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まるで変態のバーゲンセールだな……

 僕はビャッコをギュッと抱きしめた———————のではなく、手をそっと、優しく握った。


 おそらく、“ギュッ”という擬音語を見たり聞いたりすれば、大半の者は「抱きしめてる」「抱き合ってる」などロマンチックなハグの印象を思い浮かべるであろう。

 (個人的な意見です。)


 だが残念。ビャッコを正気に戻すには、彼女の手をそっと握るくらいがちょうどいいのだ。

 過度な対処は反ってビャッコを興奮させるだけだしな。


 さて、ビャッコの反応は———————


「は、はわわ……! はわわわ……」


 ———————めっちゃ困惑してる。かわいい。

 普段からこうなら、好感が今以上に持てるのだがな……。


 仕方ないか、と思っていると手に熱を感じる。


「せ、セイリュウ君……」

「お、ビャッコ。気が付い……?」


 ようやく我に返ったビャッコに、僕は安心———————と思ったが。


「はぁ、はぁ……しぇ、しぇいりゅうくぅん……♡」


 ビャッコが火照らせた顔でこちらに振り向く。

 先程まで僕を睨んでいた目は、とろんと溶けている様なたれ目になり、暗かった表情は一瞬で盛りを迎えた雌の表情に一変。


 どことなくエロスを感じる顔だ……。


「びゃ、ビャッコ? どした? 絵面的に色々問題なんだが……」

「はぁ……♡ なんかね、しぇいりゅうくんが……私の手を、握ってくれたからぁ……私、とっても幸しぇで……もう、限界なのぉ♡」


 知らん。


 この変態イベントは色んな意味で危ないと察した僕は、ビャッコの手から離れようとした———————が、何故か手が動かない。


「あ、離れちゃ駄目ぇ……♡ ずっと()()()()するのぉ♡」


 あ! こいつ、いつの間にか恋人繋ぎしてやがる!

 しかも結構力強い!


「しぇいりゅうくんの、しぇいで……私、もう……だめなのぉ……♡」


 だから知らん。


「ま、待てビャッコ……! な、何をしようと……!」

「らってぇ……♡」


 もじもじするなぁやめろぉ! 余計に色々心配になってきたじゃないか!


「一回放して⁈ お願い放して⁈ スザクが凄い冷たい目でこっち見てるから放してください⁈」

「やらぁ……! やらぁ……! いっしょなのぉ……!♡」


 痛い痛い痛い! 握力強いから! 痛いから! お手々潰れちゃう!


 もはやアピールを通り越した行動だ。限度ってものが無い。


 ゲンブはぐっすり寝ているし、スザクはいつの間にか淹れた茶を啜り、こちらを凝視している。


 てか(痛い!)ほんと(痛い!)握力(痛い!)すげぇな(痛い!)!? 全然(痛い!)放してく(痛い!)れないんだ(痛い!)けど、この子⁈


「しぇいりゅうくん……♡ ずっと一緒ぉ……♡」

「その前に僕の手、放してお願い‼ 折れる折れる折れる‼」

「にゃんにゃんしようよぉ……♡」

「放せつってんだろぉー!!」


 こんな淫らで身体的に痛い空気は望んでいない! 僕はビャッコを落ち着かせるために手を握ったのに、逆効果じゃねぇかー!!


 僕は初めてかもしれない。自分の下した決断と行動を悔やむのは。


「のぅわわわわわわわわわわーーーーー‼ 嫌だぁぁぁーーーーーーーー‼」


 ◇ ◇ ◇


「……ん、ふわぁ~。寝ちゃったぁ~……、今何時~?」

「一大事……」

「ん~? セーリューどうしたの~? すごい老けてるように見えるけど~? 精神と時の部屋にでも行ったの~?」


 唐突のDBネタ、ありがとう……。


 結局あの後、何とかビャッコの魔の手ならぬ淫手(いんて)から逃れようと色々試行錯誤した結果、解放する代わりに一日だけデートする、という提案にビャッコがまんまと乗り、釈放された。


「ふんふふ~ん♪ デート♡ デート♡」


 見ての通り、本人は上機嫌である。


「なんか……色んな何かを、失った気がする……」

「私が良い夢を見ている間に、大変なことが起こってたんだね~……」

「『もうころせないよ』って物騒な寝言を言うくらいの良い夢って、どんな夢だよ……」


 ゲンブをサイコパス認定しても不思議ではない気がしてきた。


「それを見せられていたあたしの立場も、考えてほしいものだわ」


 考えられる暇が無い程の修羅場であったと察してほしい。

 何とか貞操と手の骨は守れたが、もう一連のトラブルで疲れてしまった……。もう別に、しりとりとかどうでもよくなってきた……。


 僕は先が思いやられる気持ちでいっぱいだった。

 それに比べ———————


「ら、ら……『ラッキー』!」


 スザクは大いに楽しんでいる。

 僕が彼女の無邪気さに感服した次の瞬間——————————————


 バサッ


 突如、スザクの前に何かが落下する。


「? これって……」


 彼女が落下してきたそれを手に取る。

 紙の束。一瞬では何なのか分からなかったが、よく見るとそれは——————


「お、お金……だよね?」

「百万円だよ~」

「そ、空から百万円が落ちて来たわ!」

「嘘つけぇ!」


 いやいやいやいや⁈ おかしいだろ⁈ 何で天から札束が落下してくるんだよ⁈ ここ室内だぞ⁈

 ていうかスザク。何しれっと『親方! 空から女の子が!』みたいなノリで言ってるんだよ⁈


「これももしかして、ゲンブちゃんの……?」

「そだよ~。()()()()だね~スザク」


 うん。知ってた。


「なあ、ゲンブ? ラッキーを実現させたのは良いが……何故、札束なんだ?」


 確かに大金が落ちてくるのは、(もの)によっては幸運かもしれないが、普通はラッキーって思う前に気味悪がるだろ?

 アイスの当たり棒が当たったー、とか。


「ん~私は~別にお金とか金銭には興味は無いんだけどさ~」

「ここにいる全員が同じ心意だと思うぞ」

「でも~、結局~、世の中~お金じゃ~ん?」

「はっきりと言ったわね……」


 まあ、確かに。ほとんどの世界や文明が、お金という通貨で流通されているからな。必要不可欠ではあるよな。


「すると~? それに依存しちゃう輩も~出てくるよね~?」

「可能性はあるな」

「でね~、金に溺れる醜い奴らにひと時の夢で更に深く溺れているところをみたいな~って思ったの~。だから」


 うわぁー、さらっとえげつない事言ったー……サイコパスゲンブのお出ましだー。

 ものすごい怖い方向の好奇心が疼いてらっしゃるご様子。


 本当にゲンブは時々、予測不可能な言動をする。

 敵に回してはいけない存在と言えよう。


「ほんとにゲンブって、時々ヤバい事言うわよね」

「そっかな~? 普通だよ~」

「ゲンブにとっての、“普通”の基準が分からない……」

「でも、ゲンブちゃんらしいね」


 それに慣れてしまっている僕らもどうかと思うが……。

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