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神殺し  作者: 雷禅 神衣
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1.神殺し「ウル」

仕事が終わった後に乗るエレベーターと言うのは実に心地悪い。

何処かでシャワーでも浴びれば石鹸の香りに包まれて気分も良いのだが

生憎とそのような時間を持たないこの男は、いつもこの血生臭いエレベーターの個室が嫌だった。

男が押した先は地下4階。エレベーターは起動の音を静かに響かせ下へと向かった。

男は革ジャンのジッパーを下に降ろすと、真っ白だったTシャツが真っ赤に染まっているのを見て、口元を歪ませた。

無論、それは自分の血ではない。これはあくまで返り血であって男は無傷だ。

革ジャンの内ポケットは改良されており、小型の斧や鉈、サバイバルナイフなどが納まっている。

そのどれもが血で染まっており、ポタポタとエレベーターの床に滴り落ちた。

床には以前にも同じように血が落ちた跡がいくつも残されており、どれも赤と言うよりはドス黒く染まっている。

もはや床は本来の色彩を失っており、床からも血生臭い異臭が漂っている。

見飽きた光景だが、この光景こそが男の仕事を象徴する証でもあった。

エレベーターが目的の地下4階を告げると、鋼鉄の扉が開いた。

男はすぐ目の前にある緑色のドアを開き、中に入った。

「お疲れさん、ウル。仕事はどうだった?」

「まずまずだ。目的は達成した」

「そうみたいだね。さっき銀行の口座に約束の金が全額振り込まれていたよ。

それにしても相変わらず酷い姿だね」

「俺の見た目はお前の心の中と同じだろ?紅」

「アハハ、まあそうだけどね」

男の事を「ウル」と呼んだこの青年の名は「矢吹 紅」(やぶき くれない)歳は27歳とまだ若い青年だ。

目鼻立ちの整った美青年で、髪の毛はセミロング。ブラウンに染めた髪の毛は潤いがあり

背後から彼を見ると男なのか女なのか判別が付かない容姿となる。

頭脳面積でいつもパソコンと向かい合っており、殺し屋を背負うウルの良きパートナーだ。

そして「ウル」と呼ばれたこの大柄な男の本名は「鉄 麗」(くろがね うるは)歳は34歳。

紅は麗のうるを取ってニックネームの「ウル」と彼を呼んでいる。

「それで今回は何人殺ったんだっけ?」

「20人だ」

「わお!後11人殺ってたらギネス更新だったね」

「そうなのか?」

「そうだよ、惜しいな〜もっと殺せば良かったのに」

「俺は依頼主のターゲットしか殺らない。それが殺し屋の信念ってもんだ。ちょっとシャワーを浴びてくる」

そう言うとウルは別の部屋から着替えを持ち、浴室へと消えて行った。


とても尋常ではない会話だが、紅とウルは「そういう世界」にいるのだ。

光溢れる表の世界とは似ても似付かぬ裏の世界。

そう、彼ら裏社会ではこの世界の事を「魔界」と呼び合っている。

一般的に裏社会と言えば闇の売買やヤクザ、暴力団などが挙げられるが

紅やウルのいる世界は、それよりも更に極悪な世界。魔界に比べたらヤクザや暴力団など子供のような存在に過ぎない。

裏社会を「悪」とするのなら、魔界は「魔」である。

既に人間である事を超越し、残虐な行為に対し何の抵抗を持たなくなった狂人たちが始めて踏み込む世界

それが「魔界」である。

この魔界では殺人など日常茶飯事だ。そもそも人を殺す事に悪など感じるはずも無く、人間が蟻を踏み潰すのと同じように

そして人々がゴキブリを殺すのと同じように、人間を殺す事は日常の常だった。

正常な人間社会に存在する秩序も無ければ優しさもない。そこにあるのは残虐の二文字だけだ。

そんな魔界の頂点に君臨するのがウルなのだ。彼は魔界では「神殺しのウル」と呼ばれており

同じ魔界の殺人鬼たちから恐れられている。ウルが目の前に現れる事、それ即ち「絶対的な死」を意味する。

ウルの手に掛かり、生き延びた人間は誰一人存在しない。

「神殺しのウル」と言う異名は「神さえ殺しかねない」と言う表現から付けられた名である。

そんなウルを支える良きパートナーの一人が紅であり、彼もまた魔界では恐れられている存在だ。

もう一人パートナーがいるのだが、今は席を外しているらしかった。


「金額はどのくらいまで膨れ上がった?」

シャワーから出てきたウルが紅に聞いた。

「総金額136億。そろそろ銀行の口座を増やした方が良いかもね。あまり金額が大きすぎると怪しまれる。

ちなみにこの金額を得るためにウルが殺した人間の合計は・・・398人だね」

「まだ398人か、意外と少ないんだな」

「アハハ、表の世界ではもう列記としたシリアルキラーだよ。だから余計にギネスを狙って欲しかったんだよね」

「簡単に言うなよ。殺る方は苦労するんだぜ」

「嘘だぁ〜いつも笑って殺すくせに」

「ハハハ、それより警察の方はどうなってる」

「調べてみるかい?」

「ああ」

紅は目の前にあるパソコンに居直った。

画面には警視庁のサイトが開かれ、そして本来アクセス出来ないページへ飛んだ。

そこには全国で起こった殺人事件に関する情報がリアルタイムで更新されるという

警視庁内部の人間のみがアクセスできるページだった。

優秀な頭脳を持つ紅のハッキングによって成せる業だ。高度な知識を持つ紅にとって

警視庁の規制サイトにアクセスすることなど動作も無い事だった。

「あった、これだね」

紅は画面の一部分を指で示した。そこには「20人殺し」と打ち込まれており、事件に関する詳細が掲載されていた。

「やっぱり魔矢が上手くやったんだろうね、ウルに関する情報は何一つ得られて無いみたい」

「20人殺しの容疑者に関する目撃情報、未だ無し。犯人像見当付かず・・・か」

ここで言われる「魔矢」(まや)と言う人間こそがウルを慕う最後のパートナーである。

「警察も俺の存在には気付けないか。まあそうだろう。魔矢は警視庁の警視総監だからな」

「凄い話だよね。本来人を守るべき警視総監が、実は魔界の住人なんてさ」

「ま、だからこそ俺たちの存在は闇に葬られる」

「まあね。魔矢には感謝しなきゃ」

「人が居ないところで感謝されても嬉しくないな」

突然部屋のドアが開いたかと思うと、そこには魔矢が立っていた。

「魔矢。今日はもう仕事は終わりなの?」

紅が聞いた。

「ああ。いくら警視総監と言えどある程度帰りの時間を制限しなきゃやってられんからな」

魔矢は少々疲れた様子で言った。

「お疲れだったな、ウル」

「ああ。俺の痕跡は残ってなかっただろ?」

「20人殺しの件だな。勿論だ。俺が現場に到着したときには既にお前は去った後だったし

証拠も一切無かったから、事件調書を書き換える必要も無かったさ。その辺はさすがだな。

んで、今回の殺しでいくら入ったんだ?」

「今回だけで3億入った。なんせ20人と言うデタラメな数だったんでな。それ相応の金額を提示した」

「そうかい。それはそうとお前、先日東京の指定暴力団(山村組)の連中を殺っただろ?」

「そうなの?それは初耳だけど」

紅がウルを見て言った。

「ああ、あの連中か。そうだ、俺が殺った。気に食わなかったもんでな」

「何が気に食わなかったんだ?」

「あの連中、都心で年寄り相手に恐喝をしてたんだよ。ムカッと来てね」

「魔界の神殺しの異名を取るお前が、年寄り一人に同情したのかよ」

「俺は子供と年寄りは好きなんだ。なんだ?殺ってまずかったのか?」

「仕事以外であまり殺しをするなよ。特に山村組ほどの巨大な組織を潰すと、他の組の連中が舞い上がるんだ。

いよいよ自分たちの時代が来たってな感じで。しかもお前、かなり残虐なやり方で殺ったよな?」

「なになに、どう殺したわけ?」

「別に普通さ。首を同体から引き千切って舌を引っこ抜いた。ただそれだけのことさ」

「うへぇ〜痛そう」

「まったく頼むぜ。今度暴力団を殺るときは、俺に一声掛けてくれ。揉み消すのが大変なんだ」

「分かったよ、すまんすまん」

「ところでお前たち、この二人組みを知っているか?」

魔矢はそう言うと一枚の写真を取り出し、ウルと紅に渡した。

写真には二人組みの男が映っている。

一人は身長190cmほどの男で筋骨隆々のモンスターでヴァンパイアにも見える。

分厚い胸には、鎖を食いちぎる大虎の刺青が刻まれ、背中には赤い女郎蜘蛛が、大きな蜘蛛の巣に乗っている刺青が施されている。

髪はぼさぼさで目はギョロ目。大きな口に、鋭い牙。その姿は、まるで野生の大虎を思わせる重量感と威圧感を放っている。

もう一人は対照的で紅のような美青年だった。身長は175cmほどでその美貌は小悪魔的だ。

すっきりとしたショートヘアに白い素肌。背中から右肩にかけて、怪しげな蜘蛛の巣の上に止まる黒い蝶の刺青があり

左の乳首には黒い茨の刺青があるようだ。

ウルはまったく見覚えが無く写真を紅に渡した。紅の知らないようで首を傾げている。

「この二人がどうかしたのか?」

ウルが魔矢に聞いた。

「その二人はお前のファンだそうだ」

「ファンだって!?」

紅が叫んだ。

「左側に映っている筋骨隆々のモンスターはパイフー(白虎)と言う男。

右側に映っている美青年は鬼武と言う男だ。二人とも最近魔界に入った新参者だが、なかなかの殺人鬼たちでな。

ウルのやった20人殺しの現場に、ウルが去った後に訪れている姿を目撃されている。

どういう経緯でウルの存在を知ったのかは不明だが、お前とは一度会ってみたいと話していたらしい」

「ほう」

ウルはあまり興味を示していない様子だった。

「それでこの二人はどんな殺しをやるの?」

紅だけは興味を持ったようで魔矢に聞いた。

「パイフーの方はウルと似ていて、武器よりも素手で相手を殺す事のが好きみたいだな。

特に自分よりも強そうな相手や屈強の男を相手にする性格らしい。

鬼武に関しては詳しい詳細はあまり無いんだが、時折対空ミサイル・スティンガーFIM−92Aを持ち出したり

ロケットランチャー振り回す事があるらしい」

「なんだかハチャメチャだね」

「だからこそ魔界に入れたんだろう。この二人はウル、お前を尊敬しているらしい」

「そうかい」

「あれ?ウルは興味無さげだね」

「ま、この二人組みが神殺しのウルに喧嘩を売らない事を祈るよ。尊敬しているらしいからその心配は無いだろうけどな」

「でもどうするの?ウル。もし何処かでこの二人と出くわしたら、殺る?」

「別に。俺は依頼主のターゲットを殺す事が仕事だ。関係の無い人間まで巻き込む気は無いが・・・」

「無いが?」

「その二人の出方によっては変わってくる」

「要するにちょっかい出さなければ何もしないと言うわけだな」

「そうだ」

「じゃあもし普通に話し掛けてきたら?」

「その時は普通に話し返すだけさ」

ウルはそう言うと立ち上がりドアへと近づいた。

「何処行くんだ?」

「次の仕事だ。殺しの依頼はもう一件あってな。そろそろ時間なんだ」

「次は何人殺るんだ?」

「今回は8人だ。じゃあな」

そう言うとウルは様々な武器が仕込んであるジャケットを羽織り、出て行った。

「ウルを尊敬する二人の男か。僕はちょっと興味あるな〜」

紅が楽しそうに言った。

「ウルは相変わらず一匹狼だな」

「うん。それが神殺しのウルたる由縁だからね」


ウルは今日も動き出す。

その先に殺戮と言う二文字が待っている「地獄の最終地」へ・・・。


END

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