22.〜強豪探し〜
主の戻った煉獄の地下に地響きが轟く。まるで人々の憎しみを溜め込んだようなマグマが流れる。
久しぶりに激しい運動を繰り返し、体力の消耗したゲノムは、そのマグマの中で身を屈めた。
夥しい数の怨念が支配するこの醜い身体は、連続して動く事が出来ない。
圧倒的な強さを誇るゲノムでも、その辺だけは唯一の弱点である。
携帯電話の充電をするように、疲労するとこのマグマに身を沈めなければならなかった。
だがしかし、もはや焦る事はない。ゲノムが動かなくとも、最大の標的は自分からやって来るだろう。
そのターゲットを始末した後、この魔界を破壊し、表の世界へ出る。
そのためにはヤツを始末しなきゃならない。
我が子であり、我が最大の宿敵「神殺しのウル」を・・・・。
「しばらく使ってなかったから大丈夫かな・・」
ガレージの扉を開けようとした由佳がそう言った。
「最後に使ったのは何時なん?」
「何時だったかな、覚えてないけどもうずいぶん前なのよ」
「それやと動くかどうか心配やな」
由佳がガレージを開けると、そこには一台の車が停めてあった。
「こ、これってブレイドやないか!!」
ブレイドとはトヨタから出ている有名な車種の一つである。
停まっているブレイドには少々ほこりを被っているが、新車同然の代物だ。
「そうよ。魔矢が緊急用に使うためにここに置いているの」
「かぁ〜さすがリアル世界の警視総監やな。所有する車も超一流ってわけかい」
「ところであなた、運転は出来るの?」
「ワイか?ワイはな・・・そりゃまあ・・・なんちゅーか・・・出来ないわけでも無いんやが・・その・・・」
由佳の目が据わっている・・・。
「免許持ってないのね」
「ちょ、まっ、えっと・・・ガハハハ!!ワイ、車の免許無いんや・・・」
「まったく!!ホント、世話が掛かるわね、アンタは!!」
「しゃ、しゃーないやんか。ワイ、車興味無いねん」
「使えない男・・・・」
「そ、そんなぁ〜そないなこと言わんといてぇな〜」
紅・羅刹のコンビよりも、羅刹・由佳の方が芸人向きである。
無論、由佳も本心でそう言っているわけではない。羅刹と言うキャラがすっかり定着しているのだ。
由佳は運転席のドアを開け乗り込んだ。羅刹もそれに続いて助手席に乗り込む。
「由佳ちゃん、免許持ってるんか」
「まあね。トラックだって運転できるわよ」
「ひえぇ〜頼もしいわぁ〜羅刹ちん、ドッキドキ♪」
そう言うと羅刹は目を輝かせた。
「一度死ぬ?」
「じょ、冗談です。ハイ・・・」
抜け目が無いと言うか、緊張が無いと言うか。
「それで、何処行く?」
「そやな。とりあえずメモに書かれているのはパイフー、鬼武、等々力、鮫島の4人や。
魔矢の調べに寄れば、パイフーと鬼武は一緒におる可能性が強い。鮫島は魔界の鍋蓋とか言う場所。
等々力とか言うヤツに関しては消息不明って書かれとるな」
「ここから一番近いのは何処になるんだろう」
「ん〜と、ああ、住所が書かれとるな。一番近場はパイフー・鬼武の二人。ここからすぐ近くや」
「じゃあ、近い場所から行ってみましょう」
「おっしゃ!」
由佳はエンジンを掛けるとブレイドを起動させた。ブランド名の負けない排気量と運転環境である。
「ワイも今度車の免許取りに行こ」
「教官が気に入らないとか言って暴れないようにね」
「そんなぁ、いくらワイでもそないな事せえへんよ」
「そうかしら?」
「そうや。ワイだってやる時はやる男やねん」
「やる・・・が殺るに変わらない事を祈るわ」
「上手い!由佳ちゃんに座布団三枚や!」
何とも緊張感の無い二人である。
目的の場所に辿り着いた羅刹と由佳の目に飛び込んできたのは
まるで月のクレーターのように凹んでいる広大な大地だった。
「なに、これ・・・」
「ここで何かあったんやな。ま、明らかに戦闘やけどな」
大地の凹み具合から察するに、一定の方向から集中的に攻撃したと見て間違いなかった。
更に破壊された大地の規模から推測するに、少なくとも二人以上の人間がいたのは明白である。
「ここで誰かが戦ったのかな」
「多分な。住居がこの辺である事を考慮すると、その中にパイフーと鬼武が含めれていた可能性が高いな」
「魔矢の書いた住所に行ってみよう」
「そうやな」
そこはすぐに見つかった。クレーターから離れる事およそ300メートル。
そこにパイフーと鬼武が居たと思われるアパートがあった。
羅刹は聖魔刀で鍵を外し、中に入った。部屋の中はつい先ほどまで住人がいたような痕跡が残っている。
「どうやらさっきまで人がおったようやな。けど何らかの理由で別の場所へ移動しおったんや」
「あのクレーターが関係しているのかしら」
「そうやろうな。多分二人を襲ってきたんや。勝敗はそうなったか分からへんけど、それが原因で去ったんやな、きっと」
羅刹はしばらく部屋の中を調べた、由佳は外の様子を伺っている。
ベッドが酷く乱れているのが印象的だった。パイフーの鬼武も男だと聞いていたが、まさか同性愛者なのだろうか・・・。
「ねぇ、羅刹。ちょっと来て」
「どないしたんや」
「これ見て」
由佳はブレイドのすぐそばにあったタイヤの後のような痕跡を指差した。
「これってタイヤの跡だと思わない?」
羅刹はブレイドのタイヤと残っていたタイヤの形を見比べた。
「ホンマや。車のタイヤやな」
「思うんだけど、パイフーと鬼武の他に誰かが来たんじゃないかな」
「誰かが来た?」
「うん。この魔界で車を所有しているのって、実は魔矢だけなのよ。この車も魔矢の物だし。
彼以外に、今まで魔界の住人が車を使うなんて聞いたことが無いわ。これにっちを見て」
羅刹は由佳の指差す方向を見た。そこにはわずかだが同じタイヤの跡が残っており、それは西の方角で途切れている。
「ここから西へ向かってるわ」
「ははぁ〜ん。なんとなく見えて来たで。つまりこう言う事や。パイフーと鬼武は何者かを戦っとった。
そこに予期せぬ誰かが車に乗って現れた。二人の部屋に生活臭が残っていた事を考えると
二人はその誰かの車に乗って逃げたんや。戦っていた相手があまりにも強すぎて」
「その戦っていた相手って・・・もしかして・・・」
「ああ、ゲノムやろうな。ゲノムのヤツ、魔矢を倒して紅のとこに行く前に、パイフーと鬼武を相手にしたんや」
「タイヤの跡、調べてみようか」
「そないなこと出来るんか?」
「それがブレイドの秘密なのよ」
由佳は得意げな表情で運転席に戻った。そしてフロントガラスの横についていたモニターをオンにした。
「これはタイヤの痕跡を特定する機会なの。タイヤの痕跡を画像としてアップすると
その車が何処に向かったのか、ある程度判別が付くの」
「ほへぇ〜お利口さんやな」
「魔矢の持っている物って全部便利な物ばかりなのよね」
由佳はタイヤの痕跡を撮影し、画像としてアップした。
するとモニターには「判別痕跡、西の方角。推定場所、魔界処理場」と表示された。
「魔界処理場ってなんや?」
「魔界のゴミ捨て場のような場所。使い古しの機械や武器などがまとめて捨てられる場所よ」
「そこへ向かったっちゅうわけやな」
「そうだと思う。けど、なんで処理場なんかに・・・」
魔界処理場は魔界の最西端にある工場である。中心部ほど人の出入りは激しくは無いが、それなりに栄えている場所だ。
謎の車はその場所へ向かった可能性が強い。
「由佳ちゃんは知ってるんか?その処理場」
「勿論よ。何度か行った事あるしね。行ってみようか」
「レッツラ・ゴーや!」
羅刹と由佳を載せたブレイドは、魔界最西端「魔界処理場」へ向かった。
END




