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幼女元気

 『退屈』。


 その単語が僕の頭の中を駆け巡る。

 今の僕に当てはまる言葉だ。


 何の問題が無いのは良い事である。だが何もする事が無いというのは考え物だ。

 リビングのテーブルに顎を乗せながら、僕は「平和」と「暇」の両方を味わっていた。


 「だらしないわねー」


 だらけていると、前方から声が飛んでくる。

 声色と口調で誰なのかは明白だ。


「なんだ、スザクか……」


 「なんだって何よ」と頬を膨らませるスザク。

 子供っぽいというか、妹っぽいというか……スザクはどことなく幼さが感じられる行動をする。

 元々、低身長で貧乳というステータスもあっての幼女感かもしれないが。


「そんなにダラダラしてたら、ゲンブみたいになるわよ」

「遠回しにゲンブをディスるなよ……」


 確かにダラダラしている印象はあるけれど、ああ見えて彼女は天才なんだぞ?


「ていうか、そういうスザクはどうなんだ?」

「全然暇じゃないもーん」

「暇だからここに来たんじゃないのか?」

「っ⁈」


 あ、図星だな。

 ギクッと、分かりやすく動揺するスザクに、僕は思わず溜め息が漏れてしまう。


「な、何よ! 何か文句でもあるの!」

「スザク、見栄を張りたいお年頃なのは分かった。でも恥ずかしがる事なんて無いから、安心しろ……」

「あたしをそんな可哀そうな目で見ないでくれる⁈」


 僕なりの気遣いのつもりだったが、やはりそういう反抗的な時期とかなのか?


 なんて可哀想な子なんだ、とまるで悲劇のヒロインを見ている様な目で、もう一度スザクを見る。


「なんてかわいそうな……」

「今言ったわね⁈ はっきりと言ったわよね⁈」

「暇じゃないんだろ? 忙しいんじゃなかったのか?」

「もぉ! そんなに言わなくてもいいでしょー!」


 今にも泣きだしそうなスザクは、剣道が強い割にはメンタルの方は結構弱い。


 大群に武器で攻撃されても平気でノーダメージで返り討ちにするが、大勢に言葉という武器で攻撃されたら泣きそうになってしまうという、多数に責め立てられると彼女は勝てない。


 要するに、口喧嘩に弱いのだ。


 どれだけ力が強くても、心と語彙力が弱ければ、無意味に等しい。彼女自身もよく理解している筈だ。


「正直に言ったらどうだ? 見栄なんて張らなくても、誰も笑ったりしないから」

「み、見栄なんて……ほんと?」

「男に二言はない。」

「……暇、です」

「……ップ! あ、ごめ「笑った! 絶対笑った!」」


 素直すぎて吹き出してしまった。


「もうセイリュウなんて知らない!」


 スザクはそう言って、プイっとそっぽを向いて拗ねた。

 本当に子供っぽいやつだ。


 とはいえ、今のは完全に僕が悪いので謝罪しなければならない。


 まるで高値の美術品にでも触れるかのように、スザクの機嫌を損ねぬよう、慎重に僕は謝罪する。


「スザク、僕が悪かったから機嫌を直してくれないか?」

「ふんっ! 謝るなら『ごめんなさい』って言うことを知らないの?」


 若干、嫌味染みたことを言われたが、向こうが正しい……。

 子供でも知っている常識が、どうやらできてなかったようだな。こいつにそんな正論を言われる日が来るなんて思いもしなかった。


「剣道トレーニングと豊胸トレーニングにしか脳が無い君に、そんな真っ当なことを言われるとはな……」

「……? っ! な、ななななんで、そ、()()知ってるのよ!?」


 夜の見回りをしている時、スザクの部屋の前を通りかかると———————


『これで、ほんとに胸、大きくなるの……?』


 ————って聞こえてきた。

 ビャッコといい、スザクといい、君たちは一体、隠れて何をしているのだ……!


「でも、あれだ。『大は小を兼ねる』と言うが、そうじゃない例もあるから気にするな?」

「慰めにもなってないんだけど!?」


 どうか慰めの一言だと思っておいてくれ。

 

 ただこれ以上は平らな胸について触れるのは止しておこう。スザクの逆鱗に触れかねないからな。


「あんた謝る気ないでしょ!? ふんっ! どーせあたしの胸は、小さいですよーっだ!」


 アッカンベー、と不機嫌な子どもの様にスザクが舌を出す。


 本当に子供っぽいなこいつ。どうしてやる事成す事ロリ要素を高めるのだろうか? もしかしてそういう呪いにでもかかっているのか?


 一応この世界は、解呪や回復のなど医療方法の一つとして、魔術や魔法が法律上認められている。


 だが最近、ゲンブの様に発明家や科学者が増加傾向にあり、医療業界は最先端の医療機器や薬草が不要の薬品(ポーション)の試作等により、前述での医療での解決は減少傾向になりつつある。


 僕は医師の免許を持っているため、正直、負傷者が治るのであればどっちでもいい心情である。


「とりあえず、スザクに解呪の魔法を「何も呪われてないわよ!」」


 即答だった。


「まったく……あんた、ちゃんと反省する気あるの?」

「それなりにはある」

「絶対ないでしょ……はぁ、なんか怒るのが馬鹿らしくなってきたわ……」


 呆れている様子のスザクはキッチンに移動し、冷蔵庫から買い溜めておいたオレンジジュースのアルミ缶を取り出す。


「ねえ、ビャッコとゲンブは?」

「ビャッコは洗濯物を干しに外、ゲンブは部屋」


 今日の洗濯当番はビャッコ。

 また下着や服が盗まれないかという心配はあるが、まあ前回の事でもうそんな愚行は働かないだろう。


 ビャッコの善良な乙女心を信じる僕は、ぐでたたまごの様になっていた体を起こし、自分もオレンジジュースを嗜むことにする。


「ふーん、そっか」とジュースを一気に飲み干したスザクは、空き缶をちゃんと分別してごみ箱に捨てる。


「じゃあセイリュウ! 外で遊びましょうよ!」


 ……なぜそうなる?


 唐突の誘いに思わず口が開いてしまう。

 おそらく、はたから見たら僕は埴輪(はにわ)と同じ表情をしているに違いない。

 気が抜けたような顔で、スザクの発言にどう対処すればいいのか、現状困っている。


「ほ、ほら! 外はこんないい天気なんだしさ! 体を動かしたほうがいいでしょ!」


 納得のいかない理由を聞いても、開いた口が塞がらない。


 君はあれか? 昔よく見かけたタンクトップと半ズボン姿で外を走り回っている子どもか?

 小学生レベルの思考なのか? 今すぐ現代思考にアップグレードしろ、古いぞ。


 どうして自ら疲労行為に走らなければならない? モンスターをハンターする世界なら、そんな無駄なことはしない。


 スタミナがゼロになるという事は、『死』を意味するんだぞ?

 走ることもできないし、回避行動もできない、双剣で鬼人化して無双してストレス解消することもできないんだぞ!?


 こんがり肉とか食えば別だけど。


 頭の中でゲーム知識を働かせながら、窓の外を眺める。


 確かにいい天気だ。雲一つない快晴、太陽の光が屋敷の外の草原の草たちを光らせている。


「暇なんでしょ~! 運動しないと太るよ~!」


 どこか連れてってよ~、と休日のお父さんに外出をねだる子供のように、スザクが僕の体を揺さぶる。


 全世界の、家庭を持つお父さん。お気持ち、お察しします。

 こんな気持ちなんですね……。


 父性に目覚めかける僕であったが、奥さん誰だよ、とふと思い我に返ることができた。


 スザクの幼女的スキルか? やっぱ呪いじゃねーか。

 いつかスザクの事を『義理の娘』として認識しそうで怖い。

 それに、こんなわんぱくガールと一緒にいたら体力がもたない。


「一人で遊べばいいだろう」

「そんなのつまらないじゃない!」

「『ひとりかくれんぼ』はどうだ?」

「それ怖いやつでしょ⁈」


 最近ホラーゲームばかりをプレイしているせいなのか、都市伝説や怖い話に詳しくなってしまった。

 ちなみに『サイコハザード』というホラーゲームに最近ハマっている。


 シリーズも結構出ている超大作で、最新作はグラフィックといい、迫力といい、とてもゲームとは思えない程のクオリティであるため、時間を忘れてやり込んでしまう。


 本当に面白い作品だ。


「ねー、どうせ何もする事ないんでしょー?」


 どうせって何だ、どうせって。まるで僕が暇神(ひまじん)みたいじゃないか、やめろ。


 だが、どうしたものか……。サイコハザードを含め、以前に大量買いをして備蓄していた数多のゲームも、ノーコンティニューで全クリしてしまったし。


 プラモデルに関しても、積みプラを全て消化してしまったし……あれ? もしかしてこれ、詰みじゃね?


「あれれ? 二人揃って、どうかしたの~?」


 八方塞がりかと思われたその時、相も変わらずおっとりとした表情で、ゲンブが現れた。


「ゲンブ! 丁度いいところに来たわね!」

「どったの~?」

「聞いてよ! セイリュウが外で一緒に遊んでくれないの!」


 僕はスザクを見て思った。

 こいつ、まるで先生にチクってる幼稚園児みたいだなと。

 ……やべぇ、そう思ったら笑いが堪えられん。


 僕は溢れ出てくる笑いを抑えるため、顔が引きつりながらも、ゲンブの反応を見る。


 ス、スザクにww 賛ww同するwwのか? ww


「外で遊ぶよりも、ずっと楽しい事があるよ~」

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