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走れスザク

 玄関に着いたが、スザクの姿は見当たらない。

 どうやらまだ来ていないようだ。


 待っていれば、そのうち来るだろう。

 でも……その間、暇だな。


 そう思った僕は、玄関の外で暇を潰すことに決めた。

 中で待っていても良いが、見慣れている景色の中で待たされ続けるのは、それはそれで苦痛だ。

 よって、少しでも景色が変化していく外の方が、最適だ。


「少し暗いだろうがな……」


 玄関の戸を開け、外に出る。まだ暖かい季節だというのに少し肌寒い。

 まだ早朝六時前、冷たい大気が肌に触れる。


 予想通り、外は暗い。真っ暗とまではいかないが、藍色の空だ。

 藍色に染まる大空に、遠くに見える地平線が白んでいるのが分かる。


「あー、朝だなー」


 呑気な声で空を眺める。


 これこれ。この静寂な時間。“夜の空”が“朝の空”に変わる幻想的な空と、のどかな草原……。

 このまま行く末を眺め——————————————


「待たせたわねセイリュウ!」


 ——————————————……。


「さ! ジョギングの前に準備運動よ!」

「……」

「な、何よ……! どうしてあたしを睨むのよ……!」


 嗚呼、呪いたい……。何とは言わないけど呪いたい……。


「あたし何もしてないわよ!」

「してるよ」

「じゃあ、何したって言うのよ!」

「ぶち壊した」

「何を⁈」


 眠いし、景色の観賞を邪魔されるし、これから疲れるし……まあ、悪意があっての行動では無いのは明らかだ。善意でも無いだろうが……。


「あ! さてはまだ顔洗ってないんでしょ!」

「お前さっき一緒に歯磨きしただろ」


 鳥頭なのかな?


「あんた、何か怒ってんの?」

「怒ってないよ?」

「そ、そう? なんかとてつもない殺気が感じられr」

「怒ってないよ?」


 怒ってない。別に怒ってなんかない。

 血圧をあげてもないし、ストレスなんて感じちゃいない。

 穏やかな心。平常心を常に意識している僕には、呪い殺してやりたいなどと思ってないし、怒りの感情なんて感じてない。


「それにスザクに怒ったところで……その程度だよな」

「ちょっと待って。遠回しにあたしのこと見下したわよね⁈」

「よし、準備運動だ。先ずは屈伸だな」

「もぉー! 何なのよぉー!」


 とっとと終わらせて、少しだけ寝よ。

 面倒事は早急に片づける、これに越したことは無い。


「ふん! 良いもーんだ! ばてても助けてやらないもんね!」


 ブーメランにしか聞こえない……。


 運動神経としては僕よりスザクの方が優れているが、体力的な面では僕の方が優勢だ。

 シャトルランとかでも、記録はスザクの出した記録より良かった方だしな。


「はいはい。分かったから、準備運動始めるぞ」



 二分後



「それじゃあ! そろそろ始めるわよ!」


 たかがジョギング如きに、テンション上げすぎだろ……。何故そんな祭り気分なんだ。


 準備運動が終わり、いよいよスザクとのジョギングが始まってしまった。

 本人は楽しそうで何よりなのだが、今が何時なのか分かっているのだろうか?

 よくもまあ朝っぱらからバイブスがあげられるものだ。


「ほらセイリュウ! 早くしないと置いて行くわよ!」


 あー置いてかれるのかー、じゃあ仕方ないなー帰るかー(棒読み)。


「ちょ! あんた! なに勝手に帰ろうとしてんのよー! 帰るなんて許さないわよ!」


 これを俗に“スパルタ”と言うのだろうな。

 もしくはブラック企業かな。



 ◇ ◇ ◇



「ハァ……ハァ……ハァ……」


 走り始めてから約三十分。

 道を踏む足音と自分とスザクの呼吸だけが耳に入る。


 コースとしては屋敷から約22キロメートル離れている公園までという、なかなかの距離だ。

 しかも公園に着いたら着いたで、スザクと体術勝負と剣道の修練、そして筋トレの三重トレーニングが待ち構えており、尚且つ帰る際も約22キロメートルの距離を走らなければならない。


 何だこの疲労のフルコースは……! だから嫌なんだ! こいつのジョギングに付き合うのは! こんな鬼畜メニューに従うくらいなら、ゲンブの危ない化学実験のお手伝いをしてる方がよっぽど良い!

 あー……、何やってるんだろう僕……。


 朝の空を仰ぎ見る。


「どうしたのセイリュウ。もうばてちゃったの? ハァ……ハァ……」

「あー、疲れて来たなー。もうダメだ、おしまいだぁ~。(棒読み)」

「まだ、余裕そうね」


 まあ、密かに自分のペースでトレーニングしているのでね。伊達に何度も格闘技大会で優勝していないからな。


「まあ、あたしもまだいけるし……!」

「ほんとに大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫よこれくらい!」

「そうか? 最悪の場合、おぶってやるぞ?」


 スザクは無理をする事があるからな。一応は気にかけておかないと、突然ぶっ倒れられては困る。


「今あんた、あたしが『無理しそう』って思ったでしょ?」


 こんな状況下でも僕の思っていることが分かるのかよ……。

 変なところで勘が鋭いからな、こいつ……。


 スザクは負けず嫌いな性格故なのか、自身の体の限界を無理矢理にでも超えようとする傾向がある。

 誰よりも上へ、誰よりも高みへ目指す。

 そんな努力家だからこそ、体の調子を壊しそうで心配だ。


「言っとくけど、毎日このコースを走ってるのよ? こんなのあたしにとっちゃ、日常茶飯事よ!」

「へぇー」


 さすがは運動系女子。疲れ知らずなだけかもしれないが、相当鍛えているのだろうな。

 いや、まあ……長い時を一緒に過ごしてきたから、今更なんだけどさ……。

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