
「な、なに!!」
「ウル!!」
もはや全体の9割が凍り付いているゲノムだったが、その意思は半端じゃなかった。
最後の悪あがきとも取れる、ウルの右腕を掴み離さないのだ。
「や、やべぇぞ、あいつ!!」
「おい、急げ!」
パイフーと鮫島が同時に叫んだ。
「なにしとんねん!!」
「ウル!!」
「くそっ!!」
液体水素の流用は止まらない。掴まれたウルの右腕から冷気が伝わり、徐々に凍り付いて行く。
ちょうどその時、島が大爆発を起こした!
「ぐわっ!」
「くそっ!」
「どうすんだ、おい!!」
「もうあかん、ウル!!急げ!!」
「島が・・・・崩れ行く・・・」
ウルは静かにそう言った。
「羅刹!もう限界よ、島から離れるわ!」
「せ、せやけど・・・」
「行け・・・」
「なに!?」
それはウルの声だった。
ゲノムに右腕を掴まれたまま凍り付いたウルの意識が羅刹に言葉を送ったのだ。
「お前たちまで死ぬ事はない。こいつは俺が連れて行く」
「ウル・・・なんや、それ・・・冗談ちゃうで!!」
「良くやったよ。感謝してる」
「おい!ウル!ワイはあんさんを倒すために魔界に来たんやで!」
「俺よりも魔矢とケリを着けるのが先だろう」
「そういう問題ちゃうわ!!勝ち逃げかよ!!」
「そう思いたければ勝手に思え。じゃあな・・・」
「ウル!ウル!!」
「なにやってんだ!お前は!!」
その時、一向に離れない羅刹を見かねて、パイフーが羅刹を連れにきた。
「さっさと行くぜ!関西人!」
「せ、せやけど、ウルが・・ウルがまだあそこにおるんや!」
「もう無理だ、諦めろ!」
そして最後の大爆発が火口で巻き起こった。
「ウルゥ!!!!」
それが由佳の叫びだったのか、それとも羅刹だったのか、定かではなかった。
「ちきしょー!!もう離れようが無い!」
島へと続く道は既に海に沈んでいた。これで完全に活路は閉ざされた事になる。
「どうにかならんのか!」
鮫島が叫んだ。
「ここまで来て死ぬのかよ」
鬼武が項垂れる。
「魔界なんて来るんじゃなかったな・・・・」
等々力が首をガックリと曲げた。
その時、立ち上る煙に中からヘリの音が聞こえた。
「なんや!!」
「ヘリだ!!」
「どうやら助けが来たみたいね」
「助けって、他に誰もいないぜ」
「居るじゃない。後二人、かつてのNo,2と3が」
燃え上がる爆炎の中から姿を現したのは、紅が操縦する軍事用のヘリだった!
助手席には両目に包帯を巻いた魔矢が座っていた。
「遅くなったな!みんな乗れ!!」
「早く乗って!もう煉獄は持たないよ!」
魔矢と紅が叫んだ。
「ナイスタイミングだぜ!」
パイフー、等々力、鮫島、鬼武、由佳の順にヘリに飛び乗る。
「ウル・・・・」
もはや火口は見る影も無かった。あれだけの爆発ではさすがのウルも耐えられるはずが無い。
「羅刹、急げ!」
魔矢が叫んだ。
「ああ・・・」
何ともやりきれない思いで羅刹はヘリに飛び乗った。
「みんな、何かに掴まって!」
紅がそう叫ぶと、一同は全員壁や手すりに掴まった。
「行けるか、紅」
「うん、多分大丈夫だとは思うけど、さすがに距離が近すぎるからね」
「頼むぜ、おい」
「救いの手が来たんだ、死にたくないな」
パイフー、鬼武がそう言った。
「煉獄が・・・爆発する」
魔矢がそういった瞬間、地平線に真っ直ぐな光が走ると共に、忘れられた孤島「煉獄」は凄まじい轟音を響かせ海へと沈んだ。
「ぐわっ!!」
ヘリが激しく揺れる。轟音は爆風を伴い、ヘリの自由が奪われる。
それでも紅は操縦の手を離さなかった。魔矢もそれに手を添え、何とか軌道を確保しようと必至になった。
「飛ばすよ!!」
「ああ!」
ヘリは立ち上る煙を脱出し、魔界の中央部へ飛んだ。
その瞬間、海に沈んだ煉獄は海中で再び大爆発を起こし、粉々に砕け散って行った・・・。
END




