狂愛眼(ラブリーアイズ)
「次はあたしね! えーっと……」
「『ラ』から始まるぞ」
急な精神衛生の説明で、忘れてしまっているスザク。
先程まで顔面いっぱいに“?マーク”を浮かび上がらせていたような表情をしていたのだからな。仕方ない。
「ら、ら……ラーm「お前まさかラーメンっていうじゃないだろな?」」
ギクッ!と図星のスザク。
「しりとりのルール知ってる?」
「そ、それくらい知ってるわよ! 『ん』が語尾に付いたら駄目なんでしょ」
「でも今ラーメンって「い、言ってないわよ!」」
必死に否定するスザクを見ていると、僕のサディスティックな部分が揺さぶられる。
あれ? 僕ってもしかしてドSなのか?
もしそうなら僕も僕で普通ではないじゃないか……!
「まあまあセイリュウ君、そこら辺にしないとスザクちゃんが泣いちゃいそうだよ?」
「な、泣かないわよ!」
そう言ってる割には涙目になっている気がするのだが?
だがビャッコの言う通り、スザクが本当に泣いてしまいそうな雰囲気を出している
「まあ、今のは僕にも分があった。すまない」
「『も』って何よ! 『も』って!」
「ところでビャッコ。さっきから君はどうして顔を赤くしながら息をきらしているのかな?」
はぁはぁと火照っているビャッコにふれてはいけない。自分でも分かっているのだが、正面から聞こえてうるさいので、気にな———————ほんとに“はぁはぁはぁはぁ”うるさいなー!
「その…………奥というか、おm「ごめん聞こえなかった」」
ちょっと何言ってるのか分かんないですね、と首を傾げてと疑わしき発言を華麗にスルー。
「というか……セイリュウ君って最近、スザクちゃんと一緒にいる事多くない……?」
言われてみれば確かに。ここ最近、僕の近くにスザクがいる確率が多い気がしなくはない。
「一緒にいるというより、単にこいつが付きまとっているだけなんだが……?」
「付きまとってないわよ!」
「……」
不満そうな目でこちらを睨んでいるビャッコが嫉妬心を抱いているのは言うまでもない。
すぐに包丁片手に襲ってこないのは、ビャッコが弱性のヤンデレだからであろう。
前述のような目線で僕を睨みつけるのは、ヤンデレとしてはまだ可愛い方であろう。
ていうか怖い……! さっきからずーっとこっちにガン飛ばしてくるんですけど!!
こういう時はさりげなーく様子を伺うのが得策に違いない……!
正直言いにくいが、ビャッコに「どうしたの?」と聞いてみる。
「セイリュウ君とスザクちゃん……距離感が近い」
「よしスザク離れろ」
「近づいてすらいないじゃない!」
シッ、シッ! と犬を追い払うようにしてスザクと距離を置こうとするが———————
「あんたあたしに喧嘩売ってるの⁈」
————むしろ詰め寄られてしまった。
やめろ! ビャッコの顔が益々嶮しくなるだろ!
くっ! 仕方ない。不本意ではあるがもう一度ゲンブに応援を———————
「zzz……んふふ、もうころせないよ~……」
———————ね、寝とるぅー! そして寝言が怖いー!
一人でこの状況を何とかするしかないようだな……。
重い不安が僕に圧し掛かる。憂鬱が僕にしがみつく。
こんな状態異常で、モンスター二体と対敵しなければいけない。
一方は、独占欲丸出しのたわわな果物。もう一方は、喧嘩腰のまな板。
胸の貧富の格差が見比べて分かるこの二匹の猛獣をどのように対処するか……。
「ちょっと! セイリュウ! 何とか言いなさいよ!」
とりあえず、このうるさい鳥を黙らせよう。
「スザク。悪いが少し黙っててくれないか?」
「あんたのせいでしょ!」
「黙らないとやきとりにするぞ」
「うっ! うぅ……」
スザクが口を噤む。
実をいうとスザクは、“鶏料理の名を聞くと黙る”という謎の習性があり、これは僕たち四獣神に限る。
もし、僕たち以外の誰かがスザクの前で鶏料理を言ってしまうと———————
「燃え尽きろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
———————それを最後に聞いてしまった者は、全身が瀕死になる程の大火傷に見舞われること間違いなし。
スザクが行動不能になった今こそが好機。やきもちを妬いているビャッコを静まらせるなら今の内だ。
「ビャッコ? ひとまずは落ち着いて「落ち着いてるよ」」
凄まじい威圧が彼女から感じられるが、どうしたものか……。
「セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。……」
なんかブツブツ言ってるんですけどぉー⁈
待ってこれでほんとに弱性なの⁈ 結構恐怖なんだけど⁈ キャラ設定ほんとに合ってるの⁈
今のビャッコのヤンデレレベルが“1”だとすれば、“100”とかになったらどうなるの⁈
考えたくも無い事が想像できてしまう。
「仕方ない……」
あまりやりたくはなかったが、現状をどうにかするには止むを得ないか。
この半ばカオスな状況を変える為、僕はブツブツとお経のように唱えているビャッコに近づく。
「セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。」
改めて近くで見ると、鳥肌ものだな……。どのホラーゲームにも負けず劣らないくらいの恐怖を感じるぞ……。
この見たものを全て呪い尽くすような目をしているビャッコを正気に戻すのは、距離を縮める必要がある。
「ビャッコ」
「セイリュウ君は私のもの。セイリュウ君は私のもの。———————」
ギュッ
「————⁈ せ、セイリュウ君⁈」