16.〜絶体絶命。魔矢、暁に散る〜
「はあ・・はああ・・はあ・・・バ、バケモノめ・・・」
勝敗は既に喫していた。羅刹との戦いで満身創痍の魔矢がゲノムに勝てるはずが無かった。
例え万全の状態で戦っても、魔矢一人でどうにかなる相手ではない。
先ほどから攻撃を仕掛けるも、その攻撃は全て命中。だがゲノムの動きに狂いは無かった。
醜悪な姿であるにも関わらず悪知恵の働くゲノムは、下手に動くよりも攻撃を受け止め、その後のカウンターで魔矢を攻めた。
無数に存在する手足による攻撃。同じく無数の口から吐き出される硫酸の異臭。
魔矢にはゲノムの攻撃を防ぎようが無かった。もはやまともに動く事すらままならないのだ。
「こんなところで・・・俺は死ぬのか・・・」
不思議と死に対する恐怖は無かった。家族を失い、それが引き金となって魔界に来た魔矢にとって
恐怖など当の昔に抹殺した感情である。死ぬのが怖いのではない。自分が殺される相手に納得が行かなかった。
一度は封印した相手。その相手に殺される羽目になるとは・・・・。
そうならないよう、事前に計画を練り、なんとか今日まで来たというのに
それがこのゲノムの出現によって無惨に打ち砕かれようとしている。
魔矢はそれが無念でならなかった・・・。
「シヌカ・・・・」
「なに・・・ぐはああっ!!」
突然ゲノムの身体から伸びた鋭利な触手が、魔矢の身体の至る所を貫いた。
腕、足、上半身、下半身。幸いだったのは心臓と頭部には命中しなかった事である。
だがそれでももはや致命傷は避けられない。
「がああああああっ!!!!」
かつてない悲鳴が魔矢の口から放たれた。身体の至る部分に穴が開き、その穴から夥しいほどの血液が流れる。
だがそれだけではなかった。ゲノムから伸びた触手は、そのまま魔矢の眼球をかすめて元に戻った。
魔矢の両目から血が流れ、もはや光を受ける事は出来なかった。
「目が・・・・・ぐうう・・・」
暗闇の支配する視界の中で、由佳が静かに微笑んでいた。
魔矢はもう動けなかった。とてもじゃないが立ち上がれる状態ではない。
しかしゲノムの攻撃は止まらない。再び伸びた触手は今度は魔矢の両腕を意図も簡単に貫いた。
悲鳴・断末魔の声は出なかった。ただ唯一動いたのは激しい痛みに大きく痙攣した己の肉体のみ。
これによって装着していたオリハルコン・オロチは無惨にもぎ取られ、左肩を失った。
激しい痛みのせいで声も出なかった。
(由佳・・・・)
結局誰も守れなかったのだ。家族を失い、魔界で出会った由佳さえも守れず・・。
「トドメ・・・・・」
ゲノムはそういうと、信じられない高さまで飛び上がり、自らの体重を味方に付け一気に下降した。
その下には魔矢が横たわっている。ゲノムは魔矢目掛けて真っ逆さまに落ちてくる。
光を失った魔矢の目に、上空で燦々と光る太陽の熱を感じた。
もはや意識は朦朧としている。これが死なのだろうか・・・。
(ウル・・・・紅・・・由佳・・・羅刹・・後を・・たの・・)
現実は魔矢に別れの言葉すら言わせなかった。
まさにその時、上空に舞い上がったゲノムが、魔矢の身体の上に落下した。
「がはああああっ!!」
それが魔矢の最後の悲鳴だった・・・。
魔矢と別れてどれくらい経ったか分からない。
魔界の中心部へと向かっている羅刹の身体からは血が噴き出ていた。
魔矢との戦いで満身創痍だった身体はやはり限界だった。走っている最中に全ての傷口が開き、血がほとばしる。
「これじゃなんのために由佳ちゃんに手当てしてもろうたのか、わからへんぞ・・・」
羅刹は躓き、前のめりになって倒れてしまった。
「くそ・・・なんでワイが・・こんな目に・・・」
羅刹にはやらばければならない事がある。ゲノム復活を紅に、そしてウルに伝えるという役目が。
だがその役目すら果たせそうに無い。凄まじい痛みが身体を走り、体力が奪われてゆく。
しかし、ちょうどそのときだった。
「な、なんや・・・」
地震のような地響きが巻き起こると、羅刹の遥か後方から何かがこちらに向かって移動してくるのが見えた。
「あれは・・・ゲ、ゲノム!?」
もはや見間違える事などなかった。それはゲノムだった。
ゲノムは凄まじいスピードで羅刹を追い越すと、そのまま魔界の中心部へ去って行った。
「ど、どういうことや・・・魔矢はどないなってん!?」
ゲノムは魔矢が食い止めているはずである。にも拘らずそのゲノムはたった今通過して行った。
という事は魔矢は・・・・。
「じょ、冗談やないで!!あのヤロー、死によったら承知せえへんぞ!!」
羅刹は渾身の力を込め立ち上がると、今来た道を戻って行った。
「魔矢・・・お前まさか死んだんちゃうやろな」
身体の傷などもはやどうでも良かった。羅刹は痛みを堪えながら大急ぎで魔矢の下へ向かった。
END




