19.〜最大の危機〜
羅刹の体力はもはや限界だった。既に両足の膝が笑っており、正常ではなくなっている。
だがそれでも羅刹は走った。走らずにはいられなかったのだ。
あの時、魔矢はこの場で迎撃すると言って羅刹一人を戻らせた。
魔矢の言葉が現実となれば、ゲノムが魔矢居る場所から離れる事など有り得ない。
だが現にゲノムは走る羅刹を通り越し、魔界中央部へ向かって行った。
では魔矢はどうなったのか・・・・。
嫌な予感がひしひしと伝わる中、羅刹はようやく元の場所へ戻ってきた。
「う、嘘やろ・・・・・」
道すがら、一部の空間がクレーターのように凹んでいる。その中央部は人間の物と思われる鮮血で真っ赤に染まっていた。
そして血の海のど真ん中に、魔矢がいた。
「魔矢・・・・冗談やろ・・・おい!!魔矢!!」
羅刹は我を忘れて魔矢に駆け寄った。もはや見るも無惨な姿だった。身体中傷だらけの上に、酷い裂傷を負っている。
「魔矢、しっかりしろや!!おい!」
魔矢の身体の上にはもぎ取れたオリハルコン・オロチがシールドの形に変化して置かれている。
とは言えもはや使い物にならない事は一目瞭然だった。オリハルコン・オロチは完全に死んでいる。
では魔矢はどうか・・・。
「魔矢、起きろって!」
羅刹が魔矢の身体を抱き起こし激しく揺すると、わずかだが魔矢の口から呼吸の音が聞こえた。
だがゲノムの攻撃によって目を損傷しているため、瞳は開かなかった。
「ら、羅刹・・・か・・・」
「魔矢!死んだかと思ったで!」
しかし喜んでいる場合ではない。もはや魔矢は虫の息である。一刻も早く適切な処置を施せる場所へ運ぶ必要がある。
「どうして・・・戻った・・・・」
血塗れの魔矢が呻く。
「途中でゲノムがワイを通り越していくのが見えたんや」
「ゲノム・・・が・・・」
「そや。気になって戻ってきたんや」
「ば、馬鹿な・・・・事を・・・・」
「そんなんどうでもええわ!行くぞ!」
そう言うと羅刹は魔矢をおんぶし、歩き出した。
「お前との決着・・・も、もう着けられん・・・ぞ・・・」
「そうかも知れへん。けど、死ぬよりマシやて」
「こんな・・・姿じゃ・・・何の役にも・・立たん・・・」
「せや。せやけどな・・・・お前が死んだら由佳ちゃんはどうなんねん!?」
「由佳・・・・」
光を失った魔矢の瞳がわずかに開いた。
「誰が由佳ちゃんを幸せにすんねん!?由佳ちゃん泣かせたら承知せえへんからな」
「羅刹・・・お、お前は・・・・」
「ええよな、お前は。あんな出来た子に好かれよって。羨ましいわ」
「ま、まだ・・・死ねんか・・・」
「そうや!!もうちょい頑張りぃや!!」
「すまん・・・出来るだけ急いで・・・くれ・・・紅が危ない」
「ああ、分かっとる!」
「さっきの攻撃、凄かったな〜」
自分たちのアジトで外を見ていた紅はしばらく様子を伺った。
紅の言うさっきの攻撃とは、パイフー・鬼武・等々力の三人による攻撃の事だが
その事を紅は知らない。
「だけど、もうすぐここでも同じ事が起こる・・・・」
紅の視線の先にあるモニターにはゲノムの姿が映っていた。紅はそれを見ている。
紅には全てわかっていた。ゲノムが自分を狙っている事を。
そしてゲノムがここへ現れたという事は、魔矢と羅刹は・・・・。
考えたくも無い事実だが、煉獄に向かった魔矢と羅刹が、ゲノムに遭遇していない可能性は極めて低い。
そしてそのゲノムがここへ来たという事は、二人はゲノムに・・・・。
そう考えるのが妥当だったが、紅はそのシナリオを掻き消した。
魔矢と羅刹の二人が揃ってやられるはずがない。紅はそう信じている。
もはや後には引けない。紅はモニターの端にあるボタンを押した。
このボタンはウルに緊急事態を伝える特殊なボタンである。ボタンを押したのと同時に緊急の伝言がウルの持つ携帯電話に繋がるようになっている。
例え留守電でもウルは必ず気付くはずだ。
「ウル、とうとうゲノムがやって来た。これから迎え撃つ。もし生きていたらまた会おうね」
紅はそれだけ吹き込むと、ボタンを解除した。
「もし、生きていられたらの・・・話だけどね」
紅は腰から天叢雲剣を引く抜き、鞘を捨てた。
「この刀を使うのも、今日が最後だね。鮫島のお兄さん、元気かな。最後にもう一度戦ってみたかった」
紅はそれ以外何も持たず外へ出た。
ゲノムはアジトのすぐ前まで来ていた。
「久しぶりじゃん、ゲノム。相変わらず禍々しいね、お前は」
「ウルノナカマ・・・・ミツケタ・・・コロス・・・」
「お前なんかに殺されてたまるか。魔矢と羅刹はどうした!?」
「イマゴロ、アノヨ・・・・」
「そっか。だけどあの世へ行くのはお前だよ、ゲノム!!」
紅は天叢雲剣を両手で構えた。
紅の最後の戦いが始まる。
END




