34.〜最終章3 「最終決戦へ」〜「本心を隠したバーサーカー」〜
バーサーカーと化した羅刹に聖魔刀は必要なかった。聖魔刀よりも肉体的な攻撃力の方が上だからだ。
「うらぁ!!」
羅刹の拳は岩をも砕き、その砕かれた岩がゲノムに突き刺さる。しかし再生を繰り返すゲノムにはほとんど意味が無い。
攻撃を続けながら羅刹は由佳を見た。由佳は傷付いたウルの治癒に専念している。
時折ウルは由佳と何か喋っているが、話の内容までは聞こえない。
(そもそもワイは何で魔界に来たんやっけな・・・)
繰り出す拳の力を強めながら思った。
リアル世界で殺人を繰り返していた羅刹は、とうとうギネスに残す大量殺人を実行に移した。
羅刹が天誅を下す相手はワル限定ではあるものの、それが犯罪である事は事実だ。
関西地方最強と呼ばれた暴力団を壊滅させた羅刹は、そこの組長から魔界の存在を聞かされた。
自分よりも強いヤツがいる。その言葉が耳に残り、興味を抱いたのだ。
リアル世界で羅刹に勝てる相手など居ない。しかし魔界では大量殺人など日常茶飯事だと言う。
更なる殺戮を求めて羅刹は魔界にやって来た。自分よりも強い男「神殺しウル」を倒すために。
いざ魔界に来てみると、組長が言ったとおりツワモノばかりだった。
リアル世界で難なく始末できた人間も、ここ魔界ではそう簡単には行かなかった。
それは魔矢と死闘を繰り広げた羅刹だからこそ分かる事である。
そしてそんな血肉の飛び交う魔界で一人の女と出会った。
それが由佳だった。
羅刹は一目惚れするようなタイプではない。にも拘らず初めて由佳を見たとき、ピンと来るものがあった。
一体それが何なのか羅刹はずっと考えていた。そして分かった事がある。。
それは、自分は由佳が好きなのではない。魔矢を愛する由佳の姿に惚れたのだと。
由佳に魔矢と言う存在が無かったら、羅刹はここまで由佳を好きにならなかっただろう。
献身的で謙虚。そして何より寛大な優しさで魔矢を支える由佳の姿は、文字通り天使のような存在だった。
そんな女と羅刹は出会ったことが無かった。魔矢との相性は抜群である事は間違いない。
だからこそ「恋する乙女に恋した男」を受け入れる事になってしまったのだ。
由佳に良いカッコ見せるとか、もはやそんな事はどうでも良かった。
ゲノムを倒さない限り、由佳は幸せになれない。だからこそ由佳を脅かすゲノムを倒す事を羅刹は誓ったのだ。
それに魔矢、紅、ウルとの微妙な関係も悪くなかった。
三人ともいわば「同類」なのだから。人を殺すことでしか得られなかった感触を
この三人と出会ったことで得る事ができたのもまた事実だった。
そこへパイフー・鬼武、等々力、鮫島、鬼三との出会いが重なり、いつしか魔界は羅刹の居場所となった。
そんな折、現れたのがこのゲノムである。魔界を崩壊へと導く悪の元凶。何があっても始末しなければならない。
自分の居場所を守るため。そして愛する人の幸福を祈るために・・・。
(ワイってこんな役回りばっかやな・・・・)
羅刹の渾身の一撃を込めた拳は、ゲノムの肉体を完全に砕いた。
「どうしてそんな事を・・・そんな事したら無事じゃ済まないよ」
「分かってる。だが、これしか方法が無い」
「だけど・・・」
治癒を施していたウルから聞かされた事実は、由佳に大きな衝撃を与えた。
「魔界を守るためだ。やるしかない」
「待ってウル!死んじゃうよ!」
「大丈夫さ、信用しろって」
ウルは久しぶりに笑った。神殺しウルに笑顔とは何ともミスマッチだが、その表情は晴々としていた。
「鬼武、それに等々力・・だったな」
「ひぃ!!」
立ち上がったウルは等々力の元へ行き、彼の名前を呼んだ。
「ななな、な、な、なんで・・・ございましょう・・・?・・」
「ビビり過ぎだろ、等々力」
鬼武が苦笑いを浮かべた。
「お前たちに頼みがある」
バーサーカー羅刹の最大の弱点はスタミナだった。
急激に発達した筋肉を維持するためには膨大なエネルギーを要する。エネルギーの消費が長く続けば当然動きも鈍くなってしまう。
羅刹の身体はもはや限界だった。先ほどから怒涛のように続いていた攻撃のスピードが落ちている。
「クソッ!なんやねん、このバケモノは」
それを見逃すゲノムではなかった。
「ぐはあっ!」
「羅刹!」
上空から一気に急降下した羅刹の身体は地面に叩きつけられた。そこへゲノムが真っ逆さまで落ちてくる。
「うががああっ!」
ボキボキと否な音を立てて無数の骨が折れた。
羅刹の身体は元の姿に戻っていた。もはやバーサーカーを維持する事さえ出来なくなっている。
「うう・・・ホンマ・・なんでワイはこんな役・・・ばっかなんや」
鞘から聖魔刀を取り出した羅刹だが、立つのがやっとである。
そこへゲノムが近づく。もうまともに戦える人間はいない。鮫島は重傷、パイフーも大怪我。
「サイゴダ・・・・」
「くそったれ・・・・」
振り上げられたゲノムの鋭い触手が羅刹を狙う。勢いを付けた猛攻は一直線に羅刹へと注がれんとしている。
「最後はお前だろ」
「なんや!」
ゲノムの攻撃が羅刹に当たる瞬間、凄まじい爆風と共にゲノムが吹き飛んだ。
「ウ、ウル・・・」
羅刹の後ろにはウルが立っていた。
「ウ、ウル・・・あんさん・・怪我は・・」
「この程度じゃ怪我のうちに入らんさ。ゲノムは俺が倒す」
「せやけど、あんさん・・」
「元々これは俺とゲノムとの戦い。余計な連中まで巻き込む結果となったが、それももう終わる」
「な、なんやて」
「今すぐ火口から離れろ。いずれこの火山は爆発し、島は崩れる。由佳たちが待つ場所まで離れるんだ」
見ると、由佳を始めパイフーたちは火口のすぐそばに移動していた。
羅刹は自分が火山の火口にいる事に気付いていなかったのだ。
小さな丘を隔てた向こう側に由佳たちが居た。
「勝算はあるんかいな」
「ある。だからこそ今ここに居る」
「そうかい」
羅刹はそう言い残し由佳たちの元へ歩き出した。
「癖の多い連中を束ねてよくここまで来たな。意外とリーダーの素質があるんじゃないか」
「あんさんに言われとうない。こっちはド偉い迷惑や」
「フフ、巻き込んじまってすまなかったな」
「もうええわ・・・勝てよ」
「ああ」
足取りのおぼつかない羅刹の元に由佳が駆け寄った。
「大丈夫?」
「なんとか・・・迎えに来てもらえてワイは幸せもんやな、マイ・ワイフ」
「冗談言えるくらいなら平気ね」
そう言うと由佳は手を離し戻ってしまった。
「な、なんやそれ!!手ぇ貸してくれるんとちゃうんかいな!」
「自分で歩きなさい」
丘の上から笑い声が聞こえた。見るとパイフーたちが腹を抱えて笑っている。
「なんやねん、もう!!」
「フフフ。ホラ、掴まって」
そう言うと由佳は手を差し出した。なんだかんだで優しい由佳である。
マグマの中に落ちたゲノムの身体は再生を繰り返し這い上がってきた。
これで火口に残ったのはウルとゲノムだけである。
「長い戦いだった」
「コロス・・・コロスコロスコロス!」
「終いにしよう。これで全てが終わる」
ウル、ゲノム。両者の姿は立ち込める煙の中で衝突した。
END




